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6『恋愛経験者と未経験者たち』
7 対等でいられる恋人
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****side■唯野
全ての発端は十七年前の事件にある。
自身がああいう体験をしていたから皇を社長から守りたいと思うのだ。自分にしか守れないと。そしてどんなにバカだと言われようが、信念を曲げるつもりはない。後悔はしていないのだ。
何度人生をやり直したとしてもきっと、同じ選択をするだろう。自分の選択が間違っているとは思えない。例えどんなに辛くても。
焼き鳥屋を出ると、心地よい風が二人の間を駆け抜けた。酔った勢いもあって、唯野は板井の手に自分の指を絡める。
「そんなことして……誰かに見られても知りませんよ?」
と少し呆れ声の彼に身体を寄せた。
「暗いからきっと、わからないよ」
と返す唯野。
「早く堂々と付き合いたいよ」
と続ければ、彼は笑って、
「そうですね」
と、唯野の手を握る手に力を籠める。
──板井は大人だなと思う。
年の差あんまり感じたことないしな。
塩田を好きだった時は、明らかに自分の方が年上という感じであった。しかし板井といると対等であり、自分らしくいられる。恋愛とは自分が自分らしくいられる相手が心地よいのだと思った。
「ちょうどよい酔い覚ましになりそうですね」
雲がかかった空は、月を隠している。
闇が二人の秘め事を隠すように、味方してくれているように感じた。
「さっきの話だけれど」
「はい?」
「俺は自分でも気づかないうちから、板井のこと好きだったみたいだ」
闇に紛れた告白。顔が赤いのは酔っているせいだと、自分に言い訳して。
「それは嬉しいですね」
と、板井。
嬉しそうな彼の声が唯野の心を満たしていく。
「指輪、してくれるんですよね?」
「当たり前だろ」
先ほど焼き鳥屋で言われたことを思い出し、唯野はさらに赤くなった。
こんな風に愛されるのは初めてで、反応に困る。
『恋人の証を、その指につけてほしい』
板井に言われた言葉。彼は真面目で硬そうに見えるが、度々ロマンチックな言動をする。そのギャップに夢中な自分がいるのは否めない。
「修二さんは気づいていないみたいだけれど。あなたのこと狙っている女子社員多いんですから、気をつけてくださいね」
「え? 俺はモテないぞ」
電車や副社長じゃあるまいし、と思っているとため息をつかれてしまう。
「それは、あなたが既婚者だったからでしょう?」
「え。でも……」
「うちの会社には、至る所に監視カメラがあるんですよ? 不倫なんですぐにバレる。そんなハイリスクなことを犯す人がいないから、今まで表立ってあなたに迫る人がいなかっただけです」
確かに社内に監視カメラが多数設置されている。だがあれを管理しているのは社長であり、皇を守るために設置されたものだ。それがそんな風に抑止力になっているとは、目から鱗であった。
監視カメラは特に休憩室の入り口や死角となる廊下の奥、資料室の入り口、エレベーター内などに設置されている。つまり、無理やり連れ込まれたりした時に分かるようになっているのだ。部署内や休憩室内、更衣室やトイレ内などにあるわけではないのでプライバシーは守られてはいるが。
──板井はほんと、いろんなところを見ているんだな。
設置されている理由までは知らなそうだが。
「浮気は心配してませんが……」
板井はそこで言葉を濁らせる。恐らく唯野が結婚に至る経緯のことを思い出しているのだろう。唯野は騙されて結婚に至った。だから心配なのだと。
「女性と二人きりになるのは危険ですよ?」
束縛したいわけではないが、と付け加えて。
「板井以外と二人きりで、呑みに行ったりなんてしないから」
と唯野が困ったように返答すると、不意にぎゅっと抱きしめられたのだった。
全ての発端は十七年前の事件にある。
自身がああいう体験をしていたから皇を社長から守りたいと思うのだ。自分にしか守れないと。そしてどんなにバカだと言われようが、信念を曲げるつもりはない。後悔はしていないのだ。
何度人生をやり直したとしてもきっと、同じ選択をするだろう。自分の選択が間違っているとは思えない。例えどんなに辛くても。
焼き鳥屋を出ると、心地よい風が二人の間を駆け抜けた。酔った勢いもあって、唯野は板井の手に自分の指を絡める。
「そんなことして……誰かに見られても知りませんよ?」
と少し呆れ声の彼に身体を寄せた。
「暗いからきっと、わからないよ」
と返す唯野。
「早く堂々と付き合いたいよ」
と続ければ、彼は笑って、
「そうですね」
と、唯野の手を握る手に力を籠める。
──板井は大人だなと思う。
年の差あんまり感じたことないしな。
塩田を好きだった時は、明らかに自分の方が年上という感じであった。しかし板井といると対等であり、自分らしくいられる。恋愛とは自分が自分らしくいられる相手が心地よいのだと思った。
「ちょうどよい酔い覚ましになりそうですね」
雲がかかった空は、月を隠している。
闇が二人の秘め事を隠すように、味方してくれているように感じた。
「さっきの話だけれど」
「はい?」
「俺は自分でも気づかないうちから、板井のこと好きだったみたいだ」
闇に紛れた告白。顔が赤いのは酔っているせいだと、自分に言い訳して。
「それは嬉しいですね」
と、板井。
嬉しそうな彼の声が唯野の心を満たしていく。
「指輪、してくれるんですよね?」
「当たり前だろ」
先ほど焼き鳥屋で言われたことを思い出し、唯野はさらに赤くなった。
こんな風に愛されるのは初めてで、反応に困る。
『恋人の証を、その指につけてほしい』
板井に言われた言葉。彼は真面目で硬そうに見えるが、度々ロマンチックな言動をする。そのギャップに夢中な自分がいるのは否めない。
「修二さんは気づいていないみたいだけれど。あなたのこと狙っている女子社員多いんですから、気をつけてくださいね」
「え? 俺はモテないぞ」
電車や副社長じゃあるまいし、と思っているとため息をつかれてしまう。
「それは、あなたが既婚者だったからでしょう?」
「え。でも……」
「うちの会社には、至る所に監視カメラがあるんですよ? 不倫なんですぐにバレる。そんなハイリスクなことを犯す人がいないから、今まで表立ってあなたに迫る人がいなかっただけです」
確かに社内に監視カメラが多数設置されている。だがあれを管理しているのは社長であり、皇を守るために設置されたものだ。それがそんな風に抑止力になっているとは、目から鱗であった。
監視カメラは特に休憩室の入り口や死角となる廊下の奥、資料室の入り口、エレベーター内などに設置されている。つまり、無理やり連れ込まれたりした時に分かるようになっているのだ。部署内や休憩室内、更衣室やトイレ内などにあるわけではないのでプライバシーは守られてはいるが。
──板井はほんと、いろんなところを見ているんだな。
設置されている理由までは知らなそうだが。
「浮気は心配してませんが……」
板井はそこで言葉を濁らせる。恐らく唯野が結婚に至る経緯のことを思い出しているのだろう。唯野は騙されて結婚に至った。だから心配なのだと。
「女性と二人きりになるのは危険ですよ?」
束縛したいわけではないが、と付け加えて。
「板井以外と二人きりで、呑みに行ったりなんてしないから」
と唯野が困ったように返答すると、不意にぎゅっと抱きしめられたのだった。
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