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6『恋愛経験者と未経験者たち』
3 我が社はなにかオカシイ
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****side■唯野
「総括って実際、どのくらい偉いんですか?」
焼き鳥屋のカウンターで板井に問われ、社の玄関に広がる役職表を思い出す唯野。
わが社こと(株)原始人。通称”株原”は手広く自社ブランドの外食産業、日常品雑貨、家具などの商品展開をしており、その社員数も多い。部署も多岐に渡るため、その分役職人数も多かった。
社長、副社長、専務、部長、課長、係長などはなんとなく位置を思い浮かべることができるが”総括”とは何を指しているのか。会社によって位置づけが違うかもしれない。
例えば関東エリア総括なのか、ある程度の部署をまとめる総括なのか。それによってもイメージや仕事量、会社での地位が違うだろう。少なくとも、課長よりは偉いということくらいは想像がつきそうだが。
「うちの場合は部長よりかなり上だよ。本社の総括だしな」
「じゃあエリアとかではなく、部署をまとめるような位置づけと言うことですか?」
「そうなるね」
現在の本社の総括は唯野の営業部時代の同僚。彼は皇が入社した年からとんとん拍子に出世していった。異例の出世といっていいはずだが、目立たなかったのは皇が入社二年目にして副社長に就任したからである。皇が目立ちすぎたため、総括の出世について注目する人はほぼいなかった。
それだけではない。そもそも営業部時代にはトップを誇っていた優秀な人物でもあったからだ。辞令はどちらも社長から直接出されていたため、当時批判が起きたのは皇に対してのみだった。
その大半は嫉妬。しかし彼の実力はすぐに認められることとなる。その直後の事業の拡大は彼の功績だったからである。
唯野はそれを社長の先立っての計画だったと見ているが。
「でも、うちの部署の上は総括ではなく副社長なんですよね?」
板井の質問に唯野は頷き、ビールを煽る。
唯野たちが所属する部署は特別な位置にあった。中小企業、あるいは規模の小さな会社なら不思議はないが、課長の直属の上司が副社長と言うのは役職や部署の数が多いわが社では異常だった。何故なら少なくとも株原の本社では部署から副社長までの間に必ず”総括”を通るからである。
この異常なポジションの意味を理解するまでには時間は要さなかった。理由は簡単だ。唯野をこの課の課長に据えた意味と直結していたから。
──社長はあえて俺の上を簡素にした。
それは俺を呼び出しやすくするため。
「板井だってわかっているだろ? その理由」
隣の板井をちらりと見やると、彼は箸を止め何かに想いを馳せているようにみえた。
そして、
「なんとなく、想像はつきました」
と答える。
唯野は彼のこういう察しの良いところがとても好きだった。仕事においてもすべてを話す必要がない。一を聞いて十を知るタイプであり、余計なことを言わないところも気に入っている。非常に仕事相手としてやりやすい人物なのだ。
「でも、分からないことが一つあります」
と板井。
唯野は枝豆に手を伸ばす。
「何をしたら、そんなに社長の恨みを買うんですか?」
彼の言葉に唯野の手がピタリと止まったのだった。
「総括って実際、どのくらい偉いんですか?」
焼き鳥屋のカウンターで板井に問われ、社の玄関に広がる役職表を思い出す唯野。
わが社こと(株)原始人。通称”株原”は手広く自社ブランドの外食産業、日常品雑貨、家具などの商品展開をしており、その社員数も多い。部署も多岐に渡るため、その分役職人数も多かった。
社長、副社長、専務、部長、課長、係長などはなんとなく位置を思い浮かべることができるが”総括”とは何を指しているのか。会社によって位置づけが違うかもしれない。
例えば関東エリア総括なのか、ある程度の部署をまとめる総括なのか。それによってもイメージや仕事量、会社での地位が違うだろう。少なくとも、課長よりは偉いということくらいは想像がつきそうだが。
「うちの場合は部長よりかなり上だよ。本社の総括だしな」
「じゃあエリアとかではなく、部署をまとめるような位置づけと言うことですか?」
「そうなるね」
現在の本社の総括は唯野の営業部時代の同僚。彼は皇が入社した年からとんとん拍子に出世していった。異例の出世といっていいはずだが、目立たなかったのは皇が入社二年目にして副社長に就任したからである。皇が目立ちすぎたため、総括の出世について注目する人はほぼいなかった。
それだけではない。そもそも営業部時代にはトップを誇っていた優秀な人物でもあったからだ。辞令はどちらも社長から直接出されていたため、当時批判が起きたのは皇に対してのみだった。
その大半は嫉妬。しかし彼の実力はすぐに認められることとなる。その直後の事業の拡大は彼の功績だったからである。
唯野はそれを社長の先立っての計画だったと見ているが。
「でも、うちの部署の上は総括ではなく副社長なんですよね?」
板井の質問に唯野は頷き、ビールを煽る。
唯野たちが所属する部署は特別な位置にあった。中小企業、あるいは規模の小さな会社なら不思議はないが、課長の直属の上司が副社長と言うのは役職や部署の数が多いわが社では異常だった。何故なら少なくとも株原の本社では部署から副社長までの間に必ず”総括”を通るからである。
この異常なポジションの意味を理解するまでには時間は要さなかった。理由は簡単だ。唯野をこの課の課長に据えた意味と直結していたから。
──社長はあえて俺の上を簡素にした。
それは俺を呼び出しやすくするため。
「板井だってわかっているだろ? その理由」
隣の板井をちらりと見やると、彼は箸を止め何かに想いを馳せているようにみえた。
そして、
「なんとなく、想像はつきました」
と答える。
唯野は彼のこういう察しの良いところがとても好きだった。仕事においてもすべてを話す必要がない。一を聞いて十を知るタイプであり、余計なことを言わないところも気に入っている。非常に仕事相手としてやりやすい人物なのだ。
「でも、分からないことが一つあります」
と板井。
唯野は枝豆に手を伸ばす。
「何をしたら、そんなに社長の恨みを買うんですか?」
彼の言葉に唯野の手がピタリと止まったのだった。
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