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6『恋愛経験者と未経験者たち』
4 察しが良すぎるのも考えもの
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****side■板井
察しが良いというのは、時として仇にもなるものである。
──まずいこと言ったな。
板井が気づいた時は手遅れだった。それは聞いてはいけないことだったに違いない。もう少しオブラートに包んだ問い方をすれば良かったと後悔する板井。隣の唯野は固まっている。
「えっと、修二さん」
「俺。恨み買ったとか言ったっけ?」
ごまかそうとしたが、やはり手遅れのようだ。これはトコトン話をすべきだろうと思った。
「板井……お前さ。何をどこまで知ってる? 気づいてるんだ?」
こちらに再び視線を向けた唯野は、いささか青ざめているように見える。知られたくないことなのだろうか。
板井は覚悟を決める。これは全て憶測にすぎない。しかし今まで聞いた話を総合すると、想像できてしまうことがあったのだ。
「以前、塩田と一緒に居た時に皇副社長から話を聞きました。修二さんが、営業部時代より社長からパワハラを受けていたということを」
唯野の手が震えている。それはきっと、自分の努力が無駄だったことを知ったからであろう。彼はいつだって、社長に呼ばれた時には笑顔で冗談を言っていたのだから。そこで塩田が言っていたことを思い出す。
『課長が、板井には心配されたくないとか言うから……』
そしてハッとした。その言葉の本当の意味に気づいたからである。恐らく彼は、自分には知られたくなかったのだ。社長からパワハラされていることを。自分を慕ってくれている部下には。
──いや、そうだろうか?
ならば、なぜ塩田には知られても平気だったのか。
「修二さん……もしかして」
板井は口元を覆う。
自惚れてもいいだろうか?
「そんなに前から、俺のこと……好き?」
きっと知られたくなかったのは、好きな相手だったから。
そして彼自身、自覚がなかったのかもしれない。塩田のことに関しては、早い段階で吹っ切れているような素振りを見せてた。ならば、その可能性は否定できないのではないだろうか。
「板井、あのな」
青ざめていた唯野は、真っ赤な顔をしてうつむいている。きっと今自覚したに違いない。
「俺から聞いておいてなんだが」
「はい?」
「ここ、店の中だし。続きは帰ってからにしよう」
同性婚可能な時代になってだいぶ経つが、男性同士でイチャイチャするのは目立つようだ。これ以上そういう話をしていては、注目を浴びると判断した唯野は話を打ち切った。
板井は何気なく周囲に目をやる。奥のカウンター席のため話の内容から目立つことはなさそうだが、なにせ唯野は四十手前とはいえ見目が良いため、女性の視線を集める。
──そういえば、修二さんが指輪してないこと、あっという間に広まってたな。
彼を慕うものは社内に多い。それは見た目も含まれてはいるだろうが、どちらかと言うと人当たりの良さからだ。色んな部署を一時期にでも回された唯野は知り合いも多く、日常的に色んな課の人たちと接していた。
「修二さん」
彼は心を落ち着けるためか、ビールに口をつけている。
「うん?」
これから彼がモテることを覚悟しなくてはならない。大変気が重いが。それも主に女性であろう。妻がいたのだから。
「俺のために、指輪してくれます?」
虫よけは必要だ。それも即効性のあるものが。
「へ?」
唯野はまだ知らない。板井は独占欲が強いことを。
察しが良いというのは、時として仇にもなるものである。
──まずいこと言ったな。
板井が気づいた時は手遅れだった。それは聞いてはいけないことだったに違いない。もう少しオブラートに包んだ問い方をすれば良かったと後悔する板井。隣の唯野は固まっている。
「えっと、修二さん」
「俺。恨み買ったとか言ったっけ?」
ごまかそうとしたが、やはり手遅れのようだ。これはトコトン話をすべきだろうと思った。
「板井……お前さ。何をどこまで知ってる? 気づいてるんだ?」
こちらに再び視線を向けた唯野は、いささか青ざめているように見える。知られたくないことなのだろうか。
板井は覚悟を決める。これは全て憶測にすぎない。しかし今まで聞いた話を総合すると、想像できてしまうことがあったのだ。
「以前、塩田と一緒に居た時に皇副社長から話を聞きました。修二さんが、営業部時代より社長からパワハラを受けていたということを」
唯野の手が震えている。それはきっと、自分の努力が無駄だったことを知ったからであろう。彼はいつだって、社長に呼ばれた時には笑顔で冗談を言っていたのだから。そこで塩田が言っていたことを思い出す。
『課長が、板井には心配されたくないとか言うから……』
そしてハッとした。その言葉の本当の意味に気づいたからである。恐らく彼は、自分には知られたくなかったのだ。社長からパワハラされていることを。自分を慕ってくれている部下には。
──いや、そうだろうか?
ならば、なぜ塩田には知られても平気だったのか。
「修二さん……もしかして」
板井は口元を覆う。
自惚れてもいいだろうか?
「そんなに前から、俺のこと……好き?」
きっと知られたくなかったのは、好きな相手だったから。
そして彼自身、自覚がなかったのかもしれない。塩田のことに関しては、早い段階で吹っ切れているような素振りを見せてた。ならば、その可能性は否定できないのではないだろうか。
「板井、あのな」
青ざめていた唯野は、真っ赤な顔をしてうつむいている。きっと今自覚したに違いない。
「俺から聞いておいてなんだが」
「はい?」
「ここ、店の中だし。続きは帰ってからにしよう」
同性婚可能な時代になってだいぶ経つが、男性同士でイチャイチャするのは目立つようだ。これ以上そういう話をしていては、注目を浴びると判断した唯野は話を打ち切った。
板井は何気なく周囲に目をやる。奥のカウンター席のため話の内容から目立つことはなさそうだが、なにせ唯野は四十手前とはいえ見目が良いため、女性の視線を集める。
──そういえば、修二さんが指輪してないこと、あっという間に広まってたな。
彼を慕うものは社内に多い。それは見た目も含まれてはいるだろうが、どちらかと言うと人当たりの良さからだ。色んな部署を一時期にでも回された唯野は知り合いも多く、日常的に色んな課の人たちと接していた。
「修二さん」
彼は心を落ち着けるためか、ビールに口をつけている。
「うん?」
これから彼がモテることを覚悟しなくてはならない。大変気が重いが。それも主に女性であろう。妻がいたのだから。
「俺のために、指輪してくれます?」
虫よけは必要だ。それも即効性のあるものが。
「へ?」
唯野はまだ知らない。板井は独占欲が強いことを。
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