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4『唯野と電車』
3 恋人がいるくせに
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****side■塩田
「ねえ、塩田。デート何処が良い?」
翌朝。晴れた空に心地よい気温。絶好のデート日和であった。
「デートといえば、遊園地一択だろう」
普段はプリントTシャツにスエットの塩田も、今日はまともなカッコをしている。とはいえ、モノクロを好むので地味な配色だが。
「遊園地で絶叫マシンに乗ろう、電車」
塩田の言葉に、タブレットを眺めていた電車が、
「塩田、絶叫しないでしょ!」
と頬を膨らませた。
「何を言う。絶叫したら試合終了だろ」
と塩田は眉を潜め。
「絶叫マシンに勝ち、パレードを無視して土産物を買う」
と塩田がプランを告げると、
「パレードは見ようよ」
と切なげな顔をする電車。
だが、塩田はお構いなしにプランを話し続ける。
「最後は観覧車に乗って……」
「乗って?」
と首を傾げる電車。
塩田はじっとその口元を見つめ、
「観覧車はまだ早いな」
と言った。
「え? どういうこと?」
「観覧車は大人になってから乗るべきだ。うん」
──俺たち、つきあってるわけじゃないからな。キスはまだ早い。
「ちょ、ちょっと待って、塩田。俺たち成人してたよね?」
「それがどうした?」
「いつ大人になるの?」
「そんなこと俺に聞かれても、わかるわけ無いだろ!」
むちゃくちゃだ。電車は、成人って大人じゃないの? と呟いている。どうやら混乱しているようだ。
「よし、映画に行こう電車。デートの定番といえばホラー映画だ」
塩田は遊園地は俺たちにはまだ早いと思い直し、行き先を変更した。
「ちょっと待って、塩田。さっき遊園地一択って言ってなかった?」
「なんだよ。細かいことを言うとモテないぞ?」
「いや別に、モテなくても良いんだけど……」
「つまり、魔法使いになりたいと?」
「え?」
そこで、電車には彼女がいたことを思い出す、塩田。
「まあいい。そういうこともあるだろう」
「話の流れについていけないんだけど」
と、困惑気味の電車。すると、
「ついていこうと思うからいけないんだ、泳げ電車」
「何言ってるの、塩田」
「何言ってるのって、日本語話してるんだぞ。翻訳機いるか?」
「持ってるよ」
そういう問題ではない。なんとか誤魔化せたなと思った塩田は、ポケットに財布とスマホを突っ込むと、鍵を持って玄関に向かって歩き出す。
「ホラー映画観るの?」
タブレットをテーブルに置くと、塩田に続く電車。Vネックのシャツにストレートパンツ姿の彼はいつもより少し幼く見えた。
「そうだ。ホラー映画できゃーと言いながら抱きつくのが定ば……」
「痛ッ……何、急に立ち止まって」
塩田が急に立ち止まるので、電車は塩田にぶつかる。
──何言ってるんだ? 俺は。
「顔、赤いけど大丈夫?」
と塩田の顔を覗き込む電車。
「映画は俺たちにはまだ早いと思う。大人になってからにしよう」
「え?」
不思議そうに塩田を見つめる電車。そして何かに気づいたように突然、後ろから塩田を抱きしめる。
「電車?」
「初めてのデート、楽しみだね」
行き先も決まっていないのに。優しい声音で。塩田はなんだか、泣きたい気持ちになった。
──彼女がいるくせに。
電車が塩田の家に入り浸るようになったのは、入社して暫くしてから。そのきっかけは、残業で遅くなったため電車が終電を逃し、塩田が彼を家に泊めたことにある。それまでは彼と仕事の話しか、したことがなかった。
しかし業務外の話をしてみると、意外と楽しかったのだ。それまで友人のいなかった塩田。心地よい関係となるのに時間は要さなかった。
親しくなった頃、他部署の人間から電車に彼女がいることを知らされた。本人に直接確かめたことはないが。
「海でも見に行こうか」
電車は塩田を抱きしめたまま、そう提案する。
「海……」
「手でも繋いでさ」
高すぎず低すぎない彼の声質が、とても耳に心地よい。
「さて行こっか」
と、電車。
「そうだな」
彼の体温が離れていく。名残惜しいと思いながらも、塩田はなにも言えなかった。
「ねえ、塩田。デート何処が良い?」
翌朝。晴れた空に心地よい気温。絶好のデート日和であった。
「デートといえば、遊園地一択だろう」
普段はプリントTシャツにスエットの塩田も、今日はまともなカッコをしている。とはいえ、モノクロを好むので地味な配色だが。
「遊園地で絶叫マシンに乗ろう、電車」
塩田の言葉に、タブレットを眺めていた電車が、
「塩田、絶叫しないでしょ!」
と頬を膨らませた。
「何を言う。絶叫したら試合終了だろ」
と塩田は眉を潜め。
「絶叫マシンに勝ち、パレードを無視して土産物を買う」
と塩田がプランを告げると、
「パレードは見ようよ」
と切なげな顔をする電車。
だが、塩田はお構いなしにプランを話し続ける。
「最後は観覧車に乗って……」
「乗って?」
と首を傾げる電車。
塩田はじっとその口元を見つめ、
「観覧車はまだ早いな」
と言った。
「え? どういうこと?」
「観覧車は大人になってから乗るべきだ。うん」
──俺たち、つきあってるわけじゃないからな。キスはまだ早い。
「ちょ、ちょっと待って、塩田。俺たち成人してたよね?」
「それがどうした?」
「いつ大人になるの?」
「そんなこと俺に聞かれても、わかるわけ無いだろ!」
むちゃくちゃだ。電車は、成人って大人じゃないの? と呟いている。どうやら混乱しているようだ。
「よし、映画に行こう電車。デートの定番といえばホラー映画だ」
塩田は遊園地は俺たちにはまだ早いと思い直し、行き先を変更した。
「ちょっと待って、塩田。さっき遊園地一択って言ってなかった?」
「なんだよ。細かいことを言うとモテないぞ?」
「いや別に、モテなくても良いんだけど……」
「つまり、魔法使いになりたいと?」
「え?」
そこで、電車には彼女がいたことを思い出す、塩田。
「まあいい。そういうこともあるだろう」
「話の流れについていけないんだけど」
と、困惑気味の電車。すると、
「ついていこうと思うからいけないんだ、泳げ電車」
「何言ってるの、塩田」
「何言ってるのって、日本語話してるんだぞ。翻訳機いるか?」
「持ってるよ」
そういう問題ではない。なんとか誤魔化せたなと思った塩田は、ポケットに財布とスマホを突っ込むと、鍵を持って玄関に向かって歩き出す。
「ホラー映画観るの?」
タブレットをテーブルに置くと、塩田に続く電車。Vネックのシャツにストレートパンツ姿の彼はいつもより少し幼く見えた。
「そうだ。ホラー映画できゃーと言いながら抱きつくのが定ば……」
「痛ッ……何、急に立ち止まって」
塩田が急に立ち止まるので、電車は塩田にぶつかる。
──何言ってるんだ? 俺は。
「顔、赤いけど大丈夫?」
と塩田の顔を覗き込む電車。
「映画は俺たちにはまだ早いと思う。大人になってからにしよう」
「え?」
不思議そうに塩田を見つめる電車。そして何かに気づいたように突然、後ろから塩田を抱きしめる。
「電車?」
「初めてのデート、楽しみだね」
行き先も決まっていないのに。優しい声音で。塩田はなんだか、泣きたい気持ちになった。
──彼女がいるくせに。
電車が塩田の家に入り浸るようになったのは、入社して暫くしてから。そのきっかけは、残業で遅くなったため電車が終電を逃し、塩田が彼を家に泊めたことにある。それまでは彼と仕事の話しか、したことがなかった。
しかし業務外の話をしてみると、意外と楽しかったのだ。それまで友人のいなかった塩田。心地よい関係となるのに時間は要さなかった。
親しくなった頃、他部署の人間から電車に彼女がいることを知らされた。本人に直接確かめたことはないが。
「海でも見に行こうか」
電車は塩田を抱きしめたまま、そう提案する。
「海……」
「手でも繋いでさ」
高すぎず低すぎない彼の声質が、とても耳に心地よい。
「さて行こっか」
と、電車。
「そうだな」
彼の体温が離れていく。名残惜しいと思いながらも、塩田はなにも言えなかった。
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