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11『幸せの扉叩いて』
7 不安の正体
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****side■電車
『塩田の家、俺も行くから』
帰り際、副社長の皇はそう言った。
『は?』
声をあげたのは板井だ。
塩田から、今日板井が来ることは聞いていたが理由を述べないので何がそうなってこういう状況なのかはわからないが。しかも、皇が用のあるのは電車だと言う。余計にわけがわからない。
──塩田の説明が簡易なのは今に始まったことじゃないけれど。
『皇、板井と仲が良いのか?』
ついでだと言って皇の車で塩田のマンションに向かった一行。塩田は車内では無言だったが、皇と助手席の板井は何やら話しをしていた。
何を思っていたのかその一言で明確になる。
『さ、さあ。ヤキモチ?』
塩田に問われ、思わず思ったことを口にした電車。
要領を得ない質問だが、どちらに妬いているのか明確ではなかったためそんな言い方になってしまう。
『ヤキモチなのか?』
塩田に問い返され電車は肩を竦める。
否定しないのはそんなことを言ってしまう自分の感情の出所が分からないからだろう。そのヤキモチの先が板井になのか皇になのかわからないまま自宅へ到着した。
「二人きりで話がしたいんだが」
すぐに済むと言われ、電車は皇と共に部屋に入って直ぐの客間にいた。
リビングでは塩田と板井が夕飯の準備をしている。後から唯野も来ることになっていた。どうしてこんなことになってしまったのかわからない。
せめて説明があればこんなに困惑せずに済むだろう。何故、板井が急にうちに来ると言ったのかさえ分からない電車はそんな風に思った。
「えっと、話って?」
皇と二人きりになったことのない電車は、いささか緊張していた。
「話があるというよりは、話しをしたほうがいいと思ってさ。何か誤解しているようだから」
「誤解?」
皇は”そうそう”と言うように軽く数度、頷く。
「そんなに構えることないだろ。年だって大して変わらないんだし」
そうは言われても皇は副社長だ。粗相があってクビになってはたまらない。
「まずは、おめでとうと言うべきかな」
「おめでとう?」
「結婚するんだろ、塩田と。昼間本人から聞いたよ」
「あ、うん。ありがとう」
電車は穏やかに微笑む皇を見ていた。言い知れぬ不安に駆られながら。
どうしてそんな風に笑えるのか。穏やかでいられるのか分からなかった。
好いた相手が結婚するというのに。もしかしたら自分の認識が間違っているとでもいうのだろうか?
「副社長は塩田のこと……」
だがその質問は最後まで言うことはできなかった。
「二人して同じこと聞くんだな」
その二人が誰を指しているのか分からず黙り込む電車。
「俺は塩田のことは好きだが、別に何かをする気はないんだ」
「え?」
「何も求めてない。だから電車が心配することは何もないんだよ」
皇は自分を安心させるために話の場を作ろうとしたことに気づく。しかし何ゆえににそんなことをしようとしているのだろうか。
「板井が余計なことを言ったようだな。今日、塩田の様子がおかしかった」
板井が何か言ったから。それが彼が話をしようと思った動機。
電車は口を出さずに彼の話を聞いていたが、
「あ、あの」
自分の持つ不安についてちゃんと話すべきだと思った。
「俺は塩田が副社長に対して特別な感情を持っているように感じるから不安なんだ」
「特別?」
「好きとかそういうのじゃないかも知れないけれど」
皇が積極的に塩田に好意を示しているわけじゃないことは自分だって知っている。だから表向きは穏やかでいられた。
だが不安になる要素が消えたわけではない。
一番の原因はきっと塩田にある。
先程のもきっとそうだ。
板井と皇が仲良さそうに話していると気になる塩田。
彼が何を思ってそんなことを口にするのか、気にするのか分かれば解決もできるだろう。
「ん……なるほどな。ちょっと塩田と二人で話をしても?」
「う、うん」
わざわざ自分に許可を取ろうとする彼に、少し安心する電車。
彼が自分の不安を取り払ってくれると期待をしながらその背中を見送ったのだった。
『塩田の家、俺も行くから』
帰り際、副社長の皇はそう言った。
『は?』
声をあげたのは板井だ。
塩田から、今日板井が来ることは聞いていたが理由を述べないので何がそうなってこういう状況なのかはわからないが。しかも、皇が用のあるのは電車だと言う。余計にわけがわからない。
──塩田の説明が簡易なのは今に始まったことじゃないけれど。
『皇、板井と仲が良いのか?』
ついでだと言って皇の車で塩田のマンションに向かった一行。塩田は車内では無言だったが、皇と助手席の板井は何やら話しをしていた。
何を思っていたのかその一言で明確になる。
『さ、さあ。ヤキモチ?』
塩田に問われ、思わず思ったことを口にした電車。
要領を得ない質問だが、どちらに妬いているのか明確ではなかったためそんな言い方になってしまう。
『ヤキモチなのか?』
塩田に問い返され電車は肩を竦める。
否定しないのはそんなことを言ってしまう自分の感情の出所が分からないからだろう。そのヤキモチの先が板井になのか皇になのかわからないまま自宅へ到着した。
「二人きりで話がしたいんだが」
すぐに済むと言われ、電車は皇と共に部屋に入って直ぐの客間にいた。
リビングでは塩田と板井が夕飯の準備をしている。後から唯野も来ることになっていた。どうしてこんなことになってしまったのかわからない。
せめて説明があればこんなに困惑せずに済むだろう。何故、板井が急にうちに来ると言ったのかさえ分からない電車はそんな風に思った。
「えっと、話って?」
皇と二人きりになったことのない電車は、いささか緊張していた。
「話があるというよりは、話しをしたほうがいいと思ってさ。何か誤解しているようだから」
「誤解?」
皇は”そうそう”と言うように軽く数度、頷く。
「そんなに構えることないだろ。年だって大して変わらないんだし」
そうは言われても皇は副社長だ。粗相があってクビになってはたまらない。
「まずは、おめでとうと言うべきかな」
「おめでとう?」
「結婚するんだろ、塩田と。昼間本人から聞いたよ」
「あ、うん。ありがとう」
電車は穏やかに微笑む皇を見ていた。言い知れぬ不安に駆られながら。
どうしてそんな風に笑えるのか。穏やかでいられるのか分からなかった。
好いた相手が結婚するというのに。もしかしたら自分の認識が間違っているとでもいうのだろうか?
「副社長は塩田のこと……」
だがその質問は最後まで言うことはできなかった。
「二人して同じこと聞くんだな」
その二人が誰を指しているのか分からず黙り込む電車。
「俺は塩田のことは好きだが、別に何かをする気はないんだ」
「え?」
「何も求めてない。だから電車が心配することは何もないんだよ」
皇は自分を安心させるために話の場を作ろうとしたことに気づく。しかし何ゆえににそんなことをしようとしているのだろうか。
「板井が余計なことを言ったようだな。今日、塩田の様子がおかしかった」
板井が何か言ったから。それが彼が話をしようと思った動機。
電車は口を出さずに彼の話を聞いていたが、
「あ、あの」
自分の持つ不安についてちゃんと話すべきだと思った。
「俺は塩田が副社長に対して特別な感情を持っているように感じるから不安なんだ」
「特別?」
「好きとかそういうのじゃないかも知れないけれど」
皇が積極的に塩田に好意を示しているわけじゃないことは自分だって知っている。だから表向きは穏やかでいられた。
だが不安になる要素が消えたわけではない。
一番の原因はきっと塩田にある。
先程のもきっとそうだ。
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彼が何を思ってそんなことを口にするのか、気にするのか分かれば解決もできるだろう。
「ん……なるほどな。ちょっと塩田と二人で話をしても?」
「う、うん」
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