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20話『運命を背負いし者と魂の番』
6 異国の地での大切な者たち
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****♡Side・α(クライス)
「クライスさんっ」
どうしていいのか分からずに、匿っているαから離れたところに立ち尽くしていると、しばらくしてドタドタと数人の人物が家の中に入って来る。
クライスはチャイムが鳴ったことすら気づかなかった。
祖父が応対したのか、その者たちの後から部屋に入って来る。一人は良く見知った人物。
「刑事さん」
「あなたは何ともないんですか?」
と、驚いた顔でこっちを見ている。
何ともないとは一体、何のことか。
「……魂の番がいる……」
何とか落ち着いたαの彼が切れ切れに口にした言葉に、クライスは驚愕した。
こちらに近づいてきていたΩはレンだ。
しかもまだ大分距離があったはず。
もし、レンがそうだと言うのならそれが”魂の番”との共鳴だとでもいうのだろうか。自分は確かに抗フェロモン剤を打っている。
しかし彼とて同じはずだ。全く効かなかったという事なのだろうか。
「カイル達は?」
近づくなという事だから、ここへは来てないことは分かっている。また自分は、彼から引き離されるのだろうか。
───カイルに逢いたい。カイルの傍に行きたい。置いて行かないで……。
泣きたいのを堪え、自分のいるべき場所を確認する。
「もしクライスさんに異変が無ければ、屋敷に連れて来るように言われています」
刑事が手を入口の方に翳《かざ》した。
「カイルのところに帰れるの?」
「ええ。行きましょう」
クライスは不安そうに祖父母に視線を送る。こんな状況で自分が席を外しても良いのだろうか、と。
しかし、
「大丈夫ですよ、クライス様」
と執事が声をかけてくれる。
「わたくしが、ここに残りますから。あなたの祖父母もちゃんとお守りいたします」
と。
そして刑事も、
「二人をここに残していきますから心配しないでください。送り届けたら、引き返しますんで」
と今後のことについて話してくれた。
クライスは一先ずホッとする。
「クライス、気をつけて帰るのよ」
「おばあちゃん」
クライスは祖父母とハグを交わす。
「またそっちにいくから、それまで元気にしてるんじゃぞ」
「おじいちゃん」
別れはいつだって辛い。でも、身体は一つきり。
クライスは後ろ髪を引かれつつも、屋敷を後にした。
「クライスさん、大丈夫ですか?」
車に乗り込むと、刑事に気遣われる。
「大丈夫です」
クライスは両手をぎゅっと握りしめた。
この国に足を踏み入れた時は、こんなに大切な人が増えるなんて思っても居なかった。いつの間にか、この国に自分の居場所を感じている。
祖父母と離れるのは寂しいが、カイルやレンに早く逢いたいと願う自分がいたのだった。
「クライスさんっ」
どうしていいのか分からずに、匿っているαから離れたところに立ち尽くしていると、しばらくしてドタドタと数人の人物が家の中に入って来る。
クライスはチャイムが鳴ったことすら気づかなかった。
祖父が応対したのか、その者たちの後から部屋に入って来る。一人は良く見知った人物。
「刑事さん」
「あなたは何ともないんですか?」
と、驚いた顔でこっちを見ている。
何ともないとは一体、何のことか。
「……魂の番がいる……」
何とか落ち着いたαの彼が切れ切れに口にした言葉に、クライスは驚愕した。
こちらに近づいてきていたΩはレンだ。
しかもまだ大分距離があったはず。
もし、レンがそうだと言うのならそれが”魂の番”との共鳴だとでもいうのだろうか。自分は確かに抗フェロモン剤を打っている。
しかし彼とて同じはずだ。全く効かなかったという事なのだろうか。
「カイル達は?」
近づくなという事だから、ここへは来てないことは分かっている。また自分は、彼から引き離されるのだろうか。
───カイルに逢いたい。カイルの傍に行きたい。置いて行かないで……。
泣きたいのを堪え、自分のいるべき場所を確認する。
「もしクライスさんに異変が無ければ、屋敷に連れて来るように言われています」
刑事が手を入口の方に翳《かざ》した。
「カイルのところに帰れるの?」
「ええ。行きましょう」
クライスは不安そうに祖父母に視線を送る。こんな状況で自分が席を外しても良いのだろうか、と。
しかし、
「大丈夫ですよ、クライス様」
と執事が声をかけてくれる。
「わたくしが、ここに残りますから。あなたの祖父母もちゃんとお守りいたします」
と。
そして刑事も、
「二人をここに残していきますから心配しないでください。送り届けたら、引き返しますんで」
と今後のことについて話してくれた。
クライスは一先ずホッとする。
「クライス、気をつけて帰るのよ」
「おばあちゃん」
クライスは祖父母とハグを交わす。
「またそっちにいくから、それまで元気にしてるんじゃぞ」
「おじいちゃん」
別れはいつだって辛い。でも、身体は一つきり。
クライスは後ろ髪を引かれつつも、屋敷を後にした。
「クライスさん、大丈夫ですか?」
車に乗り込むと、刑事に気遣われる。
「大丈夫です」
クライスは両手をぎゅっと握りしめた。
この国に足を踏み入れた時は、こんなに大切な人が増えるなんて思っても居なかった。いつの間にか、この国に自分の居場所を感じている。
祖父母と離れるのは寂しいが、カイルやレンに早く逢いたいと願う自分がいたのだった。
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