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7『それぞれが抱える問題と難関』
1 塩田の両親は天然?
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****side■塩田
情事の後、ぬるま湯に浸かりながら、
「塩田の家ってどんな感じ?」
と電車に問われる。
「うーん……アラブ系?」
塩田の家は父が設計をミスした為に、アラブの宮殿のような造りであった。母は天然が入っているのか、アラブ系の曲と称した音楽をかけているのだが、まるでゲームのボス戦のような曲に感じる。何度もツッコもうとは思ったが、面倒なことになりそうなので未だに放置だ。
「え? 塩田ってハーフか何か?」
塩田の返事に電車が驚いた顔をする。
「いや? 生粋の日本人だが」
なんだその偏見は、と思っているとどうやら聞かれたのは、家の造形のことではなかったらしいことに気づく。
「いや、家の造りがアラブ系だ。俺は純日本家屋に住みたかったんだが。親父が設計をミスったんだ」
「そういえばその話は、課長から少し聞いたことがある」
塩田は姫路城のような所に住みたいと要望を出した。しかし何かの手違いで、アラブの宮殿のような家が完成したのである。どこをどんな風に間違ったらそうなったのか、いまだに謎だ。
『パパ、間違えちゃった。ててペロ』
『ててペロ……って、おい』
塩田は両親とは仲が悪いわけではない。しかし何かと反対をしてくる父母。塩田が可愛くて過保護というよりは、世間様に迷惑をかけるのではないかと心配で仕方ないらしい。
今の会社にスカウトされた時も、苦情係の課長唯野と社長が両親を説得にやってきた。唯野はわが家を見上げ、
『魔王城……』
と呟いていたのが忘れられない。
とにかく説得が大変で、唯野が密かに母のことを魔王と呼んでいることを塩田は知っていた。
『以往ちゃんが社会に出るなんて、千年早いわ! 大丈夫よ、以往ちゃん。働かなくても一生……いえ墓を建てるくらいまで、お金ならあるわ。以往ちゃんのことは、パパとママが死んでも面倒見るから、就職なんて止めるのよ!』
塩田を社会に出さないために必死で貯蓄したとなると、涙ぐましい。
「うちの家族のことか?」
”アラブ系と日本家屋って近かった? 平屋だっけ?”と首をかしげる彼に、塩田は話をふる。”そろそろ上がらないと逆上せるね”と言って彼が立ち上がるので、塩田もそれに続いた。
「そそ、家族のこと」
彼は自分の身体を拭き終えると、塩田の髪を拭きながら。
「うちの親は温厚だな。まあしょっちゅう”以往ちゃんはいつになったらママの言うこと聞くようになるの!”って怒られるけど」
現在二十四の塩田。この年齢まで親の言うとことを聞かないのであれば、その日が来るのかは定かではない。
「そういえば課長が、塩田のご両親はなんでも反対するって言ってたね。俺、お付き合いを承諾して欲しいんだけど。大丈夫かな?」
と、電車。
「多少、親父が殴ってくるだろうけど、大丈夫だろう」
「え? 殴られるの?」
「避ければ問題ない」
”そういう問題では……”と呟くように言う彼をリビングに促し、ソファーに腰かける。
「髪、艶々」
彼は塩田のサラサラの黒髪を弄りながら、微笑んだ。彼が来た日はいつもシャンプーをしてもらっている。ドライヤーまであててくれるのだ。塩田にとってお気に入りの時間である。
「紀夫がシャンプーしてくれるから」
と塩田が笑うと、なぜか彼がスマホのカメラを構えシャッターを切った。
「何してんだ、紀夫」
「可愛かったから」
ニコッと笑って彼は姿勢を直すと、何やらスマホを操作する。塩田はその手元を覗き込んだ。
「待ち受けにするなよ」
「いいでしょ?」
「だったら、二人で撮ろうよ」
「いいねえ。はい、笑ってー」
塩田のTシャツには”I LOVE 塩”と書かれている。電車のTシャツには”バナナ命”と書かれていた。果たして何の記念撮影なのか分からない二人の写真が彼の待ち受けとなり、後日同僚の板井からツッコまれることとなるのであった。
情事の後、ぬるま湯に浸かりながら、
「塩田の家ってどんな感じ?」
と電車に問われる。
「うーん……アラブ系?」
塩田の家は父が設計をミスした為に、アラブの宮殿のような造りであった。母は天然が入っているのか、アラブ系の曲と称した音楽をかけているのだが、まるでゲームのボス戦のような曲に感じる。何度もツッコもうとは思ったが、面倒なことになりそうなので未だに放置だ。
「え? 塩田ってハーフか何か?」
塩田の返事に電車が驚いた顔をする。
「いや? 生粋の日本人だが」
なんだその偏見は、と思っているとどうやら聞かれたのは、家の造形のことではなかったらしいことに気づく。
「いや、家の造りがアラブ系だ。俺は純日本家屋に住みたかったんだが。親父が設計をミスったんだ」
「そういえばその話は、課長から少し聞いたことがある」
塩田は姫路城のような所に住みたいと要望を出した。しかし何かの手違いで、アラブの宮殿のような家が完成したのである。どこをどんな風に間違ったらそうなったのか、いまだに謎だ。
『パパ、間違えちゃった。ててペロ』
『ててペロ……って、おい』
塩田は両親とは仲が悪いわけではない。しかし何かと反対をしてくる父母。塩田が可愛くて過保護というよりは、世間様に迷惑をかけるのではないかと心配で仕方ないらしい。
今の会社にスカウトされた時も、苦情係の課長唯野と社長が両親を説得にやってきた。唯野はわが家を見上げ、
『魔王城……』
と呟いていたのが忘れられない。
とにかく説得が大変で、唯野が密かに母のことを魔王と呼んでいることを塩田は知っていた。
『以往ちゃんが社会に出るなんて、千年早いわ! 大丈夫よ、以往ちゃん。働かなくても一生……いえ墓を建てるくらいまで、お金ならあるわ。以往ちゃんのことは、パパとママが死んでも面倒見るから、就職なんて止めるのよ!』
塩田を社会に出さないために必死で貯蓄したとなると、涙ぐましい。
「うちの家族のことか?」
”アラブ系と日本家屋って近かった? 平屋だっけ?”と首をかしげる彼に、塩田は話をふる。”そろそろ上がらないと逆上せるね”と言って彼が立ち上がるので、塩田もそれに続いた。
「そそ、家族のこと」
彼は自分の身体を拭き終えると、塩田の髪を拭きながら。
「うちの親は温厚だな。まあしょっちゅう”以往ちゃんはいつになったらママの言うこと聞くようになるの!”って怒られるけど」
現在二十四の塩田。この年齢まで親の言うとことを聞かないのであれば、その日が来るのかは定かではない。
「そういえば課長が、塩田のご両親はなんでも反対するって言ってたね。俺、お付き合いを承諾して欲しいんだけど。大丈夫かな?」
と、電車。
「多少、親父が殴ってくるだろうけど、大丈夫だろう」
「え? 殴られるの?」
「避ければ問題ない」
”そういう問題では……”と呟くように言う彼をリビングに促し、ソファーに腰かける。
「髪、艶々」
彼は塩田のサラサラの黒髪を弄りながら、微笑んだ。彼が来た日はいつもシャンプーをしてもらっている。ドライヤーまであててくれるのだ。塩田にとってお気に入りの時間である。
「紀夫がシャンプーしてくれるから」
と塩田が笑うと、なぜか彼がスマホのカメラを構えシャッターを切った。
「何してんだ、紀夫」
「可愛かったから」
ニコッと笑って彼は姿勢を直すと、何やらスマホを操作する。塩田はその手元を覗き込んだ。
「待ち受けにするなよ」
「いいでしょ?」
「だったら、二人で撮ろうよ」
「いいねえ。はい、笑ってー」
塩田のTシャツには”I LOVE 塩”と書かれている。電車のTシャツには”バナナ命”と書かれていた。果たして何の記念撮影なのか分からない二人の写真が彼の待ち受けとなり、後日同僚の板井からツッコまれることとなるのであった。
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