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3『唯野と塩田』
3 電車の本音
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****side■電車
──板井が二股?
人は見かけによらないんだなぁ。
電車は塩田のマンションのリビングで片腕で頬杖をつき、スープをスプーンでかき混ぜていた。籐籠にきれいに並べられた粉末スープは、唯野が置いていったものだ。
いつも綺麗に片付いた塩田の家。掃除などしなそうに見える彼だが、水回りはマメに掃除をしているようだ。しかしこの家を掃除しているのは彼だけではなかった。
一人で暮らすにはとても広いマンションの間取り。確か3LDKと言っていた気がする。マンションの管理人が勝手に部屋にあがり掃除をしていたり、課長や板井が遊びに来た時も掃除をしていくのだ。彼らはとてもマメである。
カップスープを口に含み、夜景の見える大きな窓に視線を移す。
『どうだ? 仕事』
昼間休憩室で、唯野の同期である総括に話しかけられたことを思いだす。副社長の皇が彼と一緒にいた。
苦情係は上層部の溜まり場と言われている。それは塩田目的で、副社長が苦情係に顔を出すから。そのため、副社長に用のある者たちがゾロゾロとやってくるのである。
副社長の尊大な振る舞いが社長の趣向だと知り、複雑な気持ちになったことを思い出した。
『やあ、塩田と愉快な愚民ども』
と言って苦情係にやってくるのが定番の皇副社長はとても優秀な人物で、まだ二十六という若さ。
学生にしか見えない童顔を気にしているらしい。
『みんながフォローしてくれるから、なんとかやれてる』
総括にそう返事をすると、
『苦情係のメンツが甘いのは電車にだけだよな』
と皇が、品のある笑みを浮かべた。
『そうだな』
と総括。
そこで苦情係の課長、唯野がどれだけ優秀なのかを二人から聞いた。たった四人の部署ではあるが、余裕が生まれてからは他部署の仕事も手伝っているらしい。
もっとも、電車は自分の仕事だけで手一杯で、そのことを知らなかった。カスタマーセンターからのデータを纏めていることを知っているくらいだ。
『塩田も板井も仕事、早いしな』
と総括。
『俺は唯野さんを尊敬してるよ。他部署のデータの集計を不満一つ零さず、請け負ってるんだから』
と皇。
とうやら商品開発部や商品部、企画部などの手伝いもしているという。自分の所属している部署なのに知らないことが多すぎた。
『塩田たちが不満零さないのも、上が唯野さんだからだろ』
ティーカップを口元に持っていく姿がとても綺麗な皇。総括はコーヒーの缶を弄んでいる。
『副社長が自ら手伝いに入ってるんだ。板井は文句なんか言わないだろ』
しかし総括のその言葉に皇は眉を寄せた。
『板井が慕ってるのは、唯野さんだけだ』
『まあ、あれは度を超えてるがな』
──板井が二股……。
うーん、やっぱり意外だなぁ。
「電車、寝ないのか?」
ぼんやりと考え事をしていると、塩田に声をかけられる。
「一緒に?」
と、問えば彼は肩をすくめた。
「なんで客間もあるのに、いつも一緒に寝たがるんだよ」
「塩田のベッド広いんだし、いいじゃん。寂しい」
上目遣いで見つめると、彼はフッと笑う。
──可愛い!
塩田は滅多に笑わない。しかし自分には笑みを見せてくれるのだ。そのことが特別に思えて嬉しくなる。
「来いよ」
「うんっ」
──ずっとずっと塩田が好きだった。
いつか恋人になれたらいいな。
──板井が二股?
人は見かけによらないんだなぁ。
電車は塩田のマンションのリビングで片腕で頬杖をつき、スープをスプーンでかき混ぜていた。籐籠にきれいに並べられた粉末スープは、唯野が置いていったものだ。
いつも綺麗に片付いた塩田の家。掃除などしなそうに見える彼だが、水回りはマメに掃除をしているようだ。しかしこの家を掃除しているのは彼だけではなかった。
一人で暮らすにはとても広いマンションの間取り。確か3LDKと言っていた気がする。マンションの管理人が勝手に部屋にあがり掃除をしていたり、課長や板井が遊びに来た時も掃除をしていくのだ。彼らはとてもマメである。
カップスープを口に含み、夜景の見える大きな窓に視線を移す。
『どうだ? 仕事』
昼間休憩室で、唯野の同期である総括に話しかけられたことを思いだす。副社長の皇が彼と一緒にいた。
苦情係は上層部の溜まり場と言われている。それは塩田目的で、副社長が苦情係に顔を出すから。そのため、副社長に用のある者たちがゾロゾロとやってくるのである。
副社長の尊大な振る舞いが社長の趣向だと知り、複雑な気持ちになったことを思い出した。
『やあ、塩田と愉快な愚民ども』
と言って苦情係にやってくるのが定番の皇副社長はとても優秀な人物で、まだ二十六という若さ。
学生にしか見えない童顔を気にしているらしい。
『みんながフォローしてくれるから、なんとかやれてる』
総括にそう返事をすると、
『苦情係のメンツが甘いのは電車にだけだよな』
と皇が、品のある笑みを浮かべた。
『そうだな』
と総括。
そこで苦情係の課長、唯野がどれだけ優秀なのかを二人から聞いた。たった四人の部署ではあるが、余裕が生まれてからは他部署の仕事も手伝っているらしい。
もっとも、電車は自分の仕事だけで手一杯で、そのことを知らなかった。カスタマーセンターからのデータを纏めていることを知っているくらいだ。
『塩田も板井も仕事、早いしな』
と総括。
『俺は唯野さんを尊敬してるよ。他部署のデータの集計を不満一つ零さず、請け負ってるんだから』
と皇。
とうやら商品開発部や商品部、企画部などの手伝いもしているという。自分の所属している部署なのに知らないことが多すぎた。
『塩田たちが不満零さないのも、上が唯野さんだからだろ』
ティーカップを口元に持っていく姿がとても綺麗な皇。総括はコーヒーの缶を弄んでいる。
『副社長が自ら手伝いに入ってるんだ。板井は文句なんか言わないだろ』
しかし総括のその言葉に皇は眉を寄せた。
『板井が慕ってるのは、唯野さんだけだ』
『まあ、あれは度を超えてるがな』
──板井が二股……。
うーん、やっぱり意外だなぁ。
「電車、寝ないのか?」
ぼんやりと考え事をしていると、塩田に声をかけられる。
「一緒に?」
と、問えば彼は肩をすくめた。
「なんで客間もあるのに、いつも一緒に寝たがるんだよ」
「塩田のベッド広いんだし、いいじゃん。寂しい」
上目遣いで見つめると、彼はフッと笑う。
──可愛い!
塩田は滅多に笑わない。しかし自分には笑みを見せてくれるのだ。そのことが特別に思えて嬉しくなる。
「来いよ」
「うんっ」
──ずっとずっと塩田が好きだった。
いつか恋人になれたらいいな。
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