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21話『事件の全容を探る時』
2 いざ、宮廷へ
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****♡Side・α(クライス)
「あの……さ」
カイルの母、王妃を城から連れ出す作戦には賛同するが、クライスは不安でいっぱいだった。
自分はαだ。城へは一緒に行けないのではないかと。置いて行かれるのは、寂しいが仕方のないことだが、執事がここにいない現在、残されていくのはとても心配なのだ。
「俺は……留守番だよね?」
おずおずと切り出すクライスにカイルとレンが顔を見合わせる。一瞬、その理由がわからなかったようだ。
こんな時クライスは思う。性別など彼らにとってそんなに重要な事ではないことを。しかしそれは彼らだけの感覚であることを。
カイルはレンの隣の席から立ち上がると、クライスの元までやってくる。
「クライス」
優しく抱きしめられ、その意味を考えた。
「置いてなんて行かない」
「え、でも……」
「少し嫌な思いはさせてしまうだろう。でも、一緒に連れて行くから」
優しくクライスの後頭部を撫でる彼の手。
クライスは彼の背中に腕を回した。立った彼と、座ったままの自分に出来る身長差。まるで親に庇護された子供のような感覚に、クライスは安らぎを感じ目を閉じた。
どうして好きな人に触れるのが、こんなに心地が良いのだろうか。
ふとレンの方に視線を移すと彼は頬杖をついてニコニコと、こちらを見つめていた。
───いつからだろうか。
二人のいるところが、自分の居場所だと思い始めたのは。
「俺の父と母に会わせるよ」
かつてはαを忌み嫌っていた息子がαを連れてやって来るなんて、想像もしていないだろう。
「大丈夫だから」
そうは言われても、彼の妹の命を奪ったのはα。
カイルの父母はその経緯を知らないし、事件の真実も知らない。
どんな辛らつな言葉をかけられるのだろうか。それを思うと、やはり辛い。この国で自分は憎まれるべき存在。カイルだけが特別なβなのだ。
「今度また、三人で出かけよう。静かな郊外にでも」
カイルは何故、真実を知ってもなお強くいられるのだろうかと思っていた時、部屋がノックされ執事の後釜となった若いβ男性体が部屋の中に入ってくる。
「カイル様、王妃様と連絡が取れました」
「そうか、それで母は何と?」
クライスから離れると、彼に向き合うカイル。
簡単に事情を話しクライスの祖母の宅で当座は暮らしてもらうと言うこと。
「王妃様はカイル様と暮らせないのは寂しいが、宮廷から連れ出してくれることに感謝していると伝えて欲しいとおっしゃっておられました」
「そうか」
カイルはレンとクライスに視線を走らせると、
「明日、決行だ」
と短く計画を告げたのだった。
「あの……さ」
カイルの母、王妃を城から連れ出す作戦には賛同するが、クライスは不安でいっぱいだった。
自分はαだ。城へは一緒に行けないのではないかと。置いて行かれるのは、寂しいが仕方のないことだが、執事がここにいない現在、残されていくのはとても心配なのだ。
「俺は……留守番だよね?」
おずおずと切り出すクライスにカイルとレンが顔を見合わせる。一瞬、その理由がわからなかったようだ。
こんな時クライスは思う。性別など彼らにとってそんなに重要な事ではないことを。しかしそれは彼らだけの感覚であることを。
カイルはレンの隣の席から立ち上がると、クライスの元までやってくる。
「クライス」
優しく抱きしめられ、その意味を考えた。
「置いてなんて行かない」
「え、でも……」
「少し嫌な思いはさせてしまうだろう。でも、一緒に連れて行くから」
優しくクライスの後頭部を撫でる彼の手。
クライスは彼の背中に腕を回した。立った彼と、座ったままの自分に出来る身長差。まるで親に庇護された子供のような感覚に、クライスは安らぎを感じ目を閉じた。
どうして好きな人に触れるのが、こんなに心地が良いのだろうか。
ふとレンの方に視線を移すと彼は頬杖をついてニコニコと、こちらを見つめていた。
───いつからだろうか。
二人のいるところが、自分の居場所だと思い始めたのは。
「俺の父と母に会わせるよ」
かつてはαを忌み嫌っていた息子がαを連れてやって来るなんて、想像もしていないだろう。
「大丈夫だから」
そうは言われても、彼の妹の命を奪ったのはα。
カイルの父母はその経緯を知らないし、事件の真実も知らない。
どんな辛らつな言葉をかけられるのだろうか。それを思うと、やはり辛い。この国で自分は憎まれるべき存在。カイルだけが特別なβなのだ。
「今度また、三人で出かけよう。静かな郊外にでも」
カイルは何故、真実を知ってもなお強くいられるのだろうかと思っていた時、部屋がノックされ執事の後釜となった若いβ男性体が部屋の中に入ってくる。
「カイル様、王妃様と連絡が取れました」
「そうか、それで母は何と?」
クライスから離れると、彼に向き合うカイル。
簡単に事情を話しクライスの祖母の宅で当座は暮らしてもらうと言うこと。
「王妃様はカイル様と暮らせないのは寂しいが、宮廷から連れ出してくれることに感謝していると伝えて欲しいとおっしゃっておられました」
「そうか」
カイルはレンとクライスに視線を走らせると、
「明日、決行だ」
と短く計画を告げたのだった。
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