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7『それぞれが抱える問題と難関』
7 俺が幸せにしてあげるから
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****side■唯野
──なんで俺はこんなに浮かれているんだろう。
板井が店内に消え、唯野は一人になると少し冷静になり恥ずかしくなった。そして好きという感情はとても怖いと感じてしまう。今までの冷静な自分はここにはいない。彼に夢中で、彼の言動に一喜一憂してしまっている。
「修二さん?」
困った顔をして俯いていると、車内に戻ってきた彼に心配そうに声をかけられた。
「お、おかえり」
「どうかしたんですか? また何か変なこと考えてたんでしょう?」
「そんなことな……」
否定しようとして板井に瞳を覗き込まれ、ドキリとする。
顎を捉えられ、口づけられ、
「嘘はダメ」
と言われてしまう。
──どうしてこんなに好きなんだろう?
両想いで、一緒に暮らしていて充分愛されているのに、泣きたい気持ちになる。彼はじっと唯野を見つめていたが、ポケットから小さなアクセサリーの箱を取り出すと、パカっと開けて見せた。唯野は彼と指輪に交互に視線を向ける。
「これで、あなたは俺のものです」
彼は唯野の左手を取ると薬指に指輪を差し入れて、
「逃さないから」
と続けた。
そんな彼を見ながら唯野は、”ああ、そうか”と思う。
──俺は初めて、恋をした相手と恋人になれたんだ。
だから不安でたまらない。
学生の時、それなりに付き合った相手はいた。しかし恋をしていたかと言われると、はっきり答えられない。十代の付き合いなど”恋に恋しているだけ”なのだ。男にとっては性欲の対象でしかないかもしれない。それすら曖昧。
周りに恋人持ちがいるから、なんとなく付き合うということもあるだろう。
いざ社会に出て、自立を始めた唯野の二十代は順調とは言えなかった。恋する暇もなく、婚姻に至る。そしていつの間にか十七年が経っていた。きっと塩田への想いは初恋だったに違いない。
しかし叶うことがなかったし、自分は既婚者だった。
叶わなくても当たり前だと思っていたのだ。それがいつの間にか板井に惹かれていて、好きになった相手と両想いになった。自分にとって想いを寄せた相手とのお付き合いは初めて。不安なのは仕方ないこと。
むしろ彼が落ち着いているのが不思議なくらいだ。
「逃げたりなんてしない」
唯野は彼の襟元を掴み引き寄せると、自分から口づける。こんな自分でいいのだろうかと、何度も思った。けれど彼に求められるたび、身体は喜びを刻み込まれた。彼を失ったらどうしていいか分からない。
「!」
シートを倒され、深く口づけられる。唯野は彼の首に自分の腕を絡めた。温かい体温がとても落ち着く。
「ホテル、行きましょうか」
と問われ、唯野は自分が欲情していたことに気づく。
──俺、こんなに性欲強かったか?
「嫌?」
と耳元で囁かれ、
「俺もしたい」
と返答すると、彼は身を起こしシートベルトをする。
唯野もシートを起こし、エンジンをかける彼を見つめた。彼は片手でハンドルを握り、ナビに手を伸ばす。
「修二さん」
「うん?」
シートベルトを締めていた唯野は彼に再び視線を戻して。
「俺が世界一幸せにしてあげるから。そんな顔しないで」
彼は前を向いたままそういうと、アクセルを踏んだのだった。
──なんで俺はこんなに浮かれているんだろう。
板井が店内に消え、唯野は一人になると少し冷静になり恥ずかしくなった。そして好きという感情はとても怖いと感じてしまう。今までの冷静な自分はここにはいない。彼に夢中で、彼の言動に一喜一憂してしまっている。
「修二さん?」
困った顔をして俯いていると、車内に戻ってきた彼に心配そうに声をかけられた。
「お、おかえり」
「どうかしたんですか? また何か変なこと考えてたんでしょう?」
「そんなことな……」
否定しようとして板井に瞳を覗き込まれ、ドキリとする。
顎を捉えられ、口づけられ、
「嘘はダメ」
と言われてしまう。
──どうしてこんなに好きなんだろう?
両想いで、一緒に暮らしていて充分愛されているのに、泣きたい気持ちになる。彼はじっと唯野を見つめていたが、ポケットから小さなアクセサリーの箱を取り出すと、パカっと開けて見せた。唯野は彼と指輪に交互に視線を向ける。
「これで、あなたは俺のものです」
彼は唯野の左手を取ると薬指に指輪を差し入れて、
「逃さないから」
と続けた。
そんな彼を見ながら唯野は、”ああ、そうか”と思う。
──俺は初めて、恋をした相手と恋人になれたんだ。
だから不安でたまらない。
学生の時、それなりに付き合った相手はいた。しかし恋をしていたかと言われると、はっきり答えられない。十代の付き合いなど”恋に恋しているだけ”なのだ。男にとっては性欲の対象でしかないかもしれない。それすら曖昧。
周りに恋人持ちがいるから、なんとなく付き合うということもあるだろう。
いざ社会に出て、自立を始めた唯野の二十代は順調とは言えなかった。恋する暇もなく、婚姻に至る。そしていつの間にか十七年が経っていた。きっと塩田への想いは初恋だったに違いない。
しかし叶うことがなかったし、自分は既婚者だった。
叶わなくても当たり前だと思っていたのだ。それがいつの間にか板井に惹かれていて、好きになった相手と両想いになった。自分にとって想いを寄せた相手とのお付き合いは初めて。不安なのは仕方ないこと。
むしろ彼が落ち着いているのが不思議なくらいだ。
「逃げたりなんてしない」
唯野は彼の襟元を掴み引き寄せると、自分から口づける。こんな自分でいいのだろうかと、何度も思った。けれど彼に求められるたび、身体は喜びを刻み込まれた。彼を失ったらどうしていいか分からない。
「!」
シートを倒され、深く口づけられる。唯野は彼の首に自分の腕を絡めた。温かい体温がとても落ち着く。
「ホテル、行きましょうか」
と問われ、唯野は自分が欲情していたことに気づく。
──俺、こんなに性欲強かったか?
「嫌?」
と耳元で囁かれ、
「俺もしたい」
と返答すると、彼は身を起こしシートベルトをする。
唯野もシートを起こし、エンジンをかける彼を見つめた。彼は片手でハンドルを握り、ナビに手を伸ばす。
「修二さん」
「うん?」
シートベルトを締めていた唯野は彼に再び視線を戻して。
「俺が世界一幸せにしてあげるから。そんな顔しないで」
彼は前を向いたままそういうと、アクセルを踏んだのだった。
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