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7『それぞれが抱える問題と難関』
5【微R】ヤバすぎる男、総括黒岩
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****side■唯野
「ねえ、修二さん」
行為に夢中になっていた唯野は彼に名を呼ばれ、瞼を上げる。その途端、優しく口づけられ深く腰を進められた。
「んんッ」
気持ちよくてどうにかなってしまいそうだ。彼にぎゅっとしがみつけば、優しく抱きしめ返してくれる。
──いつか恋をして、温かい家庭を作るのが夢だった。
俺の夢は叶わなかったけれど……。
板井とならきっと楽しい結婚生活ができるだろう、唯野はそんな風に思う。
自分に突き付けられた現実は、決して優しいものではなかった。愛しい娘は自分とは血のつながりがなく、まがい物の愛を信じていただけ。
──これが自分の運命だと言うのなら、受け止める。
でも彼だけは、俺から取り上げないでほしい。
振り返れば、幸せとは言い難い人生だった。その中でやっと手にした幸せが、彼。一途で誠実で真っすぐな彼はきっと自分を幸せにしてくれるだろう。欲しかった温かさを与えてくれる存在。
しかしそんな彼に、自分は何をしてあげられるだろうか?
──恋も愛も努力なんだと思う。
貰うだけでも駄目だし、与えるだけでも駄目だ。
「板井」
「はい?」
「明日は一緒に朝食を取ろう」
それは些細な事かもしれない。けれど一緒の時間を作っていくことが大切なのだと思う。
唯野の言葉に優しい笑みを浮かべる彼。こんな小さなことが、とても幸せなんだと感じた。
情事の後の心地よい気だるさに身を任せながら、板井にすり寄ると背中を撫でられた。彼の手の平から伝わる温もりと優しさ。あの頃はこんな日が来るなんて思ってもいなかった。
「そう言えば」
と突然話を振られ、なんだと言うように彼に視線を向ける。
「妙な噂を耳にしたんですが」
「噂?」
あまりいい予感はしない。板井は元々余計なことを言わない男だ。わざわざ切り出すということは、自分にまつわる話に違いない。
「修二さん、総括に交際を迫られたことがあるらしいですね」
「え? ……あ、いや、あれは冗談だろ?」
それは今から十七年も前の話。しかも結婚する前の。
「やっぱりホントなんですね」
”通りで距離感が変だと思いました”と彼は言う。
──そんなに距離感変か?
「いくら同期で仲がいいからと言って、あんなクソ忙しい人が足蹴く苦情係にやってくるのはオカシイと思っていたんですよ」
「待てよ。昔の話だぞ。そもそも誰に聞いたんだよ」
「秘書室長です。たまに屋上で会うんですよ。修二さんの同期らしいですね」
「ああ、まあ」
──余計なこと言わないように、口止めしとかないとな。
「修二さん、気を付けてくださいよ? 人の気持ちなんて何がきっかけで再燃するか分かったものじゃないし。それにあの人は、割り切った大人の関係を好むタイプですよ」
何を見てそう思うのかは分からないが、強ち間違ってはいないと思った。
『唯野、俺と付き合わないか?』
『え?』
『男同士なら子供ができる心配もないし、思う存分性欲を発散できるぞ』
『いや、遠慮する』
──まだ若かったとは言え、あいつは愛情よりも性欲の暴走した男だった気がする。
最近落ち着いたけれど。
「ま、大丈夫だろ」
唯野の言葉にため息をつく板井。
「修二さんは危機管理が甘すぎます」
その言葉が現実のものとなるとは思ってもいなかった唯野であった。
「ねえ、修二さん」
行為に夢中になっていた唯野は彼に名を呼ばれ、瞼を上げる。その途端、優しく口づけられ深く腰を進められた。
「んんッ」
気持ちよくてどうにかなってしまいそうだ。彼にぎゅっとしがみつけば、優しく抱きしめ返してくれる。
──いつか恋をして、温かい家庭を作るのが夢だった。
俺の夢は叶わなかったけれど……。
板井とならきっと楽しい結婚生活ができるだろう、唯野はそんな風に思う。
自分に突き付けられた現実は、決して優しいものではなかった。愛しい娘は自分とは血のつながりがなく、まがい物の愛を信じていただけ。
──これが自分の運命だと言うのなら、受け止める。
でも彼だけは、俺から取り上げないでほしい。
振り返れば、幸せとは言い難い人生だった。その中でやっと手にした幸せが、彼。一途で誠実で真っすぐな彼はきっと自分を幸せにしてくれるだろう。欲しかった温かさを与えてくれる存在。
しかしそんな彼に、自分は何をしてあげられるだろうか?
──恋も愛も努力なんだと思う。
貰うだけでも駄目だし、与えるだけでも駄目だ。
「板井」
「はい?」
「明日は一緒に朝食を取ろう」
それは些細な事かもしれない。けれど一緒の時間を作っていくことが大切なのだと思う。
唯野の言葉に優しい笑みを浮かべる彼。こんな小さなことが、とても幸せなんだと感じた。
情事の後の心地よい気だるさに身を任せながら、板井にすり寄ると背中を撫でられた。彼の手の平から伝わる温もりと優しさ。あの頃はこんな日が来るなんて思ってもいなかった。
「そう言えば」
と突然話を振られ、なんだと言うように彼に視線を向ける。
「妙な噂を耳にしたんですが」
「噂?」
あまりいい予感はしない。板井は元々余計なことを言わない男だ。わざわざ切り出すということは、自分にまつわる話に違いない。
「修二さん、総括に交際を迫られたことがあるらしいですね」
「え? ……あ、いや、あれは冗談だろ?」
それは今から十七年も前の話。しかも結婚する前の。
「やっぱりホントなんですね」
”通りで距離感が変だと思いました”と彼は言う。
──そんなに距離感変か?
「いくら同期で仲がいいからと言って、あんなクソ忙しい人が足蹴く苦情係にやってくるのはオカシイと思っていたんですよ」
「待てよ。昔の話だぞ。そもそも誰に聞いたんだよ」
「秘書室長です。たまに屋上で会うんですよ。修二さんの同期らしいですね」
「ああ、まあ」
──余計なこと言わないように、口止めしとかないとな。
「修二さん、気を付けてくださいよ? 人の気持ちなんて何がきっかけで再燃するか分かったものじゃないし。それにあの人は、割り切った大人の関係を好むタイプですよ」
何を見てそう思うのかは分からないが、強ち間違ってはいないと思った。
『唯野、俺と付き合わないか?』
『え?』
『男同士なら子供ができる心配もないし、思う存分性欲を発散できるぞ』
『いや、遠慮する』
──まだ若かったとは言え、あいつは愛情よりも性欲の暴走した男だった気がする。
最近落ち着いたけれど。
「ま、大丈夫だろ」
唯野の言葉にため息をつく板井。
「修二さんは危機管理が甘すぎます」
その言葉が現実のものとなるとは思ってもいなかった唯野であった。
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