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9『陽だまりみたいな君と日常』

7【微R】この手は離さない

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****side■唯野

 小さな幸せでもいい。
 多くは望まない。
 だからどうか、この手から取り上げないで欲しい。

 それはやっと手に入れたものだった。もしこの手を放してしまったら、きっともう、こんなに温かな光は見つからないだろう。

「んんッ……」
 ゆっくりと押し寄せる快感に、唯野は身を捩る。繋がったところは、摩擦によって厭らしい音を立てていた。

──何度目だろう。板井に抱かれるのは。
 その度に幸せに浸り、理性を失う。

 彼のくれる愛撫はとても丁寧で、優しい。いつだって傷つけないように、気遣ってくれる。
 だが、自分ばかりが夢中になってしまっているのではないかと、不安にもなるのだ。
「板井」
 名前を呼んで彼の瞳を覗き込めば、優しい笑顔。自分だけに向けられた、特別なモノ。
「お前は、気持ちいい?」
 自分だけではなく、彼にも感じて欲しかった。夢中になって欲しかった。
「ええ……とても」
 理性なんて捨てて、彼の思うがままに抱いて欲しいと願う。
 しかしどんなに願っても、彼はそんなことはしないだろう。

「なあ。幸せか?」
 自分はきっと、大したことはできない。それでも、幸せだと感じて欲しいと思うのは、わがままだろうか?
「もちろんですよ。どうしたんです? 急に」
「いや。それならいい」
 言って唯野はぎゅと彼にしがみつく。その温もりに溶けてしまいたいと思った。
「なんでも溜め込むの、よくないですよ」
 首筋にチリっと痛みが走る。
 
──また見えるところに痕をつけて……。

 板井の独占欲の強さは、付き合い始めてから実感した。
 もっと淡泊な奴かと思っていたので、初めの頃はとても驚いたものだ。それと同時にとても大切にしてくれていることも知った。
「溜め込んでなんて……」
 彼の手のひらが肌を滑り、胸の突起を優しく撫でる。
「んん……ッ」
「全部俺が受け止めるから、吐き出してしまえばいいですよ」

──ただ、板井のことが好きなだけなのに。
 この手を放したくないだけ。

「俺は、ずっとお前に愛されていたい。それだけだよ」
 彼は一瞬驚いた表情をしたのち、口づけをくれたのだった。


「キャンプ、いつ行きましょうか」
「板井は、出かけるの好きなんだな」
 行為の後、彼の腕の中で。
「確かにどちらかというとアウトドア派ですが、修二さんとだから出かけたいんですよ」
と彼は言う。
「家でまったりするのも良いですが、たくさん思い出を作りたいんです」
 唯野は彼の話を聞きながら、自分がいかに家族を放置してきたのか改めて自覚した。やはりそこに愛があったとは言えない。
 板井となら、何処へでも出かけたいと思う。彼がそれで喜んでくれるのなら。
「あなたに笑っていて欲しいから」

 自分は恐らく板井に出会うまで本当の愛を知らなかったし、心から人を愛したことがなかったのだと感じた。
「でも、こんなこと思うのも、こんなことしたいと願うのも、修二さんだからなんですよ?」
 板井の独白を聞きながら、彼の頬に手を伸ばす。
 愛とは初めから存在するものではなく、生まれるものなのだと知った。そして二人で育んでいくものなのだと学んだ。
 この先もきっと彼から学んでいくもの、気づいていくことは多いだろう。
 彼の手が唯野の手に添えられ、ぐいっと腰を引かれた。
「あなたといると、俺の欲望は際限ない」
「もう一回するか?」
「喜んで」
 どうやら今夜は安眠できそうにないらしい。
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