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8『二人で歩む幸せの道』
1 電車の過去
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****side■塩田
『紀夫くんにお付き合いされている方がいて、ホッとしたの』
電車の義母はそういって嬉しそうに笑った。
塩田は、父と話してくると言って電車が離籍したため、彼の義母から彼について話を聞いていたのである。
「私がこの家に来た時、紀夫くんは大学卒業間近だった。春休みなのに、毎日弟や妹たちの面倒を見て大変そうだった」
よく親は上の兄弟に下の子の面倒を見させたりするものだが、それは怠慢だと思う。自分が望んで子供を作った以上、親が面倒を見て当たり前。それができないなら子供など作るべきではない。しかし世間にはそういう親がいるのが現状。
子供が子供の面倒など見られるはずがないのに。だから子供の事故が絶えないし、親と距離のある子も多いのではないだろうか?
もっとも最近では一人っ子が多かったりもするが。
塩田は自分の境遇と比べ、電車が苦労していることを知った。彼が温厚なのも争いを避けようとするのも、こういう環境だったからに違いない。
「紀夫くんは凄いなって思うの。前のお義母さんたちとも仲が良くて、彼女たちがよく遊びに来るのよ」
電車の父であり夫がいない時に、我が子に逢いに来るらしい。彼女たちが子供たちの面倒を見てくれることもあるので、家事が捗り助かっているらしい。電車の父の元妻たちは仲がいいともいう。同じ苦労を味わった仲だからだろうか?
「紀夫くんが今の会社に就職して、あまり家に帰らなくなって。あの人も反省したと思うの。今では休みの日には子供の面倒を見てくれるし、家事も手伝ってくれるのよ」
まるで電車の本当の母のように穏やかな人だ。
しかし塩田は何処へ行っても塩である。
「自分の子供なんだから、当然だろ?」
と一言。
彼女はクスクスと笑った。
「今の世の中、イクメンなんてのも増えてるし、どちらが家庭を守るのか選択できる時代にはなってきているけれど、男女間の婚姻はまだまだ古臭い形の方が多いのよ」
むしろ同性間の婚姻の方が自由な発想で家庭をやりくりしていると言う。
「男女ってどうしても分かり合えないものなの。同じ境遇で同じ立場なら平等であるのが普通と考えられるけれど。男女間にはやはり”役割意識”というものが残ってしまうのよね」
おそらく彼女は理解をした上で電車の父の意識を変えた人なのだろう。だからこそ上手くいっているのだ。
「価値観も性格も考え方もみんな大切。でも一番は互いを大切に思う気持ちなんだと思うの」
家事でもなんでも手伝おうとするのは、相手に時間を作ってあげたいという気持ちから起こるもの。大切な人が大変な思いをしていたら、手伝おうと動くものなのだ。
「共同生活なんだから、手伝うのは当たり前。でも相手への感謝を忘れたらダメなのよ。相手が一緒に居てくれるのは当たり前のことじゃないの。元は他人なのだから余計にね」
電車の父は、電車があまり家に居なくなって、初めてそのありがた味に気づいたに違いない。有難いというのは”有るのが難しい(稀)”から派生した言葉でもある。そして妻へのありがた味にも気づいた。
「私はもちろん、二人の同棲には賛成。でもそうなると、ちょっと不便ねえ」
と彼女は外に目を向けた。
「紀夫くんの車、十人乗りだったから」
──……随分いい車に乗ってるじゃないか。
『紀夫くんにお付き合いされている方がいて、ホッとしたの』
電車の義母はそういって嬉しそうに笑った。
塩田は、父と話してくると言って電車が離籍したため、彼の義母から彼について話を聞いていたのである。
「私がこの家に来た時、紀夫くんは大学卒業間近だった。春休みなのに、毎日弟や妹たちの面倒を見て大変そうだった」
よく親は上の兄弟に下の子の面倒を見させたりするものだが、それは怠慢だと思う。自分が望んで子供を作った以上、親が面倒を見て当たり前。それができないなら子供など作るべきではない。しかし世間にはそういう親がいるのが現状。
子供が子供の面倒など見られるはずがないのに。だから子供の事故が絶えないし、親と距離のある子も多いのではないだろうか?
もっとも最近では一人っ子が多かったりもするが。
塩田は自分の境遇と比べ、電車が苦労していることを知った。彼が温厚なのも争いを避けようとするのも、こういう環境だったからに違いない。
「紀夫くんは凄いなって思うの。前のお義母さんたちとも仲が良くて、彼女たちがよく遊びに来るのよ」
電車の父であり夫がいない時に、我が子に逢いに来るらしい。彼女たちが子供たちの面倒を見てくれることもあるので、家事が捗り助かっているらしい。電車の父の元妻たちは仲がいいともいう。同じ苦労を味わった仲だからだろうか?
「紀夫くんが今の会社に就職して、あまり家に帰らなくなって。あの人も反省したと思うの。今では休みの日には子供の面倒を見てくれるし、家事も手伝ってくれるのよ」
まるで電車の本当の母のように穏やかな人だ。
しかし塩田は何処へ行っても塩である。
「自分の子供なんだから、当然だろ?」
と一言。
彼女はクスクスと笑った。
「今の世の中、イクメンなんてのも増えてるし、どちらが家庭を守るのか選択できる時代にはなってきているけれど、男女間の婚姻はまだまだ古臭い形の方が多いのよ」
むしろ同性間の婚姻の方が自由な発想で家庭をやりくりしていると言う。
「男女ってどうしても分かり合えないものなの。同じ境遇で同じ立場なら平等であるのが普通と考えられるけれど。男女間にはやはり”役割意識”というものが残ってしまうのよね」
おそらく彼女は理解をした上で電車の父の意識を変えた人なのだろう。だからこそ上手くいっているのだ。
「価値観も性格も考え方もみんな大切。でも一番は互いを大切に思う気持ちなんだと思うの」
家事でもなんでも手伝おうとするのは、相手に時間を作ってあげたいという気持ちから起こるもの。大切な人が大変な思いをしていたら、手伝おうと動くものなのだ。
「共同生活なんだから、手伝うのは当たり前。でも相手への感謝を忘れたらダメなのよ。相手が一緒に居てくれるのは当たり前のことじゃないの。元は他人なのだから余計にね」
電車の父は、電車があまり家に居なくなって、初めてそのありがた味に気づいたに違いない。有難いというのは”有るのが難しい(稀)”から派生した言葉でもある。そして妻へのありがた味にも気づいた。
「私はもちろん、二人の同棲には賛成。でもそうなると、ちょっと不便ねえ」
と彼女は外に目を向けた。
「紀夫くんの車、十人乗りだったから」
──……随分いい車に乗ってるじゃないか。
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