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20話『運命を背負いし者と魂の番』

4 魂の番、相対発情

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****♡Side・Ω(レン)

 身体に異変が起き始めたのは、
『あともう少しだよ』
とカイルに言われた辺りだったか。
「レン! どうしたんだ」
「イヤ……止めて。お願い……停めて……」
 身体が熱い。発情期は終わったはずなのに。
 身体が疼く。何かを求めている。
「いやだああああああ!」
「車を停めてくれ!」
 レンの異変に気づき、カイルが運転手に停止を命じた。
「レン、大丈夫か? ……この匂いは?」
「カイ……ル……助けて……」

───イヤだ。イヤだよ。発情なんてしたくない。

 こちらの車が急停止したことに気づき、前を走っていたワゴン車の助手席から若い刑事が走ってくるのが視界の端に見える。
「カイル様、これはもしかしたら”相対発情”かも知れません」
と、刑事。
「なんだって?」
「仕事柄、一度だけ遭遇したことがあります。魂の番が近くにいると起こる現象らしいですな」
「は⁈」

───魂の番? 都市伝説だろ……そんなの。

 しかし前回の薬で発情した時とは明らかに違っていた。
「まさか。匿っている例のαが、レンの魂の番だとでも言うのか?」
 その時、カイルのスマホが鳴る。彼は画面を見て慌てて耳に充てる。
『カイル! 匿っているαの様子がおかしいんだ。執事さんが、レンを近づけるなって!』
 カイルは刑事と顔を見合わせた。丁度走って来た若い刑事が窓を叩く。
「カイル様、わたしらはあちらの車で現場に向かいます」
と、刑事。
「申し訳ない、後は任せる」
 カイルは膝の上で苦しむレンの髪を撫でながら。
「現地に着いたら連絡します」
 刑事はそう言うと車を降り、若い刑事と共にもう一台の車に向かう。
「とにかく、この場を離れよう。Uターンしてくれ」
と、運転手に告げるカイル。
 運転手は頷いた。
「レン、大丈夫か?」
「はあッ……カイル……カイル」
 レンはカイルの腰にしがみつき、いいようのない衝動を耐える。背中に温もりを感じながら。

その場から、二キロも離れた頃、ようやく身体が衝動から解放される。
「レン……。停めてくれ」
 衝動をやり過ごし、起き上がるとカイルが再び制止の指示を出す。車は路肩に停車した。
「カイル、僕……」
「大丈夫だ」
 ぎゅっと抱きしめられ、涙が零れる。
「カイル、僕は何があってもカイルと一緒に居たいよ。カイルのことが好きなんだ。カイルと恋人でいたいし、ずっとカイルの傍に居たいよ」

───魂の番なんて知らない。
 そんなものいらない。僕の運命の相手はカイルなんだ。

「分かってるよ」
「僕を他所にやらないで。カイルの傍に居させて」
「何言ってるんだ、当たり前じゃないか」
 レンはむぎゅっとカイルにしがみつく。離れたくないと言うように。
 カイルが馬鹿なことを考えないように。
「絶対だよ」
「ああ、約束する」
 ショックを受けているのはカイルも同じ。
 レンは、先のことを考えると、不安でたまらないのだった。
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