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7『それぞれが抱える問題と難関』
6 雨の日のドライブ
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****side■板井
『おまッ……随分いい車に乗ってるんだな』
『そうですか?』
雨の日のドライブ。車内にはしっとりとした音楽が流れていた。
別にドライブに行こうと約束をしたわけではない。家から身の回りの物を運ぶのに車で唯野のマンションに来たのがきっかけ。
仕事帰りに呑みに行くことはあるが、互いに電車通勤。一緒に暮らすことにはなったが、本格的な引っ越し作業は月末に予定していた。その為、板井の所持する車を彼が見るのは初めてのこと。
唯野は家族がいるので多人数でもゆったりと乗れるワゴンを所持していたが、板井は単身のため趣味全開の四駆。就職して割とすぐに結婚してしまった唯野にしてみれば、好きな車に乗れるのは羨ましいのだろう。
『いいなあ』
と彼が言うものだから、天気が悪いのにも関わらずドライブへ繰り出すことにしたのだった。
彼は窓枠に肘をつき頬杖をついて窓の外を眺めている。きっと自分が板井くらいの頃のことを思い出しているのだろう。聞く限りでは、あまり幸せとは言い難い彼の二十代。
騙されて婚姻し、会長におもちゃにされ、営業と言う仕事は多忙を極めた。現在の総括がいなかったなら、きっと地獄でしかなかったろう。
「そういえば、総括って名前なんていうんですか?」
わが社では防犯対策として自分の課以外ではネームプレートを胸ポケットにしまっておく仕組みになっている。社外でもつけっぱなしにして、ストーカー被害にあった社員がいたことが始まりらしい。女性社員はそのため、ネームプレートをつけない。その代わりにデスクにネームプレートを置いていた。
女性陣はそれを好きなようにデコレーションするのが流行っているらしく、ぬいぐるみがついていたり、リボンがついていたりして派手である。
「ああ、黒岩ね」
近年では役職では呼ばず、名前にさん付けという会社の方が多いが、わが社ではなるべく名前で呼ばないようにしているのである。これについては、本社の役員数が膨大な為と社員数も膨大な為、いちいち名前を覚えるという社員の負担を軽減するため。もちろん、苗字で呼び合うのは自由である。
名前を覚える暇があったら、仕事を覚えろがわが社の方針だ。そんなこともあり、社長の名前を知らない者もわんさかいる。
「修二さんって、結構有名ですよね」
「えー?」
総括の名前を聞いたのは初めてだったが、唯野の噂を聞くことは多い。役職で呼ぶことの多いわが社で、よく名前が知られているということはそれなりに有名人ということになる。あれだけ目立つ皇でさえ、副社長としか呼ばれないのだから。
「俺は単に、色んな部署を転々としたことがあるからだよ。課長という役職に就いたのも、板井たちが入社した年だしな」
そういうものなのかと思いながら、目的地の駐車場に車を停めた。彼には内緒にしていた目的地である。
「板井?」
「離婚、成立したんですよね?」
それは宝石店であった。板井は指輪の受け取りの予定を彼の離婚成立の翌日に合わせていたのだ。
「ああ……うん」
板井の思惑を察したのか、少し頬を染めて嬉しそうに笑う彼が愛しい。
「ちょっと待っていてくださいね」
板井は腕時計で時間を確認すると、運転席から出て宝石店の店内へ向かったのだった。
『おまッ……随分いい車に乗ってるんだな』
『そうですか?』
雨の日のドライブ。車内にはしっとりとした音楽が流れていた。
別にドライブに行こうと約束をしたわけではない。家から身の回りの物を運ぶのに車で唯野のマンションに来たのがきっかけ。
仕事帰りに呑みに行くことはあるが、互いに電車通勤。一緒に暮らすことにはなったが、本格的な引っ越し作業は月末に予定していた。その為、板井の所持する車を彼が見るのは初めてのこと。
唯野は家族がいるので多人数でもゆったりと乗れるワゴンを所持していたが、板井は単身のため趣味全開の四駆。就職して割とすぐに結婚してしまった唯野にしてみれば、好きな車に乗れるのは羨ましいのだろう。
『いいなあ』
と彼が言うものだから、天気が悪いのにも関わらずドライブへ繰り出すことにしたのだった。
彼は窓枠に肘をつき頬杖をついて窓の外を眺めている。きっと自分が板井くらいの頃のことを思い出しているのだろう。聞く限りでは、あまり幸せとは言い難い彼の二十代。
騙されて婚姻し、会長におもちゃにされ、営業と言う仕事は多忙を極めた。現在の総括がいなかったなら、きっと地獄でしかなかったろう。
「そういえば、総括って名前なんていうんですか?」
わが社では防犯対策として自分の課以外ではネームプレートを胸ポケットにしまっておく仕組みになっている。社外でもつけっぱなしにして、ストーカー被害にあった社員がいたことが始まりらしい。女性社員はそのため、ネームプレートをつけない。その代わりにデスクにネームプレートを置いていた。
女性陣はそれを好きなようにデコレーションするのが流行っているらしく、ぬいぐるみがついていたり、リボンがついていたりして派手である。
「ああ、黒岩ね」
近年では役職では呼ばず、名前にさん付けという会社の方が多いが、わが社ではなるべく名前で呼ばないようにしているのである。これについては、本社の役員数が膨大な為と社員数も膨大な為、いちいち名前を覚えるという社員の負担を軽減するため。もちろん、苗字で呼び合うのは自由である。
名前を覚える暇があったら、仕事を覚えろがわが社の方針だ。そんなこともあり、社長の名前を知らない者もわんさかいる。
「修二さんって、結構有名ですよね」
「えー?」
総括の名前を聞いたのは初めてだったが、唯野の噂を聞くことは多い。役職で呼ぶことの多いわが社で、よく名前が知られているということはそれなりに有名人ということになる。あれだけ目立つ皇でさえ、副社長としか呼ばれないのだから。
「俺は単に、色んな部署を転々としたことがあるからだよ。課長という役職に就いたのも、板井たちが入社した年だしな」
そういうものなのかと思いながら、目的地の駐車場に車を停めた。彼には内緒にしていた目的地である。
「板井?」
「離婚、成立したんですよね?」
それは宝石店であった。板井は指輪の受け取りの予定を彼の離婚成立の翌日に合わせていたのだ。
「ああ……うん」
板井の思惑を察したのか、少し頬を染めて嬉しそうに笑う彼が愛しい。
「ちょっと待っていてくださいね」
板井は腕時計で時間を確認すると、運転席から出て宝石店の店内へ向かったのだった。
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