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7『それぞれが抱える問題と難関』
8 噛み合わない二人
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****side■塩田
雨の土曜日。
『挨拶というのは、晴天吉日と相場が決まっているんじゃないのか?』
『塩田。天気というのは、自然が決めるんだ』
相変わらず嚙み合わない会話をしながら、朝食を取った二人。マンションのロビーに向かったものの、外を見て二人ともなんだか浮かない表情をした。
「紀夫。雨の日の事故率は何パーセントだ?」
「大丈夫、生きて帰ろう」
「挨拶は後日でいいんじゃないかな? 近所のデパートに衣類を求めた方が安全だぞ?」
塩田は雨が苦手だった。
「安全運転するからさ」
「塩は濡れると重くなるんだぞ?」
「塩田は塩でできてないから平気だって」
そういう電車も雨は苦手である。しかし今日は実家に帰る約束をしているので、そうも言ってられない。
「バナナも濡れると良くないぞ?」
塩田はどうしても外に出たくないらしい。
「俺はバナナでできてないから大丈夫。タクシー呼ぶから、ここにいてよ」
傘を持っているくせに、濡れたくないと駄々をこねる塩田をなんとか説き伏せようとする電車。塩田は駅まで歩かなくていいならと折れた。
「なんでそんな嫌なの」
駅まではたった十分の距離。大した距離ではないし、途中高架線の下を通るので少しはマシなはずだ。人のことは言えないが、そこまで雨を嫌う理由が分からないと電車は困った顔をしていたが、
「雨でも会社にはちゃんと……まさかタクシーで来てるの?」
と塩田の方を見る。
歩きで五分の距離を呼ばれるのは迷惑ではないのか? と言う表情をしていた。
「いや。管理人が送ってくれる」
「それもどうなの?」
分譲マンションの管理人が、個人的に会社まで送迎してくれるなんて話は、聞いたことがない。セキュリティーのために巡回することなどはあっても。
しかしここの管理人は、塩田がお気に入り。多少の融通は利くのだった。
「あら、塩田さんお出かけ?」
一階のロビーでタクシーを待っていると、噂の管理人さんに声をかけられた。アフロが特徴のおばさんである。
「紀夫の家に荷物を取りに」
と塩田。
「で、タクシー待ってるんです」
と電車が言うと変な顔をされた。
「駅までなら送ってあげるのに」
と彼女。
「でも呼んじゃったし」
と電車が申し訳なさそうな顔をした。
──ちッ、その手があったか。
しかし塩田は、電車とは違い、惜しいことをしたと思っている。電車はその間、管理人とお土産の話をしていた。さりげない気遣いをするのが電車の良いところである。
「タクシー来たぞ、紀夫」
「じゃあ、またね。管理人さん」
こうして彼らは電車の実家に向かうことになったのだった。
「この路線、初めてだな」
塩田は列車に乗り込むと、窓際に立ち外を眺める。彼はさりげなく塩田の横に立つと、塩田の手を握った。
「いつもは一人だから遠く感じるけれど、今日は塩田が一緒だからきっとあっという間だね」
柔らかく笑う電車。塩田は彼の笑顔が好きだった。しかしどうやらその表情が好きなのは塩田だけではないようで。
背後から女性の黄色い声。塩田は思わず繋いだ手に力を込める。
「痛っ」
力を入れ過ぎたのだろうか? 彼が悲痛な声を漏らし塩田を見つめた。
「痛いよ、どうしたの? 塩田、怖い顔して」
しかし塩田はキッと彼の方を見ると、
「浮気したら許さない」
と告げる。
「え? 何、どういうこと?!」
事態を呑み込めない電車は、困惑気味に塩田に問いかけたのだった。
無茶苦茶である。
雨の土曜日。
『挨拶というのは、晴天吉日と相場が決まっているんじゃないのか?』
『塩田。天気というのは、自然が決めるんだ』
相変わらず嚙み合わない会話をしながら、朝食を取った二人。マンションのロビーに向かったものの、外を見て二人ともなんだか浮かない表情をした。
「紀夫。雨の日の事故率は何パーセントだ?」
「大丈夫、生きて帰ろう」
「挨拶は後日でいいんじゃないかな? 近所のデパートに衣類を求めた方が安全だぞ?」
塩田は雨が苦手だった。
「安全運転するからさ」
「塩は濡れると重くなるんだぞ?」
「塩田は塩でできてないから平気だって」
そういう電車も雨は苦手である。しかし今日は実家に帰る約束をしているので、そうも言ってられない。
「バナナも濡れると良くないぞ?」
塩田はどうしても外に出たくないらしい。
「俺はバナナでできてないから大丈夫。タクシー呼ぶから、ここにいてよ」
傘を持っているくせに、濡れたくないと駄々をこねる塩田をなんとか説き伏せようとする電車。塩田は駅まで歩かなくていいならと折れた。
「なんでそんな嫌なの」
駅まではたった十分の距離。大した距離ではないし、途中高架線の下を通るので少しはマシなはずだ。人のことは言えないが、そこまで雨を嫌う理由が分からないと電車は困った顔をしていたが、
「雨でも会社にはちゃんと……まさかタクシーで来てるの?」
と塩田の方を見る。
歩きで五分の距離を呼ばれるのは迷惑ではないのか? と言う表情をしていた。
「いや。管理人が送ってくれる」
「それもどうなの?」
分譲マンションの管理人が、個人的に会社まで送迎してくれるなんて話は、聞いたことがない。セキュリティーのために巡回することなどはあっても。
しかしここの管理人は、塩田がお気に入り。多少の融通は利くのだった。
「あら、塩田さんお出かけ?」
一階のロビーでタクシーを待っていると、噂の管理人さんに声をかけられた。アフロが特徴のおばさんである。
「紀夫の家に荷物を取りに」
と塩田。
「で、タクシー待ってるんです」
と電車が言うと変な顔をされた。
「駅までなら送ってあげるのに」
と彼女。
「でも呼んじゃったし」
と電車が申し訳なさそうな顔をした。
──ちッ、その手があったか。
しかし塩田は、電車とは違い、惜しいことをしたと思っている。電車はその間、管理人とお土産の話をしていた。さりげない気遣いをするのが電車の良いところである。
「タクシー来たぞ、紀夫」
「じゃあ、またね。管理人さん」
こうして彼らは電車の実家に向かうことになったのだった。
「この路線、初めてだな」
塩田は列車に乗り込むと、窓際に立ち外を眺める。彼はさりげなく塩田の横に立つと、塩田の手を握った。
「いつもは一人だから遠く感じるけれど、今日は塩田が一緒だからきっとあっという間だね」
柔らかく笑う電車。塩田は彼の笑顔が好きだった。しかしどうやらその表情が好きなのは塩田だけではないようで。
背後から女性の黄色い声。塩田は思わず繋いだ手に力を込める。
「痛っ」
力を入れ過ぎたのだろうか? 彼が悲痛な声を漏らし塩田を見つめた。
「痛いよ、どうしたの? 塩田、怖い顔して」
しかし塩田はキッと彼の方を見ると、
「浮気したら許さない」
と告げる。
「え? 何、どういうこと?!」
事態を呑み込めない電車は、困惑気味に塩田に問いかけたのだった。
無茶苦茶である。
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