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20話『運命を背負いし者と魂の番』
3 彼らを阻む不穏な影
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****♡Side・α(クライス)
久々のカイルの声に、クライスは泣きそうなほど嬉しさを噛みしめていた。ほんの少し会話をすることが出来ただけで、こんなに嬉しいなんてと思う。早く、会ってハグして欲しい。その温もりに触れたい。彼が恋しい。
しかし今は、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。
クライスはカイルの執事のスマホを借りると、父にメッセージを送る。簡単な事情を説明すると言っても、かなりの文字数となった。
初めてこの国に来た時は詳しい話はせずに来てしまったが、二度目に訪れる際には、事情を説明している。
事件に巻き込まれていると話した時、父母はクライスのことをとても心配していた。
───また大好きな父さんと母さんに、心配をかけてしまう。
今もきっと、一人息子が無事に国に帰ることを祈っているに違いない。
そんな父母にこれ以上心配はかけたくはないが、
『何かあれば、力になる』
と言っていた父の言葉が蘇る。
彼女はきっと惜しまぬ協力をしてくれるだろう。父も母も、クライスにとっては自慢。
国に戻った時、
『随分成長したな、人間として。まるでクライスじゃないみたいだ』
と父に言われことも思い出す。
そして彼女は誇らしげに、
『それでこそ、わたしの自慢の息子だ』
とも言った。
自分はとても恵まれていると思う。αの統治国家はそんなに格差のないにも関わらず、父は高い地位におり、高給取り。権力も持っている。
なんでも持っているように感じたのに、父は、
『この国は、女性体を下に見る傾向がある』
と不服を漏らしていた。
α性の者は容姿に関して言うならば整った者ばかりだが、父はその中でも群を抜いている。結婚に重きを置いていないのがαではあったが、パートナーを作る必要があるのであれば、”ぜひ自分と”という者も少なくなかったと言う。
だが父はαには一切興味を示さず、女性体のΩと婚姻した。
クライスを授かり二十年が経った今でも、その事が気に入らないという輩が多いと言う。それほどまでに、父は美しく聡明であった。
クライスが祈るような気持ちで父からの返信を待っていると、十分ほど時間を置いて返信が来る。
震える手で内容を確認すると、
”クライス、まずは無事で安心した。内容は把握した。カイル皇子と話がしたい。そして、レン殿から話を聞きたい。コンタクトは取れるか?”
というものであった。
自慢の父は、女性体のα。父らしい文面に懐かしさがこみ上げ、思わず涙が零れる。クライスは執事の方に視線を移し指示を仰ごうとしたが、部屋の奥の様子がおかしいことに気づく。
クライスは慌ててみんなのところへ行くと、
「何かあったんですか?」
と、執事に問いかける。
「クライス!」
声をあげたのは祖母。
「ど、どうしたの?」
祖母の指す方を見ると、匿っているαが苦しそうにうずくまっていた。
執事が、彼の元に膝をつく。
「いけない。これは……。クライス様! カイル様に連絡を! レン様をここに近づけないように言って下さい」
クライスには何が起きているのか分からなかった。
しかし嫌な予感がするのは確か。指示通りにスマホを操作すると、クライスはカイルに電話をかけたのだった。
久々のカイルの声に、クライスは泣きそうなほど嬉しさを噛みしめていた。ほんの少し会話をすることが出来ただけで、こんなに嬉しいなんてと思う。早く、会ってハグして欲しい。その温もりに触れたい。彼が恋しい。
しかし今は、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。
クライスはカイルの執事のスマホを借りると、父にメッセージを送る。簡単な事情を説明すると言っても、かなりの文字数となった。
初めてこの国に来た時は詳しい話はせずに来てしまったが、二度目に訪れる際には、事情を説明している。
事件に巻き込まれていると話した時、父母はクライスのことをとても心配していた。
───また大好きな父さんと母さんに、心配をかけてしまう。
今もきっと、一人息子が無事に国に帰ることを祈っているに違いない。
そんな父母にこれ以上心配はかけたくはないが、
『何かあれば、力になる』
と言っていた父の言葉が蘇る。
彼女はきっと惜しまぬ協力をしてくれるだろう。父も母も、クライスにとっては自慢。
国に戻った時、
『随分成長したな、人間として。まるでクライスじゃないみたいだ』
と父に言われことも思い出す。
そして彼女は誇らしげに、
『それでこそ、わたしの自慢の息子だ』
とも言った。
自分はとても恵まれていると思う。αの統治国家はそんなに格差のないにも関わらず、父は高い地位におり、高給取り。権力も持っている。
なんでも持っているように感じたのに、父は、
『この国は、女性体を下に見る傾向がある』
と不服を漏らしていた。
α性の者は容姿に関して言うならば整った者ばかりだが、父はその中でも群を抜いている。結婚に重きを置いていないのがαではあったが、パートナーを作る必要があるのであれば、”ぜひ自分と”という者も少なくなかったと言う。
だが父はαには一切興味を示さず、女性体のΩと婚姻した。
クライスを授かり二十年が経った今でも、その事が気に入らないという輩が多いと言う。それほどまでに、父は美しく聡明であった。
クライスが祈るような気持ちで父からの返信を待っていると、十分ほど時間を置いて返信が来る。
震える手で内容を確認すると、
”クライス、まずは無事で安心した。内容は把握した。カイル皇子と話がしたい。そして、レン殿から話を聞きたい。コンタクトは取れるか?”
というものであった。
自慢の父は、女性体のα。父らしい文面に懐かしさがこみ上げ、思わず涙が零れる。クライスは執事の方に視線を移し指示を仰ごうとしたが、部屋の奥の様子がおかしいことに気づく。
クライスは慌ててみんなのところへ行くと、
「何かあったんですか?」
と、執事に問いかける。
「クライス!」
声をあげたのは祖母。
「ど、どうしたの?」
祖母の指す方を見ると、匿っているαが苦しそうにうずくまっていた。
執事が、彼の元に膝をつく。
「いけない。これは……。クライス様! カイル様に連絡を! レン様をここに近づけないように言って下さい」
クライスには何が起きているのか分からなかった。
しかし嫌な予感がするのは確か。指示通りにスマホを操作すると、クライスはカイルに電話をかけたのだった。
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