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4『唯野と電車』
2【微R】あなたを独り占めしたい
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****side■板井
──無理させてしまっただろうか?
板井は、ぐったりと隣に横たわる唯野を、胸に引き寄せて。
『塩田はどんな人が理想?』
先日、休憩時間に屋上で塩田とした会話を思い出す。
『どんな? さあ……』
塩田はフェンスに寄りかかり、カフェオレのストローに口をつけながら首を傾げた。
『今までつきあった人とかは?』
そう問うと、嫌な顔をされる。プライベートに踏み込みすぎたか、と思っていると、
『板井には、俺に恋人がいたように見えるのか?』
と言われた。
言われてみれば、塩田がキャッキャウフフしているところは想像しづらい。
『つまり、あと六年したら魔法使いになれる感じ?』
と聞くと彼は、
『そうなるな』
と言って笑う。
塩田と一年以上一緒に仕事をしていて感じたこと。彼は返答が塩だが、クールというわけではない。冗談が通じるし、冗談も言う男だ。自分の気持ちにストレートで、嘘もつかない。
──なんで電車が塩田に懐くのか、ちょっとわかる気がする。
『そういや、課長や副社長に好意を向けられてたみたいだけど、なんで駄目だったんだ?』
唯野は直接、塩田に何か言ったわけではなかったが、板井が簡単に気づくくらい好意がわかりやすかった。もっともそれは入社当時の頃のことなので、一年くらい前の話だが。
フェンスに寄りかかりしゃがみこんでいた板井が、膝の上に片腕で頬杖をついて塩田を見上げていると、意外な言葉が返ってくる。
『別に駄目じゃないよ』
そこで板井はハッとした。
──他に好きな人がいるから。
『いつの話ししてるんだよ』
という唯野の言葉を思い出す。
確かにあの頃、唯野は塩田に好意を持っていた。既婚者だったから、塩田への想いを諦めたのかと思っていたが、そうではなく唯野は気づいたのだ。塩田には、既に好いた相手がいることを。
──無理だと思ったから、修二さんは早々に身を引いたということか。副社長は、気づかないのか、気づいていても諦める気がない?
板井は、唯野を愛しいと思った。欲しいものを欲しいと言えず、諦めてしまう彼を。
──そんなあなたが、俺に対しては違った。
そんなことされたら、自惚れたくなる。
板井は抱きしめていた腕を解くと、身を起こし、彼を組み敷いた。眠ったままの彼の首筋に刻印を刻む。自分のものだというように。
「ん……板井?」
首筋への刺激で目が覚めたのか、薄っすらと瞼を開く唯野。その髪を撫で、じっと彼を見つめた。
「どうしたんだ……。眠れない?」
「俺のこと、好きですか?」
「好きだよ」
何を言ってるんだと言うように、クスリと笑い肩を竦める唯野。
「俺も好きです」
──あなたの全てを、独り占めできたらいいのに。
「足りなかった? 硬くなってる」
彼の手が二人の間で形を持ち始めた、板井自身を撫で上げる。
「どうでしょうね」
「もっとする?」
虚ろな瞳でこちらを伺う彼が愛しい。
「身体、辛くないですか?」
板井は、彼の脇腹を撫でながら。すると、
「板井を満足させたい」
と言われる。
想定内ではあったが、唯野は恋人に尽くすタイプ。そんな彼を、板井は幸せにしてあげたいと感じていた。
「ねえ、修二さん」
「うん?」
「今度、キャンプに行きませんか?」
板井の提案に彼は、いいねと笑う。
「星でも眺めて、嫌なこと全部忘れましょうよ」
と言えば、
「板井は結構、ロマンチストだよな」
と言われる。
「修二さんは、現実主義ですか? 男なんてみんなロマンチストでしょ」
「そうかもな」
肌を滑る手、首筋を這う舌。板井の体温に包まれて、彼は瞳を閉じる。
静かに夜は更けていく。吐息に紛れて。
──無理させてしまっただろうか?
板井は、ぐったりと隣に横たわる唯野を、胸に引き寄せて。
『塩田はどんな人が理想?』
先日、休憩時間に屋上で塩田とした会話を思い出す。
『どんな? さあ……』
塩田はフェンスに寄りかかり、カフェオレのストローに口をつけながら首を傾げた。
『今までつきあった人とかは?』
そう問うと、嫌な顔をされる。プライベートに踏み込みすぎたか、と思っていると、
『板井には、俺に恋人がいたように見えるのか?』
と言われた。
言われてみれば、塩田がキャッキャウフフしているところは想像しづらい。
『つまり、あと六年したら魔法使いになれる感じ?』
と聞くと彼は、
『そうなるな』
と言って笑う。
塩田と一年以上一緒に仕事をしていて感じたこと。彼は返答が塩だが、クールというわけではない。冗談が通じるし、冗談も言う男だ。自分の気持ちにストレートで、嘘もつかない。
──なんで電車が塩田に懐くのか、ちょっとわかる気がする。
『そういや、課長や副社長に好意を向けられてたみたいだけど、なんで駄目だったんだ?』
唯野は直接、塩田に何か言ったわけではなかったが、板井が簡単に気づくくらい好意がわかりやすかった。もっともそれは入社当時の頃のことなので、一年くらい前の話だが。
フェンスに寄りかかりしゃがみこんでいた板井が、膝の上に片腕で頬杖をついて塩田を見上げていると、意外な言葉が返ってくる。
『別に駄目じゃないよ』
そこで板井はハッとした。
──他に好きな人がいるから。
『いつの話ししてるんだよ』
という唯野の言葉を思い出す。
確かにあの頃、唯野は塩田に好意を持っていた。既婚者だったから、塩田への想いを諦めたのかと思っていたが、そうではなく唯野は気づいたのだ。塩田には、既に好いた相手がいることを。
──無理だと思ったから、修二さんは早々に身を引いたということか。副社長は、気づかないのか、気づいていても諦める気がない?
板井は、唯野を愛しいと思った。欲しいものを欲しいと言えず、諦めてしまう彼を。
──そんなあなたが、俺に対しては違った。
そんなことされたら、自惚れたくなる。
板井は抱きしめていた腕を解くと、身を起こし、彼を組み敷いた。眠ったままの彼の首筋に刻印を刻む。自分のものだというように。
「ん……板井?」
首筋への刺激で目が覚めたのか、薄っすらと瞼を開く唯野。その髪を撫で、じっと彼を見つめた。
「どうしたんだ……。眠れない?」
「俺のこと、好きですか?」
「好きだよ」
何を言ってるんだと言うように、クスリと笑い肩を竦める唯野。
「俺も好きです」
──あなたの全てを、独り占めできたらいいのに。
「足りなかった? 硬くなってる」
彼の手が二人の間で形を持ち始めた、板井自身を撫で上げる。
「どうでしょうね」
「もっとする?」
虚ろな瞳でこちらを伺う彼が愛しい。
「身体、辛くないですか?」
板井は、彼の脇腹を撫でながら。すると、
「板井を満足させたい」
と言われる。
想定内ではあったが、唯野は恋人に尽くすタイプ。そんな彼を、板井は幸せにしてあげたいと感じていた。
「ねえ、修二さん」
「うん?」
「今度、キャンプに行きませんか?」
板井の提案に彼は、いいねと笑う。
「星でも眺めて、嫌なこと全部忘れましょうよ」
と言えば、
「板井は結構、ロマンチストだよな」
と言われる。
「修二さんは、現実主義ですか? 男なんてみんなロマンチストでしょ」
「そうかもな」
肌を滑る手、首筋を這う舌。板井の体温に包まれて、彼は瞳を閉じる。
静かに夜は更けていく。吐息に紛れて。
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