17 / 96
3『唯野と塩田』
3 電車の本音
しおりを挟む
****side■電車
──板井が二股?
人は見かけによらないんだなぁ。
電車は塩田のマンションのリビングで片腕で頬杖をつき、スープをスプーンでかき混ぜていた。籐籠にきれいに並べられた粉末スープは、唯野が置いていったものだ。
いつも綺麗に片付いた塩田の家。掃除などしなそうに見える彼だが、水回りはマメに掃除をしているようだ。しかしこの家を掃除しているのは彼だけではなかった。
一人で暮らすにはとても広いマンションの間取り。確か3LDKと言っていた気がする。マンションの管理人が勝手に部屋にあがり掃除をしていたり、課長や板井が遊びに来た時も掃除をしていくのだ。彼らはとてもマメである。
カップスープを口に含み、夜景の見える大きな窓に視線を移す。
『どうだ? 仕事』
昼間休憩室で、唯野の同期である総括に話しかけられたことを思いだす。副社長の皇が彼と一緒にいた。
苦情係は上層部の溜まり場と言われている。それは塩田目的で、副社長が苦情係に顔を出すから。そのため、副社長に用のある者たちがゾロゾロとやってくるのである。
副社長の尊大な振る舞いが社長の趣向だと知り、複雑な気持ちになったことを思い出した。
『やあ、塩田と愉快な愚民ども』
と言って苦情係にやってくるのが定番の皇副社長はとても優秀な人物で、まだ二十六という若さ。
学生にしか見えない童顔を気にしているらしい。
『みんながフォローしてくれるから、なんとかやれてる』
総括にそう返事をすると、
『苦情係のメンツが甘いのは電車にだけだよな』
と皇が、品のある笑みを浮かべた。
『そうだな』
と総括。
そこで苦情係の課長、唯野がどれだけ優秀なのかを二人から聞いた。たった四人の部署ではあるが、余裕が生まれてからは他部署の仕事も手伝っているらしい。
もっとも、電車は自分の仕事だけで手一杯で、そのことを知らなかった。カスタマーセンターからのデータを纏めていることを知っているくらいだ。
『塩田も板井も仕事、早いしな』
と総括。
『俺は唯野さんを尊敬してるよ。他部署のデータの集計を不満一つ零さず、請け負ってるんだから』
と皇。
とうやら商品開発部や商品部、企画部などの手伝いもしているという。自分の所属している部署なのに知らないことが多すぎた。
『塩田たちが不満零さないのも、上が唯野さんだからだろ』
ティーカップを口元に持っていく姿がとても綺麗な皇。総括はコーヒーの缶を弄んでいる。
『副社長が自ら手伝いに入ってるんだ。板井は文句なんか言わないだろ』
しかし総括のその言葉に皇は眉を寄せた。
『板井が慕ってるのは、唯野さんだけだ』
『まあ、あれは度を超えてるがな』
──板井が二股……。
うーん、やっぱり意外だなぁ。
「電車、寝ないのか?」
ぼんやりと考え事をしていると、塩田に声をかけられる。
「一緒に?」
と、問えば彼は肩をすくめた。
「なんで客間もあるのに、いつも一緒に寝たがるんだよ」
「塩田のベッド広いんだし、いいじゃん。寂しい」
上目遣いで見つめると、彼はフッと笑う。
──可愛い!
塩田は滅多に笑わない。しかし自分には笑みを見せてくれるのだ。そのことが特別に思えて嬉しくなる。
「来いよ」
「うんっ」
──ずっとずっと塩田が好きだった。
いつか恋人になれたらいいな。
──板井が二股?
人は見かけによらないんだなぁ。
電車は塩田のマンションのリビングで片腕で頬杖をつき、スープをスプーンでかき混ぜていた。籐籠にきれいに並べられた粉末スープは、唯野が置いていったものだ。
いつも綺麗に片付いた塩田の家。掃除などしなそうに見える彼だが、水回りはマメに掃除をしているようだ。しかしこの家を掃除しているのは彼だけではなかった。
一人で暮らすにはとても広いマンションの間取り。確か3LDKと言っていた気がする。マンションの管理人が勝手に部屋にあがり掃除をしていたり、課長や板井が遊びに来た時も掃除をしていくのだ。彼らはとてもマメである。
カップスープを口に含み、夜景の見える大きな窓に視線を移す。
『どうだ? 仕事』
昼間休憩室で、唯野の同期である総括に話しかけられたことを思いだす。副社長の皇が彼と一緒にいた。
苦情係は上層部の溜まり場と言われている。それは塩田目的で、副社長が苦情係に顔を出すから。そのため、副社長に用のある者たちがゾロゾロとやってくるのである。
副社長の尊大な振る舞いが社長の趣向だと知り、複雑な気持ちになったことを思い出した。
『やあ、塩田と愉快な愚民ども』
と言って苦情係にやってくるのが定番の皇副社長はとても優秀な人物で、まだ二十六という若さ。
学生にしか見えない童顔を気にしているらしい。
『みんながフォローしてくれるから、なんとかやれてる』
総括にそう返事をすると、
『苦情係のメンツが甘いのは電車にだけだよな』
と皇が、品のある笑みを浮かべた。
『そうだな』
と総括。
そこで苦情係の課長、唯野がどれだけ優秀なのかを二人から聞いた。たった四人の部署ではあるが、余裕が生まれてからは他部署の仕事も手伝っているらしい。
もっとも、電車は自分の仕事だけで手一杯で、そのことを知らなかった。カスタマーセンターからのデータを纏めていることを知っているくらいだ。
『塩田も板井も仕事、早いしな』
と総括。
『俺は唯野さんを尊敬してるよ。他部署のデータの集計を不満一つ零さず、請け負ってるんだから』
と皇。
とうやら商品開発部や商品部、企画部などの手伝いもしているという。自分の所属している部署なのに知らないことが多すぎた。
『塩田たちが不満零さないのも、上が唯野さんだからだろ』
ティーカップを口元に持っていく姿がとても綺麗な皇。総括はコーヒーの缶を弄んでいる。
『副社長が自ら手伝いに入ってるんだ。板井は文句なんか言わないだろ』
しかし総括のその言葉に皇は眉を寄せた。
『板井が慕ってるのは、唯野さんだけだ』
『まあ、あれは度を超えてるがな』
──板井が二股……。
うーん、やっぱり意外だなぁ。
「電車、寝ないのか?」
ぼんやりと考え事をしていると、塩田に声をかけられる。
「一緒に?」
と、問えば彼は肩をすくめた。
「なんで客間もあるのに、いつも一緒に寝たがるんだよ」
「塩田のベッド広いんだし、いいじゃん。寂しい」
上目遣いで見つめると、彼はフッと笑う。
──可愛い!
塩田は滅多に笑わない。しかし自分には笑みを見せてくれるのだ。そのことが特別に思えて嬉しくなる。
「来いよ」
「うんっ」
──ずっとずっと塩田が好きだった。
いつか恋人になれたらいいな。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説


【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春ですね~夜道で出会った露出狂をホテルに連れ込んでみたら~
夏芽玉
BL
4月、第3週目の金曜日。職場の歓迎会のせいで不本意にも帰りが遅くなってしまた。今日は行きつけのハプバーのイベント日だったのに。色んなネコとハプれるのを楽しみにしていたのに!! 年に1度のイベントには結局間に合わず、不貞腐れながら帰路についたら、住宅街で出会ったのは露出狂だった。普段なら、そんな変質者はスルーの一択だったのだけど、イライラとムラムラしていたオレは、露出狂の身体をじっくりと検分してやった。どう見ても好みのど真ん中の身体だ。それならホテルに連れ込んで、しっぽりいこう。据え膳なんて、食ってなんぼだろう。だけど、実はその相手は……。変態とSMのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる