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20話『運命を背負いし者と魂の番』
1 危機を救う手
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****♡Side・Ω(レン)
発情期が明ける。
この時をどれだけ心待ちにしていたことか。
あれから執事より齎された情報でレンは推理を組み立てていた。
事件が今、広がりを見せ始めている。
「レン、準備は出来た?」
これから二人が向かおうとしている先は、クライスの祖父母の家。
クライスたちは何とか探し人を見つけ、無事に保護してくれたらしい。カイルには黙って行動したものの、事情があってかくまって貰っていることは話してある。
「うん」
レンはチョーカーを首に巻く。今から逢うのは知らないα。何が起きるのか分からない。クライスから受け取ったヒート抑制剤も携えて。
カイルはまだ彼の存在を知らされてはいない。事件が進展したことも。
全てを話すには王妃の事情も話さなければならない。何をどう話すべきか、まだ決まってはいなかった。
王宮からやって来た従者が運転を務める車に乗り込みながらカイルの方を見ると、久々にクライスに会えるのが嬉しいのかニコニコしている。
「カイル、クライスと逢えるの……一週間ぶりだね」
他愛ない話から始めようと、レンはそう話しかけた。
「そうだな。寂しい想いをして居ないといいが」
実際はそれどころではなかったようだ。
事件の資料集めや、ノートなどを作ってくれているとのこと。
それはともかく現地について彼が驚かないように、例のαの話をしなければならない。もしかしたら、カイルの家で匿うことになるかもしれないのだから。
「カイル、あのさ」
レンは、カイルの手をさりげなく握る。ドキッとした表情を見せる彼。
「あのホテルで問題があって、執事がクライスを連れ出したって言ったでしょ?」
「ああ。それを聞いた時は、随分心臓に悪かった。クライスに何かあったらって思うと、気が気でなかった」
「実は一人匿っている人がいるんだ」
「え?」
驚くのも無理はない。
「クライスが以前、僕たちに出逢う前にそこで逢った奇跡の子だよ」
「もしかして、あのメッセージに書かれていた恋人?」
レンは頷いた。
パソコンでアクセスした、あの囚われのαの手記のことをカイルは言っている。彼を助けることのできなかった恋人のα。彼もまた、奇跡の子。
この事件には少なくとも三人の奇跡の子が関わっており、うち二人はカイルの妹姫を襲ったαと同じ会社に勤めていた。
「うん」
その会社とこの家の前に発情促進薬を置いた犯人は何らかの繋がりがあり、妹姫を襲ったαは奇跡の子をβの独立国に送り出すために、最初のターゲットにされたのではないかというのが執事たちの見解であった。
───ん? 待てよ……。
そこでレンはあることに気づく。
今から逢うαは、恋人が持っている書類の操作を会社から依頼された。彼も奇跡の子ではあるが、自分を偽っていたという。もしかしたら、彼が事件に巻き込まれたのは、単なる偶然かも知れないと。
この事件は偶然が必然と混ざり合い、複雑化させている可能性がある。
今一度どれが必然で、なにが偶然だったのか見極める必要があるのかも知れない。
「ねえ、カイル」
複雑な表情をし、何か考え事をしているカイルにレンは提案する。
「刑事さんも一緒に来てもらおうよ」
「そ、そうだな」
このレンの判断は後に最悪の事態を事態を防ぐ結果となるのだったが、二人はまだ知らない。
発情期が明ける。
この時をどれだけ心待ちにしていたことか。
あれから執事より齎された情報でレンは推理を組み立てていた。
事件が今、広がりを見せ始めている。
「レン、準備は出来た?」
これから二人が向かおうとしている先は、クライスの祖父母の家。
クライスたちは何とか探し人を見つけ、無事に保護してくれたらしい。カイルには黙って行動したものの、事情があってかくまって貰っていることは話してある。
「うん」
レンはチョーカーを首に巻く。今から逢うのは知らないα。何が起きるのか分からない。クライスから受け取ったヒート抑制剤も携えて。
カイルはまだ彼の存在を知らされてはいない。事件が進展したことも。
全てを話すには王妃の事情も話さなければならない。何をどう話すべきか、まだ決まってはいなかった。
王宮からやって来た従者が運転を務める車に乗り込みながらカイルの方を見ると、久々にクライスに会えるのが嬉しいのかニコニコしている。
「カイル、クライスと逢えるの……一週間ぶりだね」
他愛ない話から始めようと、レンはそう話しかけた。
「そうだな。寂しい想いをして居ないといいが」
実際はそれどころではなかったようだ。
事件の資料集めや、ノートなどを作ってくれているとのこと。
それはともかく現地について彼が驚かないように、例のαの話をしなければならない。もしかしたら、カイルの家で匿うことになるかもしれないのだから。
「カイル、あのさ」
レンは、カイルの手をさりげなく握る。ドキッとした表情を見せる彼。
「あのホテルで問題があって、執事がクライスを連れ出したって言ったでしょ?」
「ああ。それを聞いた時は、随分心臓に悪かった。クライスに何かあったらって思うと、気が気でなかった」
「実は一人匿っている人がいるんだ」
「え?」
驚くのも無理はない。
「クライスが以前、僕たちに出逢う前にそこで逢った奇跡の子だよ」
「もしかして、あのメッセージに書かれていた恋人?」
レンは頷いた。
パソコンでアクセスした、あの囚われのαの手記のことをカイルは言っている。彼を助けることのできなかった恋人のα。彼もまた、奇跡の子。
この事件には少なくとも三人の奇跡の子が関わっており、うち二人はカイルの妹姫を襲ったαと同じ会社に勤めていた。
「うん」
その会社とこの家の前に発情促進薬を置いた犯人は何らかの繋がりがあり、妹姫を襲ったαは奇跡の子をβの独立国に送り出すために、最初のターゲットにされたのではないかというのが執事たちの見解であった。
───ん? 待てよ……。
そこでレンはあることに気づく。
今から逢うαは、恋人が持っている書類の操作を会社から依頼された。彼も奇跡の子ではあるが、自分を偽っていたという。もしかしたら、彼が事件に巻き込まれたのは、単なる偶然かも知れないと。
この事件は偶然が必然と混ざり合い、複雑化させている可能性がある。
今一度どれが必然で、なにが偶然だったのか見極める必要があるのかも知れない。
「ねえ、カイル」
複雑な表情をし、何か考え事をしているカイルにレンは提案する。
「刑事さんも一緒に来てもらおうよ」
「そ、そうだな」
このレンの判断は後に最悪の事態を事態を防ぐ結果となるのだったが、二人はまだ知らない。
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