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10『理解と焦燥の狭間』
6 板井から見える世界
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****side■板井
「お前ら、ホント仲いいよな」
「そう?」
と電車。
唯野は久々の部署の外呑みが嬉しかったのか、そうそうに酔いつぶれてしまった。程よく酔ったところで夜風に当たって、迎えを待つことにしたのである。
「しかし、管理人さんが送迎してくれるなんてな」
板井はその待遇に驚いていた。
「管理人さん、塩田がお気に入りだから」
噂の本人は、電車の腕に自分の腕を絡ませ、彼に寄りかかっている。
電車の車は十人乗りのワゴン。彼の車で塩田のマンションの管理人が送迎してくれることになったのだ。
隣の駅の唯野のマンションまで迎えに来てもらったことは恐縮だが、今日は本当に楽しかったと思う。
板井の背中には唯野。
電車は管理人へのお土産と称して焼き鳥を購入した。
「ビール冷えてるから、家で呑み直しても良いよ」
と電車。
彼は以前から塩田のマンションに入り浸っていたが、晴れて恋人になり現在は一緒に暮らしている。すっかり馴染んでいるなと思いながら、
「元気だな」
と板井は笑う。
「塩田はお眠みたいだけれどね」
クスリと笑う彼は優しい目を塩田に向けて。
「前から不思議に思っていたが、電車は塩田のどこに惚れたんだ?」
”それ、本人がいる前で聞く?”と笑う彼。
「最初は不愛想で、仲良くなれなさそうって思ってた」
板井もねと続けて。
「でも、初めて泊めてくれた日、話してみたら結構お喋りしてくれて居心地が良かったんだよね」
「まあ、意外と喋るよな塩田は」
「それに可愛いし」
と彼。
──可愛い? 塩田が?
「結構、甘えん坊だから」
寄りかかる塩田の肩を抱き、
「塩田、おんぶする?」
と彼が問う。
塩田は、
「いい」
と短く返答をした。
「あ、そろそろ着くって」
ポケットに入れていた彼のスマホが光を帯び、画面に目を向けた電車。
──天然でヘマをしてばかりの電車は、こう見えても長男なんだよなあ。
家族構成、よく知らないが。
『電車は慌てすぎなんだ。まあ、その気持ちは分からないでもないがな』
以前、唯野は電車の人となりに関しそんなことを言っていた。
『お前たち二人があまりにも仕事ができるものだから、置いて行かれないように必死なんだよ』
唯野にはそんな過去があるのか、電車が失敗しても怒ったところを見たことがない。
『失敗はしてもいいんだ。問題は怒られると思って隠すこと』
それは重大なミスへと繋がるし、時には大事に至ることもある。
『ミスはみんなでカバーすればいい。そうだろ? 板井』
唯野修二はとてもよくできた上司だと思う。彼の下につけたことが今に繋がっている。
苦情係のチームワークと仲良さが評価されているのは、ひとえに唯野の功績といっても過言ではないと思う。
個人プレイが得意な塩田。フォローを得意とする板井。ムードメーカーだがミスの多い電車。三人をうまくまとめているのが唯野だ。
彼が上司でなかったなら、成り立たなかったと思う。
唯野は社長室に呼ばれることが多く、そのフォローとして副社長の皇が率先して手伝いに来てくれるが、唯野に人望があってこそ。
「管理人さん、ありがとね」
電車は迎えに来てくれた管理人に焼き鳥の袋を渡すと、後部座席に回る。
運転席でスライドさせるタイプの車種。
「俺たち三列目行くから、そこに課長おろして」
「ああ」
「塩田、足上げないと」
こういう時は本当に面倒見のいいお兄ちゃんなんだなと感心しつつ、板井は唯野を座席におろすと自分も後部座席に乗り込んだのだった。
駅方面へ向かう道路は混んではいたが、マンションへ向かう方面は空いていた。
「残業帰りの人が多い時間帯なのかしらねえ」
管理人はそんなことを言いながら、マンションへ向かって行く。待っている間は長く感じたが、マンションまでは車で数分の距離だった。
「後で車のキー部屋のポストに入れておくから、気を付けてエレベーター乗るのよ」
管理人はマンションの玄関口に止めるとそんなこと言って板井たちをおろす。随分と仲が良いんだなあと思いながら、板井は再び唯野を背中に背負ったのだった。
「お前ら、ホント仲いいよな」
「そう?」
と電車。
唯野は久々の部署の外呑みが嬉しかったのか、そうそうに酔いつぶれてしまった。程よく酔ったところで夜風に当たって、迎えを待つことにしたのである。
「しかし、管理人さんが送迎してくれるなんてな」
板井はその待遇に驚いていた。
「管理人さん、塩田がお気に入りだから」
噂の本人は、電車の腕に自分の腕を絡ませ、彼に寄りかかっている。
電車の車は十人乗りのワゴン。彼の車で塩田のマンションの管理人が送迎してくれることになったのだ。
隣の駅の唯野のマンションまで迎えに来てもらったことは恐縮だが、今日は本当に楽しかったと思う。
板井の背中には唯野。
電車は管理人へのお土産と称して焼き鳥を購入した。
「ビール冷えてるから、家で呑み直しても良いよ」
と電車。
彼は以前から塩田のマンションに入り浸っていたが、晴れて恋人になり現在は一緒に暮らしている。すっかり馴染んでいるなと思いながら、
「元気だな」
と板井は笑う。
「塩田はお眠みたいだけれどね」
クスリと笑う彼は優しい目を塩田に向けて。
「前から不思議に思っていたが、電車は塩田のどこに惚れたんだ?」
”それ、本人がいる前で聞く?”と笑う彼。
「最初は不愛想で、仲良くなれなさそうって思ってた」
板井もねと続けて。
「でも、初めて泊めてくれた日、話してみたら結構お喋りしてくれて居心地が良かったんだよね」
「まあ、意外と喋るよな塩田は」
「それに可愛いし」
と彼。
──可愛い? 塩田が?
「結構、甘えん坊だから」
寄りかかる塩田の肩を抱き、
「塩田、おんぶする?」
と彼が問う。
塩田は、
「いい」
と短く返答をした。
「あ、そろそろ着くって」
ポケットに入れていた彼のスマホが光を帯び、画面に目を向けた電車。
──天然でヘマをしてばかりの電車は、こう見えても長男なんだよなあ。
家族構成、よく知らないが。
『電車は慌てすぎなんだ。まあ、その気持ちは分からないでもないがな』
以前、唯野は電車の人となりに関しそんなことを言っていた。
『お前たち二人があまりにも仕事ができるものだから、置いて行かれないように必死なんだよ』
唯野にはそんな過去があるのか、電車が失敗しても怒ったところを見たことがない。
『失敗はしてもいいんだ。問題は怒られると思って隠すこと』
それは重大なミスへと繋がるし、時には大事に至ることもある。
『ミスはみんなでカバーすればいい。そうだろ? 板井』
唯野修二はとてもよくできた上司だと思う。彼の下につけたことが今に繋がっている。
苦情係のチームワークと仲良さが評価されているのは、ひとえに唯野の功績といっても過言ではないと思う。
個人プレイが得意な塩田。フォローを得意とする板井。ムードメーカーだがミスの多い電車。三人をうまくまとめているのが唯野だ。
彼が上司でなかったなら、成り立たなかったと思う。
唯野は社長室に呼ばれることが多く、そのフォローとして副社長の皇が率先して手伝いに来てくれるが、唯野に人望があってこそ。
「管理人さん、ありがとね」
電車は迎えに来てくれた管理人に焼き鳥の袋を渡すと、後部座席に回る。
運転席でスライドさせるタイプの車種。
「俺たち三列目行くから、そこに課長おろして」
「ああ」
「塩田、足上げないと」
こういう時は本当に面倒見のいいお兄ちゃんなんだなと感心しつつ、板井は唯野を座席におろすと自分も後部座席に乗り込んだのだった。
駅方面へ向かう道路は混んではいたが、マンションへ向かう方面は空いていた。
「残業帰りの人が多い時間帯なのかしらねえ」
管理人はそんなことを言いながら、マンションへ向かって行く。待っている間は長く感じたが、マンションまでは車で数分の距離だった。
「後で車のキー部屋のポストに入れておくから、気を付けてエレベーター乗るのよ」
管理人はマンションの玄関口に止めるとそんなこと言って板井たちをおろす。随分と仲が良いんだなあと思いながら、板井は再び唯野を背中に背負ったのだった。
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