R18【同性恋愛】リーマン物語if5『塩田と板井と苦情係』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
上 下
13 / 96
2『板井と唯野』

4 唯野の違和感

しおりを挟む
****side■塩田

「なんでなの? なんで?!」
電車でんまちょっと煩い、黙って」
 何故を連発する、隣のデスクの電車に苦情を投げ、視線を唯野に移す。
「だって、お通夜みたいだよ? どういうこと?」
「仕事しろよ、電車」
 板井からも苦情が飛んでくる。電車は眉を寄せて口を膨らませた。可愛い顔が台無しだ。
 それというのも、唯野が全く喋らないからである。彼らがどんなに騒がしくしても、唯野は我関せずといった風で黙々と仕事をこなしていた。

──板井絡みなのは予想がつくけれど、一体何があったんだ?

 さすがの塩田も心配になる。板井は気にしている様子をみせずいつも通りに見えた。むしろ何かを吹っ切ったようにすら見える。

──まさかとは思うけど、板井が課長をフった? まさかな。

 板井が唯野に想いを寄せていたのであって、その逆ではなかったはずだ。しかし状況はその可能性を示している。どうなってるんだ、一体と塩田は心の中で頭を抱える。

「課長、今日呑みに行こうよー」
 この雰囲気に耐えられないのか、電車が唯野にそう声をかけた。空気読もうや! というように塩田が電車のほうに視線を送るが。
「悪い、今日は用事がある」
と普通に返事が来る。
 これに驚いたのは、板井だ。
「用事……?」
と呟くように問う。
 そこで唯野が板井に笑顔を向けた。優しい笑みを。
「なんだ、板井も行きたかったのか?」
と。
 塩田は違和感を覚えた。

──なんだ? 今の。

 まるで、ヤキモチでも妬かせようとしているように見えたからだ。

「ごめんな、今日は外せない用があるんだ」
 極めて穏やかだが、挑戦的に見える唯野。二人の間に何があったか、ますます気になる塩田。
「あ、課長! デートでしょ」
と電車が茶々を入れる。
 彼は板井の気持ちを知らないので致し方ないが。
「はは。そんなんじゃないよ」
と笑う唯野を、じっと見つめる板井の視線が怖い。
 そうこうしているうちに、終業のチャイムが鳴り、
「さて帰るぞ」
とさっさと帰り支度をし、立ち上がる唯野。
 お先と言ってそのまま苦情係を出ていこうとする。塩田は思わず彼を追いかけた。

「課長」
 商品部を通り抜け、廊下に出たところで彼に追いつく。
「塩田か」
「何かあった? 板井と」
 単刀直入に質問すれば、彼は自嘲気味に笑みを浮かべた。
「塩田、俺」
 小さなため息。
「板井のことが好きなんだ」
「え?」
 何がどうなってこうなっているのか解りかねたが、それは良いことに思える。

──俺が手を貸すまでもなかったな。

 そう思ったのもつかの間。
「でも、フラレたみたいだ」
と彼が言葉を続けたからである。
「は?!」
 そこでふと思い出す。自分と板井の関係を。確かお試しでお付き合いしていたはずだ。すっかり忘れていたが。
「待て、俺と板井はなんでもないぞ?」
 板井は真面目な男だ。まさか自分とお付き合いしているからと、唯野のフッたのではないかと思ったのである。
 そもそも塩田は二人をくっつけてやろうと思い、板井の冗談に乗っただけなのだ。
「なんの話だ?」
と唯野。
 まずいことを言ってしまったと思っていると、
「とりあえず、またな」
と唯野のほうが慌てて歩き出す。
 どうやら板井に追いつかれたくないらしい。塩田は仕方なく、唯野を解放するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

処理中です...