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8『二人で歩む幸せの道』
6 温泉に行こうよ
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****side■電車
電車は頬杖をついて唯野の方を見ていた。
──いいなあ。
幸せそう。
塩田が珍しくお節介を焼いたのは、ホントに板井と仲が良いからだと実感した。そもそも塩田の方から連絡を取る相手は板井だけ。ほとんど一緒にいる電車に彼が連絡を取る必要はないので、なおのこと。
──そういや、俺。板井から連絡貰ったことないなあ。
課長からたまにメッセージ貰うけど。
「ねえ、塩田」
「んー?」
隣の塩田に声をかけると、彼はモニターを見つめたまま返事をくれる。
「今度どこか出かけようよ」
「おう、何処へ」
彼は画面を見たまま、傍らのカフェオレに手を伸ばす。
「大人になったし、遊園地も映画館も行けるけど」
と電車が言うと、彼はむせた。
「おま……っ」
タオルハンカチで口元を拭い、恨みがましい目でこちらを見る塩田。
──お付き合いしてエッチしちゃったし、これは大人になったって意味だよね?
「板井たち、泊りがけでコテージに行ったんだって。いいなあ」
と電車が言うと、
「何するんだ、そんなところで」
と言われる。電車は唸った。
──何するんだろう?
アウトドア派の板井たちと違い、自分たちはどう考えてもインドア派である。塩田が遊園地に行きたがったのは、刺激的な乗り物に乗りたかったわけではなく、観覧車に乗りたかっただけだし、どちらかというと塩田の家でのんびり休日を過ごすことが多い二人。電車が板井たちに憧れたのは、泊りがけで出かけたからである。
「じゃあさ、温泉行こうよ」
「!」
一緒に暮らし始めたばかりなのに、泊りがけで何処かに行きたいというのもどうかとは思ったが、一緒に暮らし始めたからこそ車でそのまま出かけられるのも利点だ。
温泉という言葉に、塩田の目がキラキラする。どうやら温泉は好きらしい。
「なに、お前ら温泉旅行に行くのか?」
二人の話を聞いていたのか、唯野がこちらに視線を向けて。どうやら唯野も温泉は好きらしい。
塩田に”二人も誘う?”と合図すれば、彼は頷いた。
「課長、みんなで温泉行かない?」
とさっそく声をかける電車。
声をかけられた唯野は、すごく嬉しそうな表情をした。
「みんなで行くなら、懇親会にして経費で落とすかな」
「そんなこと出来るの?」
電車はこの会社のシステムについてあまり詳しくはなかった。
「うちの会社の場合は福利厚生の一環として懇親会などには補助金を出してくれるんだよね。一人当たりの金額が大体決まっているから、課によっては飲み会にして回数を多くしたり、年数回で一泊旅行している課もあるね」
と、唯野。
「へえ、知らなかった」
「チームワークを大切にしている会社だから、その辺は優遇されてるんだよ。うちの課は去年の春できたばかりでバタバタしていたから、旅行はいかなかったけれど」
穏やかな笑みを浮かべる唯野。塩田は黙って話を聞いている。
そこへ、
「何かあったんですか?」
と板井が商品部から戻って来た。
「懇親会で温泉旅行に行こうって話」
と電車。
「へえ。いいですね」
と板井は椅子を引きながら。
「今週末でいいかな。仕事が終わった後から二泊三日で」
唯野は三人にぐるりと視線を向けると、PCで何か打ち込み始めた。
「俺の上は副社長だから、必要書類を副社長に送っておけば、後はやってくれるはず」
通常は総括が判を押して総務部へ持っていってくれるらしいが、苦情係の上は副社長な為、総括を通すことがない。
「宿、何処がいいかな」
唯野は乗り気、塩田は嬉しそうである。そんな二人を見ながら電車はウキウキした。しかし一番乗り気だったのは板井だったようで……。
「はい、お奨め宿一覧」
と各PCに一覧を送信する板井。
「気が利くね、板井」
と唯野。
「グッジョブ、板井」
と塩田。
こうして四人は急遽、週末に温泉旅行へいくこととなったのだった。
電車は頬杖をついて唯野の方を見ていた。
──いいなあ。
幸せそう。
塩田が珍しくお節介を焼いたのは、ホントに板井と仲が良いからだと実感した。そもそも塩田の方から連絡を取る相手は板井だけ。ほとんど一緒にいる電車に彼が連絡を取る必要はないので、なおのこと。
──そういや、俺。板井から連絡貰ったことないなあ。
課長からたまにメッセージ貰うけど。
「ねえ、塩田」
「んー?」
隣の塩田に声をかけると、彼はモニターを見つめたまま返事をくれる。
「今度どこか出かけようよ」
「おう、何処へ」
彼は画面を見たまま、傍らのカフェオレに手を伸ばす。
「大人になったし、遊園地も映画館も行けるけど」
と電車が言うと、彼はむせた。
「おま……っ」
タオルハンカチで口元を拭い、恨みがましい目でこちらを見る塩田。
──お付き合いしてエッチしちゃったし、これは大人になったって意味だよね?
「板井たち、泊りがけでコテージに行ったんだって。いいなあ」
と電車が言うと、
「何するんだ、そんなところで」
と言われる。電車は唸った。
──何するんだろう?
アウトドア派の板井たちと違い、自分たちはどう考えてもインドア派である。塩田が遊園地に行きたがったのは、刺激的な乗り物に乗りたかったわけではなく、観覧車に乗りたかっただけだし、どちらかというと塩田の家でのんびり休日を過ごすことが多い二人。電車が板井たちに憧れたのは、泊りがけで出かけたからである。
「じゃあさ、温泉行こうよ」
「!」
一緒に暮らし始めたばかりなのに、泊りがけで何処かに行きたいというのもどうかとは思ったが、一緒に暮らし始めたからこそ車でそのまま出かけられるのも利点だ。
温泉という言葉に、塩田の目がキラキラする。どうやら温泉は好きらしい。
「なに、お前ら温泉旅行に行くのか?」
二人の話を聞いていたのか、唯野がこちらに視線を向けて。どうやら唯野も温泉は好きらしい。
塩田に”二人も誘う?”と合図すれば、彼は頷いた。
「課長、みんなで温泉行かない?」
とさっそく声をかける電車。
声をかけられた唯野は、すごく嬉しそうな表情をした。
「みんなで行くなら、懇親会にして経費で落とすかな」
「そんなこと出来るの?」
電車はこの会社のシステムについてあまり詳しくはなかった。
「うちの会社の場合は福利厚生の一環として懇親会などには補助金を出してくれるんだよね。一人当たりの金額が大体決まっているから、課によっては飲み会にして回数を多くしたり、年数回で一泊旅行している課もあるね」
と、唯野。
「へえ、知らなかった」
「チームワークを大切にしている会社だから、その辺は優遇されてるんだよ。うちの課は去年の春できたばかりでバタバタしていたから、旅行はいかなかったけれど」
穏やかな笑みを浮かべる唯野。塩田は黙って話を聞いている。
そこへ、
「何かあったんですか?」
と板井が商品部から戻って来た。
「懇親会で温泉旅行に行こうって話」
と電車。
「へえ。いいですね」
と板井は椅子を引きながら。
「今週末でいいかな。仕事が終わった後から二泊三日で」
唯野は三人にぐるりと視線を向けると、PCで何か打ち込み始めた。
「俺の上は副社長だから、必要書類を副社長に送っておけば、後はやってくれるはず」
通常は総括が判を押して総務部へ持っていってくれるらしいが、苦情係の上は副社長な為、総括を通すことがない。
「宿、何処がいいかな」
唯野は乗り気、塩田は嬉しそうである。そんな二人を見ながら電車はウキウキした。しかし一番乗り気だったのは板井だったようで……。
「はい、お奨め宿一覧」
と各PCに一覧を送信する板井。
「気が利くね、板井」
と唯野。
「グッジョブ、板井」
と塩田。
こうして四人は急遽、週末に温泉旅行へいくこととなったのだった。
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