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10『理解と焦燥の狭間』
8 塩田の母と推し
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****side■塩田
「覚悟はできたのか? 紀夫」
翌朝、唯野と板井を車で自宅まで送った電車と塩田。
これから魔王城……もとい、塩田の実家へ向かうため国道へ乗った。
「ホームセンター寄った方が良いかな?」
と彼。
この先一キロ先にホームセンターがあるという看板が見えた。
「何故に?」
「ほら、以前五、六発は殴られるって言ってたし」
と彼。
車内にはFaintが流れている。
「問題ない、他人は殴らない」
「え?」
暗に『殴られるのは俺だ』という意味で言ったのだが、
「それってヘルメット必要じゃない?」
と彼。
一体どういうことだと思っていると、
「家族になったら殴られるってことでしょ?」
と彼はつづけた。
思わず口元を抑える塩田。ただの天然ボケかと思ったらそうではなかったようだ。
今日、実家に向かうのは結婚の承諾を得るため。付き合いの報告も同棲の報告もすっ飛ばして、婚姻の話しなんて持ちだしたら何を言われるのか分からない。
だがこちらには協力なスポンサーがいるのだ。
名前を出しただけで両親が青ざめるほどの相手が。
──あれは見ものだったな。
両親はどうやら『マシンガントーク』というものには太刀打ちできないようだ。我が上司、唯野修二はやはりただ者ではないらしい。
元営業のトップというだけあって、トーク自体も凄いが相手に一言もしゃべらせず二時間一人でしゃべり続けるというのはいかがなものだろうか?
──俺には真似できない芸当だな。
にしても、と塩田は思う。
「だって家族になるんでしょう?」
と電車。
「まあ、そうだが。問題ない、親父が殴る相手は俺だけだから」
”しかも避けられる”と親指を立てると彼が驚いた表情をした。
「なんか不安になって来たよ。手土産何が良いかな」
口元を歪め、前を向く彼。
何がそんなに不安にさせたのだろうか。
「うわッ……噂には聞いていたけれど」
二時間後、二人は塩田邸の門の前にいた。
「すっごい宮廷だね。塩田はお坊ちゃんなの?」
と電車。
「いや、一般家庭」
インターフォンを押しながらそう答える塩田を二度見する彼。
今日、恋人を連れて帰宅するということを母には伝えてある。その後、凄い数のメッセージが送られてきたがあまりの多さに既読スルーした。
──三百八十六件も送ってくるバカがどこの世界にいるんだ。
「はあい……って以往ちゃん?! そこで首を洗って待ってなさいね!」
極めて明るい母の声。日本語の使い方間違ってないか? と思いつつ。
塩田が門に寄りかかって待っていると、一番近い入り口から母が走って門までやってくる。バカでかい家だが、お手伝いさんは一人きり。二十人くらいは雇わないと掃除が間に合わない広さではある。
「おかえり!」
「ああ、ただいま」
「そちらが?」
どうせ何を言ってもきかない息子のことだ、諦めたのだろう。文句を言うこともなく、電車に笑顔を向ける。
「初めまして。電車紀夫と申します」
と手土産を母に差し出す彼。
「車で来るって聞いていたのだけれど?」
と母。
ありがとうと手土産を受け取りながら。
「そこのコインパーキングに停めて来た」
「あらそうなの。とにかくお入りになって」
緊張はしているものの、ニコニコしている電車に母がチラチラと視線を走らせる。我がの廊下は石造り。光を反射してキラキラと煌めいている。
「どうかしたのか?」
と母に問えば、
「写真でも見たけれど、彼イケメンねえ」
「俺のだぞ?」
あまりにも煩いので彼の写真を投下したら、母は黙ったのだ。
父も美形だが、母はとにかくメンクイ。以前用があってわが社を訪れた際、副社長皇に遭遇している。
見目の美しさ、その物腰と立ち居振る舞いにすっかりファンになってしまい、勝手に団扇を作成し『推し』などどといって応援しているらしい。
──副社長はアイドルじゃないぞ?
何を応援しようって言うんだ。
「親父は?」
「待ってるわよ、奥で」
「覚悟はできたのか? 紀夫」
翌朝、唯野と板井を車で自宅まで送った電車と塩田。
これから魔王城……もとい、塩田の実家へ向かうため国道へ乗った。
「ホームセンター寄った方が良いかな?」
と彼。
この先一キロ先にホームセンターがあるという看板が見えた。
「何故に?」
「ほら、以前五、六発は殴られるって言ってたし」
と彼。
車内にはFaintが流れている。
「問題ない、他人は殴らない」
「え?」
暗に『殴られるのは俺だ』という意味で言ったのだが、
「それってヘルメット必要じゃない?」
と彼。
一体どういうことだと思っていると、
「家族になったら殴られるってことでしょ?」
と彼はつづけた。
思わず口元を抑える塩田。ただの天然ボケかと思ったらそうではなかったようだ。
今日、実家に向かうのは結婚の承諾を得るため。付き合いの報告も同棲の報告もすっ飛ばして、婚姻の話しなんて持ちだしたら何を言われるのか分からない。
だがこちらには協力なスポンサーがいるのだ。
名前を出しただけで両親が青ざめるほどの相手が。
──あれは見ものだったな。
両親はどうやら『マシンガントーク』というものには太刀打ちできないようだ。我が上司、唯野修二はやはりただ者ではないらしい。
元営業のトップというだけあって、トーク自体も凄いが相手に一言もしゃべらせず二時間一人でしゃべり続けるというのはいかがなものだろうか?
──俺には真似できない芸当だな。
にしても、と塩田は思う。
「だって家族になるんでしょう?」
と電車。
「まあ、そうだが。問題ない、親父が殴る相手は俺だけだから」
”しかも避けられる”と親指を立てると彼が驚いた表情をした。
「なんか不安になって来たよ。手土産何が良いかな」
口元を歪め、前を向く彼。
何がそんなに不安にさせたのだろうか。
「うわッ……噂には聞いていたけれど」
二時間後、二人は塩田邸の門の前にいた。
「すっごい宮廷だね。塩田はお坊ちゃんなの?」
と電車。
「いや、一般家庭」
インターフォンを押しながらそう答える塩田を二度見する彼。
今日、恋人を連れて帰宅するということを母には伝えてある。その後、凄い数のメッセージが送られてきたがあまりの多さに既読スルーした。
──三百八十六件も送ってくるバカがどこの世界にいるんだ。
「はあい……って以往ちゃん?! そこで首を洗って待ってなさいね!」
極めて明るい母の声。日本語の使い方間違ってないか? と思いつつ。
塩田が門に寄りかかって待っていると、一番近い入り口から母が走って門までやってくる。バカでかい家だが、お手伝いさんは一人きり。二十人くらいは雇わないと掃除が間に合わない広さではある。
「おかえり!」
「ああ、ただいま」
「そちらが?」
どうせ何を言ってもきかない息子のことだ、諦めたのだろう。文句を言うこともなく、電車に笑顔を向ける。
「初めまして。電車紀夫と申します」
と手土産を母に差し出す彼。
「車で来るって聞いていたのだけれど?」
と母。
ありがとうと手土産を受け取りながら。
「そこのコインパーキングに停めて来た」
「あらそうなの。とにかくお入りになって」
緊張はしているものの、ニコニコしている電車に母がチラチラと視線を走らせる。我がの廊下は石造り。光を反射してキラキラと煌めいている。
「どうかしたのか?」
と母に問えば、
「写真でも見たけれど、彼イケメンねえ」
「俺のだぞ?」
あまりにも煩いので彼の写真を投下したら、母は黙ったのだ。
父も美形だが、母はとにかくメンクイ。以前用があってわが社を訪れた際、副社長皇に遭遇している。
見目の美しさ、その物腰と立ち居振る舞いにすっかりファンになってしまい、勝手に団扇を作成し『推し』などどといって応援しているらしい。
──副社長はアイドルじゃないぞ?
何を応援しようって言うんだ。
「親父は?」
「待ってるわよ、奥で」
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