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10『理解と焦燥の狭間』
3 何か間違っている⁉
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****side■塩田
「何してるの? 塩田」
愛しい恋人にそう問われ、
「まだナニはしていない」
と答えると、怪訝な顔をされた。
まあ、無理もないだろう。
「質問を変えよう。なにがしたいの? 塩田」
「写真が撮りたい」
そう答える塩田の手元を覗き込む電車。
「それはムービーだと思うんだよね」
「写真は?」
「これをタッチして切り替えて」
スマホの画面に彼の指先が振れる。
「で、どこに行くの? 塩田」
「ちょっとそこの柱の陰に」
塩田は数歩下がり、柱の陰へ。
先日購入した『ストーカーのすゝめ』には定番は『盗撮』と書いてあった。恋人たっての願いなら捕まることはないだろうし、叶えてやりたい。
そもそもスマホで写真を撮ることは滅多にないが。
「何故ピースをするんだ? 紀夫」
彼はこちらに向かってピースサインをし、良い笑顔を浮かべている。
これでは盗撮ではなく……記念写真だ。
「撮られる準備は必要でしょう?」
「そういう問題か?」
電車紀夫は優しい。
見た目からして優し気で……キラキラしている。
ただし、天然だ。
──盗撮でピース?
何かおかしい気もするが。
ないとも言い切れないだろう。
仕方なく塩田はシャッターを切った。
なかなか良い笑顔だ。
「で、どうするの? それ」
「待ち受けにするらしい」
待ち受けなど滅多に変えないものだから、操作もあやふやだ。紀夫に押し付けると、彼が眉を寄せながら待ち受けの変更をしてくれる。
その間、塩田は『ストーカーのすゝめ』を再び開いた。
「で、次は?」
と電車に聞かれ、
「髪の毛を集めるらしい」
と答える塩田。
「どこで?」
「定番は……ブラシなるものだが風呂場でもいいようだ」
塩田がそう答えると、
「お風呂はいつもピカピカだからないと思うよ? そもそもそんなもの集めてどうするの?」
「封筒に入れて、郵便受けへ投函するらしい」
”大変だな、ストーカーは”と思いながらそう答えると、
「一緒に暮らしているのに、わざわざ郵便受けへ?」
と問われた。
「その意見には俺も同感だがここに書いてるし、まずは実践してみないと」
電車は相変わらず、渋い顔をしてこちらを見ている。
何かおかしなことでも言っただろうか?
「そんな不衛生なことはやめようよ」
「ん?」
彼を見上げると塩田は電車に手を掴まれ、顔を覗き込まれた。
「あのね、塩田」
「な、なんだ?」
じっと見つめられて塩田はたじろぐ。
「ストーキングっていうのは、本人に気づかれないようにこっそりやるもので、なまじ相手に内容をばらすものじゃないと思うの」
塩田は本と電車を交互に二度見した。
「いや……でも。一緒に暮らしていて、バレないのは難しくないか?」
”いっそバラした方が協力してもらえるだろうし”と続けると、
「え? どういうこと?!」
と言われる。
どうもこうもない。
「本人協力のもと、ストーキングするってこと? 何プレイなの、それ」
「ストーキングプレイ?」
「なんで疑問符!」
そんなこと言われても……と思いつつ、
「紀夫が俺だけを見ていて欲しいっていうから。ああ、監視しろってことか?」
そこで彼が切なげに眉を寄せた。
「俺だけを見ていて欲しいってのは、そういうことじゃなくてね」
何故か彼は額に手をやると笑っている。
「よそ見しないでって……って言ってもわからないよね? 浮気しないでねって意味なんだけれど」
今度は塩田が眉を寄せた。
それならそうと言えばいいのにと思いながら。
「俺が浮気をするとでも?」
「思ってないけれど、さ」
”不安になっちゃうんだよね”と呟くように吐き出す彼。
何がそうさせているのか分からない。
「不安になるのは自由だが。俺は浮気なんかしないぞ?」
人の不安とは漠然としたものなのだ。
今ここで自分が何を言おうとも、その不安を拭うことはできない。
不安を拭い去るには、それなりの信頼関係と時間がいる。
塩田はどうしたらいいのか分からず、ただその手をぎゅっと握りしめていたのだった。
「何してるの? 塩田」
愛しい恋人にそう問われ、
「まだナニはしていない」
と答えると、怪訝な顔をされた。
まあ、無理もないだろう。
「質問を変えよう。なにがしたいの? 塩田」
「写真が撮りたい」
そう答える塩田の手元を覗き込む電車。
「それはムービーだと思うんだよね」
「写真は?」
「これをタッチして切り替えて」
スマホの画面に彼の指先が振れる。
「で、どこに行くの? 塩田」
「ちょっとそこの柱の陰に」
塩田は数歩下がり、柱の陰へ。
先日購入した『ストーカーのすゝめ』には定番は『盗撮』と書いてあった。恋人たっての願いなら捕まることはないだろうし、叶えてやりたい。
そもそもスマホで写真を撮ることは滅多にないが。
「何故ピースをするんだ? 紀夫」
彼はこちらに向かってピースサインをし、良い笑顔を浮かべている。
これでは盗撮ではなく……記念写真だ。
「撮られる準備は必要でしょう?」
「そういう問題か?」
電車紀夫は優しい。
見た目からして優し気で……キラキラしている。
ただし、天然だ。
──盗撮でピース?
何かおかしい気もするが。
ないとも言い切れないだろう。
仕方なく塩田はシャッターを切った。
なかなか良い笑顔だ。
「で、どうするの? それ」
「待ち受けにするらしい」
待ち受けなど滅多に変えないものだから、操作もあやふやだ。紀夫に押し付けると、彼が眉を寄せながら待ち受けの変更をしてくれる。
その間、塩田は『ストーカーのすゝめ』を再び開いた。
「で、次は?」
と電車に聞かれ、
「髪の毛を集めるらしい」
と答える塩田。
「どこで?」
「定番は……ブラシなるものだが風呂場でもいいようだ」
塩田がそう答えると、
「お風呂はいつもピカピカだからないと思うよ? そもそもそんなもの集めてどうするの?」
「封筒に入れて、郵便受けへ投函するらしい」
”大変だな、ストーカーは”と思いながらそう答えると、
「一緒に暮らしているのに、わざわざ郵便受けへ?」
と問われた。
「その意見には俺も同感だがここに書いてるし、まずは実践してみないと」
電車は相変わらず、渋い顔をしてこちらを見ている。
何かおかしなことでも言っただろうか?
「そんな不衛生なことはやめようよ」
「ん?」
彼を見上げると塩田は電車に手を掴まれ、顔を覗き込まれた。
「あのね、塩田」
「な、なんだ?」
じっと見つめられて塩田はたじろぐ。
「ストーキングっていうのは、本人に気づかれないようにこっそりやるもので、なまじ相手に内容をばらすものじゃないと思うの」
塩田は本と電車を交互に二度見した。
「いや……でも。一緒に暮らしていて、バレないのは難しくないか?」
”いっそバラした方が協力してもらえるだろうし”と続けると、
「え? どういうこと?!」
と言われる。
どうもこうもない。
「本人協力のもと、ストーキングするってこと? 何プレイなの、それ」
「ストーキングプレイ?」
「なんで疑問符!」
そんなこと言われても……と思いつつ、
「紀夫が俺だけを見ていて欲しいっていうから。ああ、監視しろってことか?」
そこで彼が切なげに眉を寄せた。
「俺だけを見ていて欲しいってのは、そういうことじゃなくてね」
何故か彼は額に手をやると笑っている。
「よそ見しないでって……って言ってもわからないよね? 浮気しないでねって意味なんだけれど」
今度は塩田が眉を寄せた。
それならそうと言えばいいのにと思いながら。
「俺が浮気をするとでも?」
「思ってないけれど、さ」
”不安になっちゃうんだよね”と呟くように吐き出す彼。
何がそうさせているのか分からない。
「不安になるのは自由だが。俺は浮気なんかしないぞ?」
人の不安とは漠然としたものなのだ。
今ここで自分が何を言おうとも、その不安を拭うことはできない。
不安を拭い去るには、それなりの信頼関係と時間がいる。
塩田はどうしたらいいのか分からず、ただその手をぎゅっと握りしめていたのだった。
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