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4『唯野と電車』
4 君の本心
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****side■電車
「免許、持ってたんだな」
助手席に座る塩田が、意外そうに。
「うん。車も持ってるよ」
レンタカーで車を借りると言ったら、
『誰が運転するんだ?』
と眉を潜めた彼。
まだ死にたくないと言うのを説得し、なんとか隣に乗せた。
「安全運転なんだな」
「結構、上手いでしょ」
開けた窓から入ってくる風が心地良い。苦情係のメンツに車通勤の者はいない。苦情係によく顔を出すメンツを思い浮かべても、自家用車で通勤しているのは皇副社長と社長くらいのものだ。我社は駅から近いため電車通勤のほうが便利である。
副社長は他社に出向く用が多い為、自家用車を使っていた。営業は社用。元営業にいた課長や総括はもちろん車の免許を持っている。
同じ課の板井も免許は持っていると言っていた。しかも四輪駆動らしい。アウトドア派に見えるガッチリ体型の彼にはお似合いだな、と思ったことを思い出す。
「塩田、免許は?」
「ないよ。母が駄目と言うから」
塩田の両親は全てに反対する、と言うことを以前唯野から聞いたことがあった。
株原への就職も、
『以往ちゃんが、社会に出るなんて千年早いわよ!』
と、全力で阻止しようとしたのを、唯野と社長でなんとか説得したらしい。
──千年後なんて、生きてないし。
一体、どういうご家庭なんだろうか?
聞くところによると、アラブの宮殿のような家に住んでいるとのこと。大富豪どころではない。
しかし、塩田の父曰く、
『設計をミスったんだ。日本の城を建てようとしたんだが』
なにをどう間違ったら、そうなったのか謎である。
──おつき合い、承諾してもらえるかなぁ?
家を出る前の塩田の様子を思い出す。初めて塩田の家に泊めて貰ってからというもの、何かと理由をつけては入り浸っていた。
『泊めてやるから、何か作れよ』
電車は実家暮らしだったため、それまで料理をしたことがなかったが、それからというもの密かに料理教室に通っている。
だが残念なことに、塩田はさっぱりしたものが好きな為、包丁が扱えればオッケイな程度。腕の振るい甲斐がない。
「まあ、マンション買うのも就職も反対されたけどな」
「あれ自分で買ったの?!」
「そうだよ」
てっきり大富豪の両親が出したのかと思っていた。
「どうあっても俺を社会に出したくないらしい」
肩を竦める彼。これはおつき合いを承諾してもらうのも大変そうだなと思い、
「結婚とかは?」
と電車は塩田に問う。
「確実に反対されるだろ。五、六発は殴られるかもな」
「そんな殴ってくるの?! 避けられるかな」
「気合だ、気合い」
言って何かに気づき、驚いた顔をする彼。電車は知らないふりをした。
たくさん時間をかけ、ゆっくり彼の気持ちを自分に向けたつもりだ。まだ自信はない。たが、少しでも好意があるならイケる気がしている。
──鉄は熱いうちに打てって言うし。
『最後は観覧車に乗って……』
『乗って?』
出掛けに交わした会話を思い出す。彼はその先を口にすることはなかった。意識してか、無意識なのかはわからないが、塩田は自分とそういうことをしてもいいと思っていると、電車は解釈した。
──まだ、早いが言葉通りなら。
電車は思う。手を繋ごうと言っても拒否しなかった、彼。手順を踏めば恋人になれる可能性は大だと。
しかしその障害は電車には彼女がいると、噂になっているからだとは、気づかなかったのだった。
──とりあえず、今日は様子見かな。
「免許、持ってたんだな」
助手席に座る塩田が、意外そうに。
「うん。車も持ってるよ」
レンタカーで車を借りると言ったら、
『誰が運転するんだ?』
と眉を潜めた彼。
まだ死にたくないと言うのを説得し、なんとか隣に乗せた。
「安全運転なんだな」
「結構、上手いでしょ」
開けた窓から入ってくる風が心地良い。苦情係のメンツに車通勤の者はいない。苦情係によく顔を出すメンツを思い浮かべても、自家用車で通勤しているのは皇副社長と社長くらいのものだ。我社は駅から近いため電車通勤のほうが便利である。
副社長は他社に出向く用が多い為、自家用車を使っていた。営業は社用。元営業にいた課長や総括はもちろん車の免許を持っている。
同じ課の板井も免許は持っていると言っていた。しかも四輪駆動らしい。アウトドア派に見えるガッチリ体型の彼にはお似合いだな、と思ったことを思い出す。
「塩田、免許は?」
「ないよ。母が駄目と言うから」
塩田の両親は全てに反対する、と言うことを以前唯野から聞いたことがあった。
株原への就職も、
『以往ちゃんが、社会に出るなんて千年早いわよ!』
と、全力で阻止しようとしたのを、唯野と社長でなんとか説得したらしい。
──千年後なんて、生きてないし。
一体、どういうご家庭なんだろうか?
聞くところによると、アラブの宮殿のような家に住んでいるとのこと。大富豪どころではない。
しかし、塩田の父曰く、
『設計をミスったんだ。日本の城を建てようとしたんだが』
なにをどう間違ったら、そうなったのか謎である。
──おつき合い、承諾してもらえるかなぁ?
家を出る前の塩田の様子を思い出す。初めて塩田の家に泊めて貰ってからというもの、何かと理由をつけては入り浸っていた。
『泊めてやるから、何か作れよ』
電車は実家暮らしだったため、それまで料理をしたことがなかったが、それからというもの密かに料理教室に通っている。
だが残念なことに、塩田はさっぱりしたものが好きな為、包丁が扱えればオッケイな程度。腕の振るい甲斐がない。
「まあ、マンション買うのも就職も反対されたけどな」
「あれ自分で買ったの?!」
「そうだよ」
てっきり大富豪の両親が出したのかと思っていた。
「どうあっても俺を社会に出したくないらしい」
肩を竦める彼。これはおつき合いを承諾してもらうのも大変そうだなと思い、
「結婚とかは?」
と電車は塩田に問う。
「確実に反対されるだろ。五、六発は殴られるかもな」
「そんな殴ってくるの?! 避けられるかな」
「気合だ、気合い」
言って何かに気づき、驚いた顔をする彼。電車は知らないふりをした。
たくさん時間をかけ、ゆっくり彼の気持ちを自分に向けたつもりだ。まだ自信はない。たが、少しでも好意があるならイケる気がしている。
──鉄は熱いうちに打てって言うし。
『最後は観覧車に乗って……』
『乗って?』
出掛けに交わした会話を思い出す。彼はその先を口にすることはなかった。意識してか、無意識なのかはわからないが、塩田は自分とそういうことをしてもいいと思っていると、電車は解釈した。
──まだ、早いが言葉通りなら。
電車は思う。手を繋ごうと言っても拒否しなかった、彼。手順を踏めば恋人になれる可能性は大だと。
しかしその障害は電車には彼女がいると、噂になっているからだとは、気づかなかったのだった。
──とりあえず、今日は様子見かな。
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