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20話『運命を背負いし者と魂の番』
5 皇子の苦悩と魂の番の真実
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****♡Side・β(カイル)
───魂の番……。
それは自分の半身とも言われる特別な存在の者だ。
近づけば互いに発情し合い、止めるものが居なければ、そのまま番となってしまう。番になることを望まない者からすれば恐ろしい存在だ。
そのような者がレンにいると知り、カイルはショックを受けていた。
その相手が居るものは極稀であるし、何よりβが独立国を建立してからは、αと出逢う確率が格段に減っている。
仮にいたとしても、出会わぬまま一生を終えるほうが多いと言えよう。
「カイル……」
自分がβなばかりに、こんなに悔しい想いをするのであろうか。
辛い想いをするのであろうか。
レンを奪われたくない。
レンも、自分と居ることを望んでいる。なのに、自分がβと言うだけで不安になってしまう。
「カイル、大好きだよ」
「レン……」
カイルの涙がレンの頬に落ちる。これは悔し涙だ。
彼が腕を伸ばし、カイルの頬を包む。
「カイル、どうして泣くの?」
「どうして、こんなにレンを愛しているのに、俺はレンと番になれないんだろう?」
番になれたならレンを誰かに奪われる心配なんてしなくていいのに、とカイルが思っていると、
「カイル。番は恋人でも伴侶でもない。ただの繁殖の相手なんだよ」
と、彼は言う。
「愛でもない、ただ子孫を残すための相手。そこに気持ちなんて存在しない。番というのはただ子を産むための道具、産ませるための道具になり果てるだけなんだよ。もしそこに愛があるなら、動物のように番だなんて言葉は充てないはずでしょう?」
互いに求め合い愛すればこそ、番は意味のあるものとなる。
好きでもない相手と運命だなんだと言って結ばれたところで、そこに幸せなどない。そんなことは妹が亡くなった時に理解していたはずだ。
それなのにレンのこととなると、自分を見失い、意味をはき違えてしまう。
相手のαだって名前も知らない、見たことのない相手と突然番となったところで、幸せなはずはない。しかも彼には恋人がいるのだ。
救いたくても救えず、傍に居ることさえできなくなった恋人が。
恋人を救いたいと願ったからこそ罠に嵌り、国に帰ることすら出来なくなった。目の前で恋人を凌辱され、自分の無力さを知ってなお、その恋人を救いたいと願い愛し続けている。
そんな彼が、他の者と番になりたいと思うはずはない。
───そうだ、どちらも被害者なんだ。呪われた性の。
「レン愛しているよ」
レンの手を握りしめる。
その手に光るリングに触れると、少し心が落ち着いた。
何一人で、被害者面しているんだと心の中で自分自身を叱りつける。現実をみなければならない。なすべきことを考えなくては。
「僕もだよ、カイル」
カイルは一度屋敷へ戻ることにした。
直接逢うことが出来なくてもリモートと言う手段があると、思いなおしながら。
───魂の番……。
それは自分の半身とも言われる特別な存在の者だ。
近づけば互いに発情し合い、止めるものが居なければ、そのまま番となってしまう。番になることを望まない者からすれば恐ろしい存在だ。
そのような者がレンにいると知り、カイルはショックを受けていた。
その相手が居るものは極稀であるし、何よりβが独立国を建立してからは、αと出逢う確率が格段に減っている。
仮にいたとしても、出会わぬまま一生を終えるほうが多いと言えよう。
「カイル……」
自分がβなばかりに、こんなに悔しい想いをするのであろうか。
辛い想いをするのであろうか。
レンを奪われたくない。
レンも、自分と居ることを望んでいる。なのに、自分がβと言うだけで不安になってしまう。
「カイル、大好きだよ」
「レン……」
カイルの涙がレンの頬に落ちる。これは悔し涙だ。
彼が腕を伸ばし、カイルの頬を包む。
「カイル、どうして泣くの?」
「どうして、こんなにレンを愛しているのに、俺はレンと番になれないんだろう?」
番になれたならレンを誰かに奪われる心配なんてしなくていいのに、とカイルが思っていると、
「カイル。番は恋人でも伴侶でもない。ただの繁殖の相手なんだよ」
と、彼は言う。
「愛でもない、ただ子孫を残すための相手。そこに気持ちなんて存在しない。番というのはただ子を産むための道具、産ませるための道具になり果てるだけなんだよ。もしそこに愛があるなら、動物のように番だなんて言葉は充てないはずでしょう?」
互いに求め合い愛すればこそ、番は意味のあるものとなる。
好きでもない相手と運命だなんだと言って結ばれたところで、そこに幸せなどない。そんなことは妹が亡くなった時に理解していたはずだ。
それなのにレンのこととなると、自分を見失い、意味をはき違えてしまう。
相手のαだって名前も知らない、見たことのない相手と突然番となったところで、幸せなはずはない。しかも彼には恋人がいるのだ。
救いたくても救えず、傍に居ることさえできなくなった恋人が。
恋人を救いたいと願ったからこそ罠に嵌り、国に帰ることすら出来なくなった。目の前で恋人を凌辱され、自分の無力さを知ってなお、その恋人を救いたいと願い愛し続けている。
そんな彼が、他の者と番になりたいと思うはずはない。
───そうだ、どちらも被害者なんだ。呪われた性の。
「レン愛しているよ」
レンの手を握りしめる。
その手に光るリングに触れると、少し心が落ち着いた。
何一人で、被害者面しているんだと心の中で自分自身を叱りつける。現実をみなければならない。なすべきことを考えなくては。
「僕もだよ、カイル」
カイルは一度屋敷へ戻ることにした。
直接逢うことが出来なくてもリモートと言う手段があると、思いなおしながら。
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