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8『二人で歩む幸せの道』
7 塩田の両親は
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****side■塩田
塩田はチラリと電車を視界に入れ、先日のことに想いを馳せた。
『父は母が亡くなった時に、”これから二人きりになっちゃうけど、父さん頑張るから”って俺に言いながら、一人になると泣いてた。今ならその気持ちは、わかる気がするんだ』
電車の実家からの帰り道、彼がそう言っていたことを塩田は思い出す。今彼は、唯野たちと温泉旅行先の宿を吟味していた。
『俺も塩田がいなくなっちゃったら、ボロボロになっちゃうと思うから』
彼が父と和解出来たことは喜ばしいと思う。
電車の父は、
『あの子は繊細で一途な子なんです。思いやりもあって優しいし。けれど、俺がこんななせいか、冷めているというか恋愛に興味が無いようで……』
と彼について心配していたことを塩田に話してくれた。
『塩田さん。どうかあの子を頼みます。塩田さんはあの子が初めて、恋人として家に連れてきた方なんです』
そんなに自分は特別なのかと、改めて思った。もちろん同棲に反対されることもなく、婚約についても反対されなかった。
──うちとは大違いだな。
塩田は自分の業務をこなしながら、実家に帰った時のことをシミュレーションしてみる。
『ただいま』
『あらお帰り。そちらの方はお友達? 以往ちゃんが誰か連れて来るなんて珍し……』
母の言葉を遮り、
『恋人だ』
と塩田。
『なあああああああんですうってええええええ! パパ! パパちょっと!』
『相変わらず煩いな』
と塩田。
『誰のせいだと思ってるの!』
『どうした、ママ』
『大事件よ。以往ちゃんが恋人を連れてきたのよ!』
と、ムンクのようなポーズで父に報告する母。
『なんだとおおおおおおお! 恋人なんか百万年早いわ! そこに直れえええええ!』
と般若のような顔をする父。
──ダメだな。
どう考えても一戦交えないと。
先ほど唯野に”同棲の報告を両親にしようと思う”と告げたら、
『悪いことは言わない、魔王は健在だ』
と訳の分からないことを言われた。
塩田の母が魔王と言われているのは、”攻略の難しさがラスボスレベル”という意味合いらしい。
わが社では、副社長の皇が”魔王”と言われているが、彼はまた違う意味合いを持つ。皇の場合は”魔王のような尊大さ”を差しているのだ。
塩田の母についてはわが社の”腹黒”社長ですら一目置いているほど、”難関”らしい。
頭の良い人というのは”論破”することのできる人。論理的に相手を納得させることができ、その上で自分の思い通りに事を運ぶことができる。しかしそれは相手が話を聞く姿勢があってのこと。
思い込みが激しく、相手の話を聞く気がない相手には”暖簾に腕押し”となる。
社長はどうしても塩田を株原に引き入れたかった為、課長の唯野と二人で塩田の母の説得を試みたが上手くいかなかった。最終的には”泣き落とし”という手段に出たのだ。
その日のことを後日、唯野から聞いた塩田は、ただ苦笑いをするしかなったのである。
──どの道、俺は俺のやりたいようにやるけどな。
「塩田。見てみて、素敵な宿。各部屋に露天風呂があるんだって」
「クヌギ旅館か」
塩田は電車が見せるPCモニターに目をやって。
「楽しみだね」
と嬉しそうに笑う電車。
「そうだな」
──温泉か。のんびりできそうだな。
板井たちの方に視線を移すと、彼らもまた楽しそうに話をしている。
『付き合い始めてから、上手く会話が進まなくて』
と板井が言っていたことを塩田は思い出す。
この旅行がきっかけで二人が自然に会話ができると良いなと、塩田は思ったのだった。
塩田はチラリと電車を視界に入れ、先日のことに想いを馳せた。
『父は母が亡くなった時に、”これから二人きりになっちゃうけど、父さん頑張るから”って俺に言いながら、一人になると泣いてた。今ならその気持ちは、わかる気がするんだ』
電車の実家からの帰り道、彼がそう言っていたことを塩田は思い出す。今彼は、唯野たちと温泉旅行先の宿を吟味していた。
『俺も塩田がいなくなっちゃったら、ボロボロになっちゃうと思うから』
彼が父と和解出来たことは喜ばしいと思う。
電車の父は、
『あの子は繊細で一途な子なんです。思いやりもあって優しいし。けれど、俺がこんななせいか、冷めているというか恋愛に興味が無いようで……』
と彼について心配していたことを塩田に話してくれた。
『塩田さん。どうかあの子を頼みます。塩田さんはあの子が初めて、恋人として家に連れてきた方なんです』
そんなに自分は特別なのかと、改めて思った。もちろん同棲に反対されることもなく、婚約についても反対されなかった。
──うちとは大違いだな。
塩田は自分の業務をこなしながら、実家に帰った時のことをシミュレーションしてみる。
『ただいま』
『あらお帰り。そちらの方はお友達? 以往ちゃんが誰か連れて来るなんて珍し……』
母の言葉を遮り、
『恋人だ』
と塩田。
『なあああああああんですうってええええええ! パパ! パパちょっと!』
『相変わらず煩いな』
と塩田。
『誰のせいだと思ってるの!』
『どうした、ママ』
『大事件よ。以往ちゃんが恋人を連れてきたのよ!』
と、ムンクのようなポーズで父に報告する母。
『なんだとおおおおおおお! 恋人なんか百万年早いわ! そこに直れえええええ!』
と般若のような顔をする父。
──ダメだな。
どう考えても一戦交えないと。
先ほど唯野に”同棲の報告を両親にしようと思う”と告げたら、
『悪いことは言わない、魔王は健在だ』
と訳の分からないことを言われた。
塩田の母が魔王と言われているのは、”攻略の難しさがラスボスレベル”という意味合いらしい。
わが社では、副社長の皇が”魔王”と言われているが、彼はまた違う意味合いを持つ。皇の場合は”魔王のような尊大さ”を差しているのだ。
塩田の母についてはわが社の”腹黒”社長ですら一目置いているほど、”難関”らしい。
頭の良い人というのは”論破”することのできる人。論理的に相手を納得させることができ、その上で自分の思い通りに事を運ぶことができる。しかしそれは相手が話を聞く姿勢があってのこと。
思い込みが激しく、相手の話を聞く気がない相手には”暖簾に腕押し”となる。
社長はどうしても塩田を株原に引き入れたかった為、課長の唯野と二人で塩田の母の説得を試みたが上手くいかなかった。最終的には”泣き落とし”という手段に出たのだ。
その日のことを後日、唯野から聞いた塩田は、ただ苦笑いをするしかなったのである。
──どの道、俺は俺のやりたいようにやるけどな。
「塩田。見てみて、素敵な宿。各部屋に露天風呂があるんだって」
「クヌギ旅館か」
塩田は電車が見せるPCモニターに目をやって。
「楽しみだね」
と嬉しそうに笑う電車。
「そうだな」
──温泉か。のんびりできそうだな。
板井たちの方に視線を移すと、彼らもまた楽しそうに話をしている。
『付き合い始めてから、上手く会話が進まなくて』
と板井が言っていたことを塩田は思い出す。
この旅行がきっかけで二人が自然に会話ができると良いなと、塩田は思ったのだった。
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