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3 進みゆく日常
1・【残念】
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****♡Side・瀬戸
「情報ありがとう」
瀬戸が手元の紙を丁寧に折りたたみながら礼を述べ、相手を見上げる。
「なんだ、変な顔して」
「いつも尊大なあなたにそんな風に言われると調子狂うわ」
店の外まで見送りに来てくれた薫《かおる》に瀬戸はクスリと笑う。すると薫は驚いた顔をする。瀬戸は折りたたんだ紙に視線を戻し、そこからチラリと薫に再び視線を向けた。
「綺麗な顔」
瀬戸の頬に伸ばされた手。
「作り物みたい」
「好きなの」
「ええ。好みね」
素直な返答に瀬戸は肩を竦める。
入り口でドアに寄りかかり、腕組みをして不機嫌そうにしている神楽が瀬戸の視界に入った。
「そんなこと言ってるとまた神楽が不機嫌になるぞ」
もう手遅れのようだが、放ってはおけない。それなのに瀬戸は、紙をポケットにしまうと薫の髪を指先にひっかけ、ちゅっと口づけた。薫を見つめながら。
「神楽は瀬戸に気があるの?」
「なんでそうなる」
「だって神楽はあなたの行動にイライラしているのでしょう?」
「それは間違っていない」
その好意が自分に向けられていると思えない薫には残念な気持ちになるが、方向性はあっている。
「じゃあ何が間違っているって言うの」
「それは自分で聞いてみることだな」
”じゃ”と言って離れると神楽に向かって軽く手をあげる瀬戸。
もどかしい二人を見ているのは悪くない。本人が現状維持を願うなら。
しかしそれが停滞というなら背中を押したい。自分にできないことを他人に望むのは間違いだろうか?
自分の想う相手にはすでに恋人がいる。何も始まることなく終わるものもあるのだ。
瀬戸は目的地に向かうタクシーの窓からぼんやりと外を眺めながら、自分の恋について考える。これは無謀な恋でしかない。だからこそ、希望のある二人にお節介を焼いたのだ。いつもの自分なら絶対にしないだろう。
──俺はどうかしているのだろう。
次はkingこと【南和仁】か。
AGというバーチャルゲームの中に存在する七人の調停者。リーダーである【大崎久隆】は世界最弱のリーダーと言われていた。過去形なのは、更に弱いリーダーが登場したからだが。
それはさておき、久隆以外のメンバーは皆一様にランキング上位者ばかり。だから瀬戸も初めは彼らが強さやプレイの上手さで選ばれているのだと思っていた。
──そうでないと聞いていても、久隆が弱い以上は強いメンバーを入れる必要があると思っていたが違ったようだ。
つまり彼らはそれなりにまとまったグループであるということ。登録者同士は知らずとも、運営側なら登録情報は見られるはず。現にこれから向かうのは【大崎久隆】の自宅である大崎邸。薫が言うには、南はそこの専属料理長だというのである。
──薫と南はリア友らしいしな。
二人がどのような経緯で出逢ったかは知らないが、今は追及すべきことではない。大崎邸の前でタクシーを降りると、門の前で待っていたのは二人の男性。一人は南だと思われる。彼もAG内でのアバター作成法はリアルスキャンというタイプ。
「よう、セト。queenこと薫から話は聞いていると思うが、俺が南だ」
現実世界で逢うのは初めてだが、ゲーム内でもリアルでも変わらない瀬戸の姿に迷うことは無かったようだ。声をかけてきたのは南。握手を求めながら。
「どうも。お隣の彼は?」
気さくな南とは異なり品の良い笑みを浮かべた男性に手を向ければ、南が意味ありげな笑みを浮かべる。
「彼は佐倉。詳しくは中で話そう」
まずは三人で話がしたいと言われ、従業員の宿舎のほうに連れていかれたのだが。大崎邸の敷地内に作られたそれは立派な三階建ての洋館だった。
「もちろん通いでもいいが、ここが住み心地がいいもんでな」
家族寮もあるようで、そちらもまた外でマンションを借りるよりもずっと良いようだ。
「なにせ、賃料は無料だからな」
親指を立てて見せる南に隣に立つ佐倉がクスリと笑ったのだった。
「情報ありがとう」
瀬戸が手元の紙を丁寧に折りたたみながら礼を述べ、相手を見上げる。
「なんだ、変な顔して」
「いつも尊大なあなたにそんな風に言われると調子狂うわ」
店の外まで見送りに来てくれた薫《かおる》に瀬戸はクスリと笑う。すると薫は驚いた顔をする。瀬戸は折りたたんだ紙に視線を戻し、そこからチラリと薫に再び視線を向けた。
「綺麗な顔」
瀬戸の頬に伸ばされた手。
「作り物みたい」
「好きなの」
「ええ。好みね」
素直な返答に瀬戸は肩を竦める。
入り口でドアに寄りかかり、腕組みをして不機嫌そうにしている神楽が瀬戸の視界に入った。
「そんなこと言ってるとまた神楽が不機嫌になるぞ」
もう手遅れのようだが、放ってはおけない。それなのに瀬戸は、紙をポケットにしまうと薫の髪を指先にひっかけ、ちゅっと口づけた。薫を見つめながら。
「神楽は瀬戸に気があるの?」
「なんでそうなる」
「だって神楽はあなたの行動にイライラしているのでしょう?」
「それは間違っていない」
その好意が自分に向けられていると思えない薫には残念な気持ちになるが、方向性はあっている。
「じゃあ何が間違っているって言うの」
「それは自分で聞いてみることだな」
”じゃ”と言って離れると神楽に向かって軽く手をあげる瀬戸。
もどかしい二人を見ているのは悪くない。本人が現状維持を願うなら。
しかしそれが停滞というなら背中を押したい。自分にできないことを他人に望むのは間違いだろうか?
自分の想う相手にはすでに恋人がいる。何も始まることなく終わるものもあるのだ。
瀬戸は目的地に向かうタクシーの窓からぼんやりと外を眺めながら、自分の恋について考える。これは無謀な恋でしかない。だからこそ、希望のある二人にお節介を焼いたのだ。いつもの自分なら絶対にしないだろう。
──俺はどうかしているのだろう。
次はkingこと【南和仁】か。
AGというバーチャルゲームの中に存在する七人の調停者。リーダーである【大崎久隆】は世界最弱のリーダーと言われていた。過去形なのは、更に弱いリーダーが登場したからだが。
それはさておき、久隆以外のメンバーは皆一様にランキング上位者ばかり。だから瀬戸も初めは彼らが強さやプレイの上手さで選ばれているのだと思っていた。
──そうでないと聞いていても、久隆が弱い以上は強いメンバーを入れる必要があると思っていたが違ったようだ。
つまり彼らはそれなりにまとまったグループであるということ。登録者同士は知らずとも、運営側なら登録情報は見られるはず。現にこれから向かうのは【大崎久隆】の自宅である大崎邸。薫が言うには、南はそこの専属料理長だというのである。
──薫と南はリア友らしいしな。
二人がどのような経緯で出逢ったかは知らないが、今は追及すべきことではない。大崎邸の前でタクシーを降りると、門の前で待っていたのは二人の男性。一人は南だと思われる。彼もAG内でのアバター作成法はリアルスキャンというタイプ。
「よう、セト。queenこと薫から話は聞いていると思うが、俺が南だ」
現実世界で逢うのは初めてだが、ゲーム内でもリアルでも変わらない瀬戸の姿に迷うことは無かったようだ。声をかけてきたのは南。握手を求めながら。
「どうも。お隣の彼は?」
気さくな南とは異なり品の良い笑みを浮かべた男性に手を向ければ、南が意味ありげな笑みを浮かべる。
「彼は佐倉。詳しくは中で話そう」
まずは三人で話がしたいと言われ、従業員の宿舎のほうに連れていかれたのだが。大崎邸の敷地内に作られたそれは立派な三階建ての洋館だった。
「もちろん通いでもいいが、ここが住み心地がいいもんでな」
家族寮もあるようで、そちらもまた外でマンションを借りるよりもずっと良いようだ。
「なにせ、賃料は無料だからな」
親指を立てて見せる南に隣に立つ佐倉がクスリと笑ったのだった。
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