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5『電車と塩田』
3 業務中ですよ
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****side■唯野
複雑な心境でPCの画面を見つめていると、商品部の方から板井の声が聞こえた。ここ苦情係は商品部の奥に作られているため、商品部を通らないと来ることができない。初めのうちはとても不便な造りだと思って思っていたが、働いているうちにその利便性に気づく。
苦情の内容のほとんどは商品について占めている。商品部の隣には商品開発部が併設されており、連携という意味でも便利であるし防犯の面においても優れていた。四人だけの部署に乗り込まれた日には、とてもではないが太刀打ちできないし、休憩で一人になることもある。どんなにセキュリティがしっかりしていても、人数が多くなれば社員に紛れたり、接待客のふりをして入り込むという者もいるかもしれない。
大きくなればなるほど、見慣れない人がいても分からないものだ。
「課長」
苦情係の入り口まで戻ってきた板井に呼ばれ、唯野は申し訳なさそうな表情をした。自分が余計なことを言っていまったばかりに、面倒なことになってしまったはずだ。
「すまない」
と唯野が謝ると、彼は不思議そうな顔をして、
「なにか、謝らなければならないようなことをしたんですか?」
と問う板井。
隣のデスクの椅子を引くと腰掛けながら。
板井はいつだってそうだった。さりげなく自分を立ててくれる。それは自分が上司だからだと思っていた。しかし違うのだ。
「雨降って地固まるってやつですよ。かえって良かったんじゃないんですかね」
それはきっと、塩田と電車がうまくいったということなのだろう。今までとは違う気持ちで、彼の横顔を見ていると、
「帰り、どこかで食べていきません?」
と誘われる。
唯野は引っ越し後、あまり家にいなかったため不便な暮らしをしている。丁度良いからと、板井はそうそうに引っ越し屋の手配を済ませた。
「引っ越したら、自炊しましょうね」
板井に優しい笑みを向けられ、戸惑う唯野。
「板井は料理するんだっけ?」
「学生の時、キッチンでアルバイトしてましたから。結構得意ですよ」
彼の言葉に、年齢差を感じ少し切なくなる。彼は大学を卒業してまだ数年しか経っていないのだ。それに比べ、自分は……。
「もう、また余計なことを考えてるんですか?」
黙っていると唯野の異変に気付いた板井が眉を寄せ、困った表情をする。
「いや、別に」
唯野が慌てて資料を手に取ると、
「逆さまですよ」
と言われてしまう。
──なんでもお見通しってか?
俺、動揺しすぎだろ。
「ちょっと! 業務中ですよ。なにいちゃついてるんですか?」
唯野がドキドキしていると、苦情係の入り口から声が。電車と塩田が戻ってきたようだ。
「お前こそ、業務中にどこ行ってたんだよ。電車」
唯野の言葉にムンクの叫びのポーズをする電車。
「余計なこと言うからだよ」
と塩田に呆れられている。
「さて、さっさと終わらせて帰ろう」
板井の言葉に一同はそれぞれPCに向かったのだった。
複雑な心境でPCの画面を見つめていると、商品部の方から板井の声が聞こえた。ここ苦情係は商品部の奥に作られているため、商品部を通らないと来ることができない。初めのうちはとても不便な造りだと思って思っていたが、働いているうちにその利便性に気づく。
苦情の内容のほとんどは商品について占めている。商品部の隣には商品開発部が併設されており、連携という意味でも便利であるし防犯の面においても優れていた。四人だけの部署に乗り込まれた日には、とてもではないが太刀打ちできないし、休憩で一人になることもある。どんなにセキュリティがしっかりしていても、人数が多くなれば社員に紛れたり、接待客のふりをして入り込むという者もいるかもしれない。
大きくなればなるほど、見慣れない人がいても分からないものだ。
「課長」
苦情係の入り口まで戻ってきた板井に呼ばれ、唯野は申し訳なさそうな表情をした。自分が余計なことを言っていまったばかりに、面倒なことになってしまったはずだ。
「すまない」
と唯野が謝ると、彼は不思議そうな顔をして、
「なにか、謝らなければならないようなことをしたんですか?」
と問う板井。
隣のデスクの椅子を引くと腰掛けながら。
板井はいつだってそうだった。さりげなく自分を立ててくれる。それは自分が上司だからだと思っていた。しかし違うのだ。
「雨降って地固まるってやつですよ。かえって良かったんじゃないんですかね」
それはきっと、塩田と電車がうまくいったということなのだろう。今までとは違う気持ちで、彼の横顔を見ていると、
「帰り、どこかで食べていきません?」
と誘われる。
唯野は引っ越し後、あまり家にいなかったため不便な暮らしをしている。丁度良いからと、板井はそうそうに引っ越し屋の手配を済ませた。
「引っ越したら、自炊しましょうね」
板井に優しい笑みを向けられ、戸惑う唯野。
「板井は料理するんだっけ?」
「学生の時、キッチンでアルバイトしてましたから。結構得意ですよ」
彼の言葉に、年齢差を感じ少し切なくなる。彼は大学を卒業してまだ数年しか経っていないのだ。それに比べ、自分は……。
「もう、また余計なことを考えてるんですか?」
黙っていると唯野の異変に気付いた板井が眉を寄せ、困った表情をする。
「いや、別に」
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「逆さまですよ」
と言われてしまう。
──なんでもお見通しってか?
俺、動揺しすぎだろ。
「ちょっと! 業務中ですよ。なにいちゃついてるんですか?」
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「お前こそ、業務中にどこ行ってたんだよ。電車」
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「余計なこと言うからだよ」
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