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4『唯野と電車』
1【微R】唯野の知られたくない過去
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****side■唯野
何をされたのかなんて、板井は何故そんなことを聞くのかと思った。簡単な説明では満足してもらえなかったのだろうか?
──板井には知られたくなかった。
しかしいつか誰かの口から知らされるくらいなら、自分から話したほうがいい。いや、社長ならきっと……。
唯野は板井の腕の中で、あの日のことを思った。まだ未熟だった自分。何かを守れると信じていた愚かな自分。
『父さん、あなたを会長に据えたのは、こんなことをさせるためではない』
我が社を作ったのは社長だ。親子の間で何があったのかは知らない。あの日、会長は名前だけの存在だと知った。なんの力もないお飾だということを。
『唯野くん。どうして僕に言わない?』
会長を解雇処分にすると言い渡した社長は、そう唯野に問いかけた。言えるわけなどないではないか。一介の平社員が社長にこんなことを……。
──良くも悪くもあれで目をつけられたのだ。
皇副社長に彼がしていることは、会長が自分にしたことと何ら変わらない。違うことと言えば、そこに愛があるかないかの違いくらいだろう。
会社を辞めれば済む話だが、唯野は社長のパワハラに耐える道を選択した。唯野はかつて自分を魔の手から救ってくれた男から、皇を守ることを選んだのである。
──あの人が当たれる相手は、俺だけだから。
俺が盾になることで、皇を守れるなら……。
唯野はわかっていなかった。その自己犠牲精神が社長や会長の加虐心を刺激することを。
「修二さん」
「うん?」
丁寧な愛撫を受けながら、じっと板井を見つめる。自分が社長からどんな仕打ちをされているのか、彼が知ったらどんな顔をするのだろうか? と、不安に駆られながら。
「良くない?」
「凄く良いよ」
「嘘」
集中してないでしょ? と言われ、唯野は切な気に目を伏せる。
──そうだった。板井はいつだって、俺の気持ちを汲む。
社長に呼ばれるたび、心配そうにこちらを見ていた彼。思い出して、涙が溢れる。
──俺はいつから板井のことが好きだったんだろう?
いつだって待っていてくれた。どんなに休憩に行くんだぞと声をかけても、空返事。守ったことなんてない。
「俺は板井のこと、幸せにしてあげられるのかな……?」
涙が止まらくて、腕で顔を覆う。
「そんな事言わないでくださいよ。今とても幸せなのに」
腕を掴まれ、じっと瞳を覗き込まれる。
「修二さんは塩田のこと好きだから、振り向いてはくれないと思ってた」
「塩田……」
確かに塩田のことは好きだった。しかしまもなく、彼を好きになっても無駄なことに気付き、自分は身を引いたのだ。
──塩田は雛と同じ。
それに気づいたのは、彼が副社長に交際を迫られていた時。塩田は初めに自分に好意を向けた人物にしか興味を示さない。その時点で塩田の興味は電車紀夫にしかなかった。
──もし、好きだと思った時点で彼に想いを告げていたなら。
自分にもチャンスはあったのだろう。もう自分にチャンスがないと気づいた唯野は、その時点で諦めたのである。
──どう見たって電車と相思相愛だもんな。
「いつの話してるんだよ」
と笑うと、
「いつって……」
と、彼は困った顔をする。
「お前こそ、いつから俺のこと好きなんだよ」
と問えば、
「秘密です」
と言って、唯野の首筋に吸い付きながら、腰を引いた。
「ま……っ。急に動くなあっ……」
背中を駆け抜ける、甘い痺れ。あまりの気持ちよさにぎゅっと彼にしがみつく。
「板井……んっ……」
「修二さん。もっと甘い声でよがって」
気を良くした板井が口づけをくれる。
「何言って……」
──だめだ。何も考えられない。
何をされたのかなんて、板井は何故そんなことを聞くのかと思った。簡単な説明では満足してもらえなかったのだろうか?
──板井には知られたくなかった。
しかしいつか誰かの口から知らされるくらいなら、自分から話したほうがいい。いや、社長ならきっと……。
唯野は板井の腕の中で、あの日のことを思った。まだ未熟だった自分。何かを守れると信じていた愚かな自分。
『父さん、あなたを会長に据えたのは、こんなことをさせるためではない』
我が社を作ったのは社長だ。親子の間で何があったのかは知らない。あの日、会長は名前だけの存在だと知った。なんの力もないお飾だということを。
『唯野くん。どうして僕に言わない?』
会長を解雇処分にすると言い渡した社長は、そう唯野に問いかけた。言えるわけなどないではないか。一介の平社員が社長にこんなことを……。
──良くも悪くもあれで目をつけられたのだ。
皇副社長に彼がしていることは、会長が自分にしたことと何ら変わらない。違うことと言えば、そこに愛があるかないかの違いくらいだろう。
会社を辞めれば済む話だが、唯野は社長のパワハラに耐える道を選択した。唯野はかつて自分を魔の手から救ってくれた男から、皇を守ることを選んだのである。
──あの人が当たれる相手は、俺だけだから。
俺が盾になることで、皇を守れるなら……。
唯野はわかっていなかった。その自己犠牲精神が社長や会長の加虐心を刺激することを。
「修二さん」
「うん?」
丁寧な愛撫を受けながら、じっと板井を見つめる。自分が社長からどんな仕打ちをされているのか、彼が知ったらどんな顔をするのだろうか? と、不安に駆られながら。
「良くない?」
「凄く良いよ」
「嘘」
集中してないでしょ? と言われ、唯野は切な気に目を伏せる。
──そうだった。板井はいつだって、俺の気持ちを汲む。
社長に呼ばれるたび、心配そうにこちらを見ていた彼。思い出して、涙が溢れる。
──俺はいつから板井のことが好きだったんだろう?
いつだって待っていてくれた。どんなに休憩に行くんだぞと声をかけても、空返事。守ったことなんてない。
「俺は板井のこと、幸せにしてあげられるのかな……?」
涙が止まらくて、腕で顔を覆う。
「そんな事言わないでくださいよ。今とても幸せなのに」
腕を掴まれ、じっと瞳を覗き込まれる。
「修二さんは塩田のこと好きだから、振り向いてはくれないと思ってた」
「塩田……」
確かに塩田のことは好きだった。しかしまもなく、彼を好きになっても無駄なことに気付き、自分は身を引いたのだ。
──塩田は雛と同じ。
それに気づいたのは、彼が副社長に交際を迫られていた時。塩田は初めに自分に好意を向けた人物にしか興味を示さない。その時点で塩田の興味は電車紀夫にしかなかった。
──もし、好きだと思った時点で彼に想いを告げていたなら。
自分にもチャンスはあったのだろう。もう自分にチャンスがないと気づいた唯野は、その時点で諦めたのである。
──どう見たって電車と相思相愛だもんな。
「いつの話してるんだよ」
と笑うと、
「いつって……」
と、彼は困った顔をする。
「お前こそ、いつから俺のこと好きなんだよ」
と問えば、
「秘密です」
と言って、唯野の首筋に吸い付きながら、腰を引いた。
「ま……っ。急に動くなあっ……」
背中を駆け抜ける、甘い痺れ。あまりの気持ちよさにぎゅっと彼にしがみつく。
「板井……んっ……」
「修二さん。もっと甘い声でよがって」
気を良くした板井が口づけをくれる。
「何言って……」
──だめだ。何も考えられない。
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