R18【同性恋愛】リーマン物語if5『塩田と板井と苦情係』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
66 / 96
10『理解と焦燥の狭間』

1 苦情係の事情

しおりを挟む
****side■唯野

 旅行というものは、現実を切り離すものだと思った。
 今それぞれが抱えている問題が何なのか、ぼんやりと理解したところで現実に戻される。

 自分が今抱えている問題と言えば……。
 チラリと苦情係のカウンターの方に視線を向けると、板井と黒岩が何やら揉めていた。
「あなた、最近ここに来過ぎじゃないですか? ちゃんと仕事しているんですか?」
 板井はブレない男だなと思う。
 それは塩田とはまた違う意味で。
「板井はなんでそんなに邪魔をするんだよ。俺はただ、唯野と呑みに行きたいだけだぞ?」
 なんなら一緒に来ればいいと言われ、
「俺から課長と一緒の貴重な時間を奪うのはやめてください」
と抗議している。

 塩田たちの方に視線を移せば、相変わらず仲睦まじい。今週末は塩田の両親に挨拶へ行くと言っていたことを思い出し、唯野は複雑な心境になる。
 塩田の両親というのは、彼のやることなすことに反対する人たち。仲が悪いというわけではない。塩田が周りに迷惑をかけないように転ばぬ先の杖をしているに過ぎない。
 社長が彼をスカウトし両親に反対された時、直属の上司として彼の両親を説得したのは他でもない、唯野である。
 唯野は塩田の隣で仕事をする電車でんまに視線を移しながら、あの時は大変だったなと当時のことを思い出していた。

──魔王城に乗り込むのか。
 電車のヤツ、勇気があるな。

 先日、旅行先で塩田に言われたこと。
『もし、説得に失敗したら協力して欲しい』
 あの魔王を打ち砕いたのは、今のところ唯野だけらしい。
 プレッシャーだなと思いながらも承諾したのは、
『まずは自分たちで頑張ってみる』
と塩田が言ったからだ。
 唯野が驚いたのは言うまでもない。

 かといって塩田は、初めから人に頼るような人物ではない。
 驚いたのはどちらかというと、反対されたら強硬手段に出ると思ったからである。
『紀夫を笑顔にしたいんだ』
 彼はそう言った。
『俺は慣れているから良いけれど。紀夫は二人のこと祝福されたいと思っているはずなんだ』
 どれほどまでに塩田にとって電車は大切なのか。
 初めから誰にも勝ち目なんてなかったのだろうと思う。

 電車紀夫という男は、一見ただ優し気に見える。
 明るい髪色に、塩田より少し背が高く、ムードメーカーで天然だ。わが社では皇に次いで人気があると噂されているほどに、いろんな部署の人間から声をかけられていた。
 人当たりが良く、見目も良い。系統で言えばアイドル系の男なのである。
 そんな彼は、分かりやすいくらいに塩田に夢中だった。彼が塩田のどこに惹かれたのか分からない。
 いつだって一緒にいたがる彼に対し、塩田はその好意に気づかないようだった。そんな塩田が彼を尊重する。それは特別なことなのだと思う。

「俺様は行くぞ」
 塩田の反対側の席で仕事を手伝ってくれていた皇が立ち上がるのが視界の端に見えて、唯野はそちらへおもてを向けた。
 どんなに塩田に好意を向けても無駄なのに、それでも一途に思い続ける皇。
 そんな恋にも終焉が見え始めていることに、唯野は胸が痛んだ。
 これは変えることのできない結末。

 礼を述べる一同に、軽く手をあげ去っていく皇。
 きっと焦りが見えないことこそが、電車を追い詰めるのだろうと察した。
 見られている時は笑顔の電車の表情に陰りが差したから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

処理中です...