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10『理解と焦燥の狭間』
2 暗黙の了解
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****side■板井
「やっぱり、ロッジにしましょうか」
仕事帰りにホームセンターでキャンプ用品を購入しようとしていたのだが、隣の唯野を見て板井はそう提案した。
「ん?」
初心者でテントを張るのは大変だよなと思ったからである。
外で寝たいというわけではない。板井はただ、二人で日常から非日常へ飛び出したいだけなのだ。
「キャンプがしたいんじゃなかったのか?」
唯野は不思議そうにこちらを見上げる。
「ロッジでも料理は作れますし、星も見られますから」
ロマンチックな一夜を演出して、彼を笑顔にしたかった。
「板井は料理が上手いから、楽しみだな」
「任せてくださいよ」
唯野が嬉しそうに笑うのがとても嬉しい。
やはり愛する人の笑顔は何にも代えがたいと思う。
「どこか寄って帰ります?」
恋愛の形は様々だとは思うが、同性同士とは異性よりは気楽だと思っている。
「そうだな」
いつものところで一杯やって帰ろうかと彼が提案した。
手を繋いで駐車場へ向かう。
唯野と暮らし始めてからは、電車通勤を止め車通勤に切り替えた。
「俺は呑めませんがね」
と板井が言うと、しまったという顔をする彼。
まだ電車通勤の習慣が抜けないのだろう。
「じゃあ、焼き鳥と適当につまみと酒でも買って、宅吞みにしようか」
と言う。
その優しさに思わずクスッと笑う板井。
「別に修二さんだけ呑んでもいいんですよ?」
と板井。
しかし唯野は眉を寄せる。
「お前、意地悪だな。俺が一人で呑むの嫌なの知ってるくせに」
少し拗ねた言い方が可愛くて、思わずちゅっと口づけをした。
「ちょ……こんなところで、何して」
照れる唯野を板井は目を細め見つめる。
「誰も見てませんよ、外は暗いですしね」
「そういう問題じゃないだろう?」
「じゃあ、早く車行きましょうよ」
唯野を好きだと思う。
そんな自分が好きだ。
こんなに風に思う相手と同じ気持ちでいられるのは奇跡だから。
いつでもそのことを思い出して、今を大切にしたいと思う。
──ゴールは何処にあるのだろう?
買い物をしてマンションに帰ると、買い物袋をダイニングのテーブルに置く。
「先に風呂にしましょう」
最近は遠隔操作で風呂に湯をためることもできる。とても便利だなと思った。ジャケットをソファーにかけると、ネクタイに指をかけたところで、唯野にシャツを掴まれる。
「どうしました?」
振り返れば、彼は俯き加減でじっと黙ったまま。
自分は恋愛慣れしている方ではないが、唯野がそれ以上だということは嫌というほど理解していた。
「そういうの、可愛すぎるんですが」
彼が何を求めているのか理解しているつもりだ。
板井は身体を反転させると、唯野の腰に腕を回す。
会社では上司で。
いつだって頼れる人なのに。
こんな風に二人きりになると、板井にしか見せない表情や仕草をする彼。
チラとこちらを見上げる彼が愛しい。
「ご飯よりも、あなたを食べたくなってしまう」
「それは……困るよ」
風呂もまだだし……と口ごもる彼が愛しい。
「お腹空いてるんですか?」
一般的に、お腹がいっぱいだと性欲は息をひそめるものだ。
しかし板井の唯野に対しての愛欲は留まるところを知らない。
ネコだったはずなのに。
「いや、そうでもない」
それはきっと、板井に対してOKの意思表示。
「じゃあ、先に風呂に行って……」
言わずともわかるだろう、その先は。
途中で言葉を止めた板井は、ぐいっと腰を引き寄せると唯野に口づけたのだった。
「やっぱり、ロッジにしましょうか」
仕事帰りにホームセンターでキャンプ用品を購入しようとしていたのだが、隣の唯野を見て板井はそう提案した。
「ん?」
初心者でテントを張るのは大変だよなと思ったからである。
外で寝たいというわけではない。板井はただ、二人で日常から非日常へ飛び出したいだけなのだ。
「キャンプがしたいんじゃなかったのか?」
唯野は不思議そうにこちらを見上げる。
「ロッジでも料理は作れますし、星も見られますから」
ロマンチックな一夜を演出して、彼を笑顔にしたかった。
「板井は料理が上手いから、楽しみだな」
「任せてくださいよ」
唯野が嬉しそうに笑うのがとても嬉しい。
やはり愛する人の笑顔は何にも代えがたいと思う。
「どこか寄って帰ります?」
恋愛の形は様々だとは思うが、同性同士とは異性よりは気楽だと思っている。
「そうだな」
いつものところで一杯やって帰ろうかと彼が提案した。
手を繋いで駐車場へ向かう。
唯野と暮らし始めてからは、電車通勤を止め車通勤に切り替えた。
「俺は呑めませんがね」
と板井が言うと、しまったという顔をする彼。
まだ電車通勤の習慣が抜けないのだろう。
「じゃあ、焼き鳥と適当につまみと酒でも買って、宅吞みにしようか」
と言う。
その優しさに思わずクスッと笑う板井。
「別に修二さんだけ呑んでもいいんですよ?」
と板井。
しかし唯野は眉を寄せる。
「お前、意地悪だな。俺が一人で呑むの嫌なの知ってるくせに」
少し拗ねた言い方が可愛くて、思わずちゅっと口づけをした。
「ちょ……こんなところで、何して」
照れる唯野を板井は目を細め見つめる。
「誰も見てませんよ、外は暗いですしね」
「そういう問題じゃないだろう?」
「じゃあ、早く車行きましょうよ」
唯野を好きだと思う。
そんな自分が好きだ。
こんなに風に思う相手と同じ気持ちでいられるのは奇跡だから。
いつでもそのことを思い出して、今を大切にしたいと思う。
──ゴールは何処にあるのだろう?
買い物をしてマンションに帰ると、買い物袋をダイニングのテーブルに置く。
「先に風呂にしましょう」
最近は遠隔操作で風呂に湯をためることもできる。とても便利だなと思った。ジャケットをソファーにかけると、ネクタイに指をかけたところで、唯野にシャツを掴まれる。
「どうしました?」
振り返れば、彼は俯き加減でじっと黙ったまま。
自分は恋愛慣れしている方ではないが、唯野がそれ以上だということは嫌というほど理解していた。
「そういうの、可愛すぎるんですが」
彼が何を求めているのか理解しているつもりだ。
板井は身体を反転させると、唯野の腰に腕を回す。
会社では上司で。
いつだって頼れる人なのに。
こんな風に二人きりになると、板井にしか見せない表情や仕草をする彼。
チラとこちらを見上げる彼が愛しい。
「ご飯よりも、あなたを食べたくなってしまう」
「それは……困るよ」
風呂もまだだし……と口ごもる彼が愛しい。
「お腹空いてるんですか?」
一般的に、お腹がいっぱいだと性欲は息をひそめるものだ。
しかし板井の唯野に対しての愛欲は留まるところを知らない。
ネコだったはずなのに。
「いや、そうでもない」
それはきっと、板井に対してOKの意思表示。
「じゃあ、先に風呂に行って……」
言わずともわかるだろう、その先は。
途中で言葉を止めた板井は、ぐいっと腰を引き寄せると唯野に口づけたのだった。
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