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9『陽だまりみたいな君と日常』
2 優しい彼にふさわしい自分になりたい
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****side■塩田
「宿泊先、勝手に決めちゃって良かった?」
スマホにスピーカーを接続していた電車がそういって、ベッドに腰かけていた塩田のほうを振り返る。
「宿は別に……」
温泉に行きたいだけで特に宿に拘りのなかった塩田は、そう言ってしまってから後悔した。
──せっかく紀夫が気遣ってくれているのに、何故俺は気の利いたことが言えないんだろう。
自分自身にがっかりしていると、セッティングを終えた彼が塩田の前に寄って来る。
「どうしたの? 塩田」
心配そうに塩田の瞳を覗き込む電車。塩田は彼の腰にぎゅっと腕を回した。
いつも訳の分からないことを言って塩田を翻弄する電車。しかしいつだって優しくて、塩田のことを一番に考えてくれる。塩田はそんな彼が大好きだった。
それなのに自分は彼を喜ばせる様なことが何一つ言えないでいる。こんな自分では、彼にふさわしくないのではないかと思ってしまうのだ。
「塩田は可愛い」
電車は塩田の気持ちに気づかずに、優しく髪を撫でた。どんな瞬間も彼が大好きで、同じくらい好かれたいと望んでしまう。
「紀夫」
「うん?」
「温泉、嬉しい」
上手に伝えられなくても、言葉にする努力だけはしようと思った。
「そっか。塩田が嬉しいなら、俺はもっと嬉しいよ」
見上げれば、お日様みたいな笑顔。塩田は彼の、可愛らしくて暖かい笑顔が好きなのだ。その笑顔が見たいから、苦手なことも努力する。
塩田は軽く押し倒され、彼がベッドに乗り上げた。
「大好きだよ。塩田が嬉しいこと、たくさんしてあげたい」
誰かに甘えたいと思ったことはなかった。いつだって自分がしたいと思ったことをする。ひたすら我が道を歩いてきたつもりだった。その人生の途中で、彼に出会う。
いつしか彼は、かけがえのない存在になった。
「紀夫はどうしたら喜ぶ?」
塩田の質問に彼が驚いた顔をする。そしてニコッと笑うとちゅっと口づけをくれた。
「俺はね、塩田が一緒に居てくれるだけで幸せだし、嬉しいよ」
両腕を伸ばせばぎゅっと抱きしめてくれる。
「紀夫は俺のどこが好き?」
この先もずっと彼の一番でいたいと願う。
「全部好き」
「全部?」
「塩田だから好きなんだよ?」
人を好きになるのに理由はない。
きっかけはあったとしても。
そんなこと分かっているつもりではあるが、知りたくなってしまうのだ。
──不安なのだろうか。
電車は自分が初めて好きになった相手。とても居心地が良く、リラックスが出来る相手でもある。
「塩田は何が不安なの?」
「不安というか。俺は何もしてあげられないし」
計画を立てるのも彼。いつも気持ちを察してくれるのも彼の方。いつか一緒にいて楽な相手が出来て、自分から離れてしまうかもしれないと思うと、焦ってしまうし心配になってしまう。
「ねえ、塩田」
「うん?」
「人には向き不向きがあって、需要と供給というものがある。そして役割というものもあるんだよ」
電車の指が塩田の唇をなぞる。真面目な話をしているのに、まるで口説かれているような気持ちになってしまうのは何故だろう。
「苦手なことは、補い合えればそれでいいんだよ?」
「紀夫」
「塩田はそのままでいい。そのままの塩田が好きだよ」
塩田は複雑な気持ちになりながらも、彼の背中に腕を回す。離れたくないというように。
「塩田はホント、可愛い」
彼の優しい声音に安らぎを感じ、塩田は目を閉じる。
「紀夫、大好きだよ」
「宿泊先、勝手に決めちゃって良かった?」
スマホにスピーカーを接続していた電車がそういって、ベッドに腰かけていた塩田のほうを振り返る。
「宿は別に……」
温泉に行きたいだけで特に宿に拘りのなかった塩田は、そう言ってしまってから後悔した。
──せっかく紀夫が気遣ってくれているのに、何故俺は気の利いたことが言えないんだろう。
自分自身にがっかりしていると、セッティングを終えた彼が塩田の前に寄って来る。
「どうしたの? 塩田」
心配そうに塩田の瞳を覗き込む電車。塩田は彼の腰にぎゅっと腕を回した。
いつも訳の分からないことを言って塩田を翻弄する電車。しかしいつだって優しくて、塩田のことを一番に考えてくれる。塩田はそんな彼が大好きだった。
それなのに自分は彼を喜ばせる様なことが何一つ言えないでいる。こんな自分では、彼にふさわしくないのではないかと思ってしまうのだ。
「塩田は可愛い」
電車は塩田の気持ちに気づかずに、優しく髪を撫でた。どんな瞬間も彼が大好きで、同じくらい好かれたいと望んでしまう。
「紀夫」
「うん?」
「温泉、嬉しい」
上手に伝えられなくても、言葉にする努力だけはしようと思った。
「そっか。塩田が嬉しいなら、俺はもっと嬉しいよ」
見上げれば、お日様みたいな笑顔。塩田は彼の、可愛らしくて暖かい笑顔が好きなのだ。その笑顔が見たいから、苦手なことも努力する。
塩田は軽く押し倒され、彼がベッドに乗り上げた。
「大好きだよ。塩田が嬉しいこと、たくさんしてあげたい」
誰かに甘えたいと思ったことはなかった。いつだって自分がしたいと思ったことをする。ひたすら我が道を歩いてきたつもりだった。その人生の途中で、彼に出会う。
いつしか彼は、かけがえのない存在になった。
「紀夫はどうしたら喜ぶ?」
塩田の質問に彼が驚いた顔をする。そしてニコッと笑うとちゅっと口づけをくれた。
「俺はね、塩田が一緒に居てくれるだけで幸せだし、嬉しいよ」
両腕を伸ばせばぎゅっと抱きしめてくれる。
「紀夫は俺のどこが好き?」
この先もずっと彼の一番でいたいと願う。
「全部好き」
「全部?」
「塩田だから好きなんだよ?」
人を好きになるのに理由はない。
きっかけはあったとしても。
そんなこと分かっているつもりではあるが、知りたくなってしまうのだ。
──不安なのだろうか。
電車は自分が初めて好きになった相手。とても居心地が良く、リラックスが出来る相手でもある。
「塩田は何が不安なの?」
「不安というか。俺は何もしてあげられないし」
計画を立てるのも彼。いつも気持ちを察してくれるのも彼の方。いつか一緒にいて楽な相手が出来て、自分から離れてしまうかもしれないと思うと、焦ってしまうし心配になってしまう。
「ねえ、塩田」
「うん?」
「人には向き不向きがあって、需要と供給というものがある。そして役割というものもあるんだよ」
電車の指が塩田の唇をなぞる。真面目な話をしているのに、まるで口説かれているような気持ちになってしまうのは何故だろう。
「苦手なことは、補い合えればそれでいいんだよ?」
「紀夫」
「塩田はそのままでいい。そのままの塩田が好きだよ」
塩田は複雑な気持ちになりながらも、彼の背中に腕を回す。離れたくないというように。
「塩田はホント、可愛い」
彼の優しい声音に安らぎを感じ、塩田は目を閉じる。
「紀夫、大好きだよ」
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