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3『唯野と塩田』
2 複雑な心境
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****side■塩田
塩田が自宅マンションで 電車と電車でG○!で遊んでいると、テーブルに置かれたスマホがブルッと震える。どうやら板井から着信のようだ。
「ちょっ! 塩田、急ブレーキは駄目だって」
「あとを頼む。俺の客を無事に次の駅へ届けてくれ」
塩田は真面目な顔でそういうと、電車にコントローラーを渡す。急ブレーキをかけた時点で、無事とは言い難い。
「お客さーん。発射しますよー」
──発射? 無事では済みそうにないな。
塩田はそんなことを思いながら、通話に触れる。
「なんだ?」
と言えば、
『塩田か?』
と返ってくる。
「俺の番号にかけておいて、他に誰が出るんだ」
『うん、塩田だ』
いつものやり取りに、板井が納得した声を出す。なんだか嫌な予感がしないでもないが。
『塩田、課長に何言ったんだよ』
と、板井。
「なにか疑われてるのか?」
『察しが良くて何より。塩田と、どういう関係か聞かれた』
──なんで俺に聞かずに、板井に聞いたんだ?
塩田にはいまいち状況が掴めなかった。
「で?」
『なんでもないって』
「じゃあ、何故疑われてるんだ?」
と言う塩田の疑問に対し、
『何も聞いてないうちから、なんでもないって言うのはおかしいだろ! って』
塩田は思った。確かにそれはおかしいと。
「あのな板井。百歩譲って俺が悪かったとしても、二股かけようとするお前が悪い!」
塩田は責任転嫁することに決めた。
『ちょ!』
「なになに、板井。二股かけてんの?」
と、そこに話を聞いていたのか電車が乱入する。
さらにややこしいことになりそうだ。
「電車は黙ってて。今、修羅場だから」
と、手を電車の口元に持っていく塩田。
『いつ、修羅場になったんだ! 適当なこと言うなよ』
余計に拗れそうだ。
「今だ、今。ちょっ……匂いを嗅ぐな!」
「塩田、いい匂い」
『俺が大変な時に、なにイチャついてんだ!』
カオスな状況に頭痛がする。
「板井。適当なことを言って乗り切れ。もしくは正直に話せ」
『責任取ってくれるのかよ』
「何かあったら、俺から課長に話すから」
これ以上ややこしい状況にならないことを祈り、
「月曜に、な」
と言って塩田は通話を終了した。
──課長が俺でなく、板井に聞いたのは……。
電話で聞くなら塩田にかけるだろう。話をふったのは塩田なのだから。そこで塩田は、二人が会っているのだと気付く。
唯野は妻のところへ行くと言っていたはずだ。つまりその後、板井のところへいったと予想がつく。
──なんだ、うまくいってるんじゃないか。
「塩田ー」
「なんだ? 俺の客は無事か?」
「列車は大破したと思うけど、多分無事」
電車の言葉にぎょっとしてモニターに視線を移すと、彼は別なゲームをして遊んでいた。
「あ、まずい。賞味期限切れてた!」
どうやら食品に賞味期限が設定されているらしく、操作キャラの体力が半減している。
「明日、お出かけしようよ」
モニターを見つめたまま、彼がそうお誘いの言葉を塩田に投げた。
──わざわざ誘って来るなんて、珍しいな。
「デートか?」
と冗談で問うと、
「うん。俺とデートしようよ、塩田」
と優しい笑みを向けられる。
塩田はどきりとした。部屋には優しい音楽が流れている。このまま雰囲気に流されてしまえたならと、思った。
──デートなんて。彼女いるくせに。
悪い冗談だろ。
「嫌なの?」
スッと指先が塩田の唇を撫でる。
「嫌じゃない」
そう返事をすると、彼は嬉しそうに微笑んだのだった。
塩田が自宅マンションで 電車と電車でG○!で遊んでいると、テーブルに置かれたスマホがブルッと震える。どうやら板井から着信のようだ。
「ちょっ! 塩田、急ブレーキは駄目だって」
「あとを頼む。俺の客を無事に次の駅へ届けてくれ」
塩田は真面目な顔でそういうと、電車にコントローラーを渡す。急ブレーキをかけた時点で、無事とは言い難い。
「お客さーん。発射しますよー」
──発射? 無事では済みそうにないな。
塩田はそんなことを思いながら、通話に触れる。
「なんだ?」
と言えば、
『塩田か?』
と返ってくる。
「俺の番号にかけておいて、他に誰が出るんだ」
『うん、塩田だ』
いつものやり取りに、板井が納得した声を出す。なんだか嫌な予感がしないでもないが。
『塩田、課長に何言ったんだよ』
と、板井。
「なにか疑われてるのか?」
『察しが良くて何より。塩田と、どういう関係か聞かれた』
──なんで俺に聞かずに、板井に聞いたんだ?
塩田にはいまいち状況が掴めなかった。
「で?」
『なんでもないって』
「じゃあ、何故疑われてるんだ?」
と言う塩田の疑問に対し、
『何も聞いてないうちから、なんでもないって言うのはおかしいだろ! って』
塩田は思った。確かにそれはおかしいと。
「あのな板井。百歩譲って俺が悪かったとしても、二股かけようとするお前が悪い!」
塩田は責任転嫁することに決めた。
『ちょ!』
「なになに、板井。二股かけてんの?」
と、そこに話を聞いていたのか電車が乱入する。
さらにややこしいことになりそうだ。
「電車は黙ってて。今、修羅場だから」
と、手を電車の口元に持っていく塩田。
『いつ、修羅場になったんだ! 適当なこと言うなよ』
余計に拗れそうだ。
「今だ、今。ちょっ……匂いを嗅ぐな!」
「塩田、いい匂い」
『俺が大変な時に、なにイチャついてんだ!』
カオスな状況に頭痛がする。
「板井。適当なことを言って乗り切れ。もしくは正直に話せ」
『責任取ってくれるのかよ』
「何かあったら、俺から課長に話すから」
これ以上ややこしい状況にならないことを祈り、
「月曜に、な」
と言って塩田は通話を終了した。
──課長が俺でなく、板井に聞いたのは……。
電話で聞くなら塩田にかけるだろう。話をふったのは塩田なのだから。そこで塩田は、二人が会っているのだと気付く。
唯野は妻のところへ行くと言っていたはずだ。つまりその後、板井のところへいったと予想がつく。
──なんだ、うまくいってるんじゃないか。
「塩田ー」
「なんだ? 俺の客は無事か?」
「列車は大破したと思うけど、多分無事」
電車の言葉にぎょっとしてモニターに視線を移すと、彼は別なゲームをして遊んでいた。
「あ、まずい。賞味期限切れてた!」
どうやら食品に賞味期限が設定されているらしく、操作キャラの体力が半減している。
「明日、お出かけしようよ」
モニターを見つめたまま、彼がそうお誘いの言葉を塩田に投げた。
──わざわざ誘って来るなんて、珍しいな。
「デートか?」
と冗談で問うと、
「うん。俺とデートしようよ、塩田」
と優しい笑みを向けられる。
塩田はどきりとした。部屋には優しい音楽が流れている。このまま雰囲気に流されてしまえたならと、思った。
──デートなんて。彼女いるくせに。
悪い冗談だろ。
「嫌なの?」
スッと指先が塩田の唇を撫でる。
「嫌じゃない」
そう返事をすると、彼は嬉しそうに微笑んだのだった。
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