R18【同性恋愛】リーマン物語if5『塩田と板井と苦情係』

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9『陽だまりみたいな君と日常』

9【微R】塩田の予想外過ぎる行動

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****side■電車でんま

 余裕なんて初めから無くて。
 それでも頑張れたのは、塩田の一番近い場所にいると思っていたから。そして同僚の板井が力を貸してくれると言っていたからに、ほかならない。
「んッ……」
 電車は塩田のわき腹を撫であげ、首筋に口づける。

──皇副社長を脅威きょういに感じてしまうのは、自分に自信がないから。
 
 皇が余裕でいればいるほど、脅威に感じてしまっている自分がいた。
 余裕を見せたくてしていたことが、逆に自分の首を絞めてしまったのだ。

「まだ、するのか?」
 不安そうにこちらを見つめる瞳と視線がかち合い、電車はそっと瞬きをするとその唇に口づける。 
「痛いならしない」
 離れていく唇を、彼の瞳が追っていた。
「それが基準?」
「そうだよ」
と、彼のももをなであげれば、
「じゃあ、来いよ」
とフッと笑う。
 
 電車は、彼の感情が自分にだけ向けられることを願った。
 婚姻という強みを得て、塩田の前に越えられない壁を築こうとしている自分は、なんと浅ましいのだろう?
 結婚とは永遠に相手を愛する権利を得るためのものなのに。そんなことをしなければ安心できないなんて。

「はあ……ッ」
 まだ柔らかいままのそこに、欲望の塊を穿つ。浅く息をしながら、一所懸命受け入れようとする彼が愛しい。
 求められたいと願う塩田を頻繁に求めたことはなかった。
 欲しいのはその心。性欲のはけ口のようには思われたくない。
「紀夫」
 名前を呼ばれるたび、心は跳ねる。
 伝わる体温が心に平穏をもたらしても、直ぐに不安が自分をさらっていくことが忌々いまいましい。

 人がどんなきっかけで人を好きになるのかなんて、わからないから。

「今夜は、塩田が満足するまでしてあげる」
「俺は別に欲求不満なわけじゃ……」
 ちらと瞼をあげこちらに視線を向けた彼の表情が変わる。
 驚愕へと。
「紀夫? なんで泣いて……」
 彼が電車の頬を両手で包み込み、心配そうな顔をした。
「好きだよ」
 どうしようもなく好きで、不安に駆られてしまう自分をどうにもできないことを知る。それは感情の雫となって彼の上に降り注ぐ。
「俺も好きだ。締め付けすぎて、痛かったのか?」
 心配そうな表情は困った顔へ変わる。
「違う。好きすぎて辛いんだ」
 こんなことを言ってもきっと、塩田にはわからない。案の定、彼は困った表情をしながら、そっと電車の胸を手のひらで撫でる。
 それは心臓が痛いのか? とでも言うように。

「俺はどうすればいい?」
 どうしたらいいのか分からないのだろう。そう問う彼の手の上に電車は自分の手を重ねた。
「ずっと傍に居てよ、塩田。そして俺だけを見ていて欲しいの」
「俺にストーカーになれと?!」
 塩田が更に困惑したように目を泳がせる。

──塩田らしいけれど。
 どうしてそういう発想になるのかな?

 電車がどう説明しようか迷っていると、
「ま、まあ。努力はしてみるが」
としどろもどろに無茶苦茶なことを言い始めた。
 電車は説明を放棄し、どうなるのか見守ることにしたのだが。

 数日後、塩田が『ストーカーのすゝめ』なる謎の本を購入しストーカーに挑戦し始めるのを見て、電車が笑ったのは言うまでもない。
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