69 / 96
10『理解と焦燥の狭間』
4 破壊的センスのカップル
しおりを挟む
****side■電車
塩田は可愛いなと思いながら手を繋いで帰宅する。
会社からは徒歩五分のマンション。
いつも通り、アフロの管理人が管理人室から顔を覗かせる。
「あら、お帰り。今日も仲が良いわね」
日替わりで仲の良さが変わってはたまったものではない。
「どうしたの? 二人とも浮かない顔をして」
と管理人。
「解釈の違いという深い沼を見たところだ」
と塩田。
それは一体どういう沼なのか。
「ちょっと複雑なことがあって」
と電車。
「そんな二人にお土産よ!」
管理人、アフロのおばちゃんはニコニコしながら硬質なビニールの袋を二つどこからか取り出すと、受付台に置く。やたら派手な模様の入った袋だ。
またあの店にいったのかと思いながら、
「何が入ってるの?」
と問う電車。
都会にも時々謎の個人商店が存在する。
それは薄暗いくだもの屋だったり、どんなファンションセンスをしているんだ?! とツッコミたくなる用品店だったりも。
それ以前に電車たちの勤める『(株)原始人』は、おかし気な商品ばかり世に出しているが。
「ロンTよ! 見てみて、可愛いでしょ?」
袋をチラリと開けて見せる管理人。バナナがびっしり描かれたロンTである。
「紀夫ちゃん、バナナ大好きだものね」
確かにバナナ模様もバナナも大好きだが、塩田が冷たい目でこちらを見ているのが気になった。”またバナナかよ”とでも言いたげだ。
「以往ちゃんにはこっち!」
”塩は至高”と書かれたロンTだ。
「悪くない」
はかたの塩をこよなく愛し、はかたを博多と勘違いしている塩田はご満悦だ。
社内ではモテ度NO.2と言われる電車紀夫。
天然で可愛い顔をしており、優男と評判だがセンスは破壊的。
その恋人である塩田以往は忖度なしの塩対応だが、その見目と性格からやたら上層部から求愛される。しかし電車と同じく美的センスは破壊的である。
同僚の板井からは”残念なカップル”と笑われることが多い。
彼は背が高く、いつも洒落た格好をしている。
「それで、少し元気出しなさいね」
と管理人。
二人のダサさを加速させているのは、どう考えてもこの管理人だろう。
しかし二人は有難く戦利品を頂くことにした。
エレベーターの箱に乗り込むと、塩田が電車の髪に手を伸ばす。
「ん?」
「葉っぱついてる」
続けて、”紀夫の髪はサラサラだな”という彼に、
「今日もシャンプーしてあげるね」
と言えば嬉しそうな顔をした。
「紀夫、気持ちいいから好き」
それではまるで下ネタだとも思いつつ、階の変わるランプに視線をやる。
あっという間の距離でも、小さな変化のある日常。
この幸せを守るために戦っているのだと思った。
チンと小気味良い音がしてエレベーターが目的の階に止まる。
エレベーターの箱から彼が出るのを待って電車はそれに続いた。
階下を見下ろせば、いつもと変わらない街並み。
「たまには外食でもしたいね」
と電車が呟くように言うと、
「駅の路地裏に焼き鳥屋が出来たらしいぞ」
と彼。
「そんな情報どこで?」
「板井が言ってた。リーズナブルな価格で、炭火焼らしい」
「へえ」
塩田と板井はとても仲が良い。
二人とも無口で愛想がある方とは言えないが、とても気が合うらしい。
よくメッセージのやり取りをしているところを目にする。
「板井たち誘って行く?」
「今からか?」
部屋の前で鍵を開けていた塩田が身を捩って。
「風呂入ってからでもいいよ。向こうはまだ列車の中かもしれないし」
電車の言葉に、
「ああ、そうだな」
と微笑む塩田。
「これ着ていく?」
と袋を掲げれば、
「板井に怒られるぞ」
と彼。
玄関に入ると彼は靴を脱ぐとスマホを操作しながら、
「板井に連絡するから、先に風呂に行ってて」
と電車に指示をする。
「ん。分かった」
電車はスーツのジャケットを脱ぎながら脱衣所に向かったのだった。
塩田は可愛いなと思いながら手を繋いで帰宅する。
会社からは徒歩五分のマンション。
いつも通り、アフロの管理人が管理人室から顔を覗かせる。
「あら、お帰り。今日も仲が良いわね」
日替わりで仲の良さが変わってはたまったものではない。
「どうしたの? 二人とも浮かない顔をして」
と管理人。
「解釈の違いという深い沼を見たところだ」
と塩田。
それは一体どういう沼なのか。
「ちょっと複雑なことがあって」
と電車。
「そんな二人にお土産よ!」
管理人、アフロのおばちゃんはニコニコしながら硬質なビニールの袋を二つどこからか取り出すと、受付台に置く。やたら派手な模様の入った袋だ。
またあの店にいったのかと思いながら、
「何が入ってるの?」
と問う電車。
都会にも時々謎の個人商店が存在する。
それは薄暗いくだもの屋だったり、どんなファンションセンスをしているんだ?! とツッコミたくなる用品店だったりも。
それ以前に電車たちの勤める『(株)原始人』は、おかし気な商品ばかり世に出しているが。
「ロンTよ! 見てみて、可愛いでしょ?」
袋をチラリと開けて見せる管理人。バナナがびっしり描かれたロンTである。
「紀夫ちゃん、バナナ大好きだものね」
確かにバナナ模様もバナナも大好きだが、塩田が冷たい目でこちらを見ているのが気になった。”またバナナかよ”とでも言いたげだ。
「以往ちゃんにはこっち!」
”塩は至高”と書かれたロンTだ。
「悪くない」
はかたの塩をこよなく愛し、はかたを博多と勘違いしている塩田はご満悦だ。
社内ではモテ度NO.2と言われる電車紀夫。
天然で可愛い顔をしており、優男と評判だがセンスは破壊的。
その恋人である塩田以往は忖度なしの塩対応だが、その見目と性格からやたら上層部から求愛される。しかし電車と同じく美的センスは破壊的である。
同僚の板井からは”残念なカップル”と笑われることが多い。
彼は背が高く、いつも洒落た格好をしている。
「それで、少し元気出しなさいね」
と管理人。
二人のダサさを加速させているのは、どう考えてもこの管理人だろう。
しかし二人は有難く戦利品を頂くことにした。
エレベーターの箱に乗り込むと、塩田が電車の髪に手を伸ばす。
「ん?」
「葉っぱついてる」
続けて、”紀夫の髪はサラサラだな”という彼に、
「今日もシャンプーしてあげるね」
と言えば嬉しそうな顔をした。
「紀夫、気持ちいいから好き」
それではまるで下ネタだとも思いつつ、階の変わるランプに視線をやる。
あっという間の距離でも、小さな変化のある日常。
この幸せを守るために戦っているのだと思った。
チンと小気味良い音がしてエレベーターが目的の階に止まる。
エレベーターの箱から彼が出るのを待って電車はそれに続いた。
階下を見下ろせば、いつもと変わらない街並み。
「たまには外食でもしたいね」
と電車が呟くように言うと、
「駅の路地裏に焼き鳥屋が出来たらしいぞ」
と彼。
「そんな情報どこで?」
「板井が言ってた。リーズナブルな価格で、炭火焼らしい」
「へえ」
塩田と板井はとても仲が良い。
二人とも無口で愛想がある方とは言えないが、とても気が合うらしい。
よくメッセージのやり取りをしているところを目にする。
「板井たち誘って行く?」
「今からか?」
部屋の前で鍵を開けていた塩田が身を捩って。
「風呂入ってからでもいいよ。向こうはまだ列車の中かもしれないし」
電車の言葉に、
「ああ、そうだな」
と微笑む塩田。
「これ着ていく?」
と袋を掲げれば、
「板井に怒られるぞ」
と彼。
玄関に入ると彼は靴を脱ぐとスマホを操作しながら、
「板井に連絡するから、先に風呂に行ってて」
と電車に指示をする。
「ん。分かった」
電車はスーツのジャケットを脱ぎながら脱衣所に向かったのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
こいじまい。 -Ep.the British-
ベンジャミン・スミス
BL
貿易会社に勤務する月嶋春人は上司に片想いをしていた。
しかし、その想いは儚く散ってしまう。
いつまでも上司を忘れることが出来ない春人に「無理に忘れる必要は無い。」と、声をかけたのはイギリス人のアルバート・ミラーだった。
いつのまにか英国紳士なアルバートに惹かれていく春人は徐々に新しい恋への1歩を踏み出し始めていた。
身長差30cm、年の差18歳
おまけに相手は男で、外国人。
様々な壁にぶつかりながらも愛を育んでいく2人のオフィスラブ。
************
素敵な表紙はもなか様から
いただきました。
ありがとうございます。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる