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18話『αの潜入捜査と執事』
4 母の救出
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****♡Side・β(カイル)
自分のもの心がついた時すでに、父王と母は別の塔に住んでいた。
宮廷は広い。玉座の後ろから王の部屋に行けるが、本来は正妻と子供たちが一緒に暮らすスペース。
だが自分と母と妹は西の塔に住んでいた。母は父と会えなくとも別段寂しそうには見えなかったし、たくさんの召使が居た。
それが父の仕向けたことではなく自ら望んだと知ったのは、妹がなくなってからだ。母は妹を失い、生きる気力を失ってしまったように感じた。
それが確信へと変わったのは、母から手紙が来たからだ。
そこにはカイル達と暮らしていきたいと書かれていた。
「そんなことがあったんだね」
カイルが事情をレンに話すと慈愛に満ちた笑みを浮かべ、カイルの手を握りこんだ。大丈夫だよ、と言うように。
「どうして、その時話してくれなかったの?」
話してくれたなら協力出来たのにと、彼は言う。
「父が、ダメだと言ったからだ」
それに当時はレンとは冷めた関係だった。
「うん、ごめん。きっと僕のせいで言いづらかったんだね」
「レンのせいじゃない。怠慢なのは俺だ」
今なら、違うと思える。
クライスのことはまだ話はしていないが、いつまでも父に任せて置いたところで母は元気にはならない。
「母さんにさ、笑って欲しいんだ」
母はきっと父王を愛してはいないのだと思う。
思えばいつだって、玉座の間へ続く通路には兵士が居た。あれは敵が攻め込んできたときの為だと思っていたが、父王を母に近づけない為だと思うとしっくりくる。
その理由は分からないが。
「僕も、それは同感だよ」
二年だ、母が床に臥せてしまってから。
父王には母を元気にすることは出来ないのだと、カイルは理解した。
「でも、どうやって連れ出すの?」
「王に話はする」
勝手に連れ出したところで、連れ返されるのは目に見えている。
それでは意味がない。
「レンに協力して欲しいんだ」
カイルは事情をよく知らなかったが、何故かレンに対して王は低姿勢だった。だから彼が協力をしてくれたのならば、何かが変わると思っている。
「分かった。カイルのお母さんは、僕にとってもお母さんだもんね」
二人は婚姻の約束を交わしていた。その事を改めて思い出す、カイル。
───もしかしたら、母が一緒に暮らすことで、レンに家族を作ってあげられるのかも知れない。
ただ、やはり心配なのは母のことだ。宮廷の暮らしに慣れてしまった彼女が街で暮らすことは出来るだろうか。もう少し広いところに引っ越すべきだろうか。人が増えることを考え、カイルは引っ越しも視野に入れ始めたのだった。
───母さん。必ず、連れ出して見せるから。もう少しだけ待っていて。
自分のもの心がついた時すでに、父王と母は別の塔に住んでいた。
宮廷は広い。玉座の後ろから王の部屋に行けるが、本来は正妻と子供たちが一緒に暮らすスペース。
だが自分と母と妹は西の塔に住んでいた。母は父と会えなくとも別段寂しそうには見えなかったし、たくさんの召使が居た。
それが父の仕向けたことではなく自ら望んだと知ったのは、妹がなくなってからだ。母は妹を失い、生きる気力を失ってしまったように感じた。
それが確信へと変わったのは、母から手紙が来たからだ。
そこにはカイル達と暮らしていきたいと書かれていた。
「そんなことがあったんだね」
カイルが事情をレンに話すと慈愛に満ちた笑みを浮かべ、カイルの手を握りこんだ。大丈夫だよ、と言うように。
「どうして、その時話してくれなかったの?」
話してくれたなら協力出来たのにと、彼は言う。
「父が、ダメだと言ったからだ」
それに当時はレンとは冷めた関係だった。
「うん、ごめん。きっと僕のせいで言いづらかったんだね」
「レンのせいじゃない。怠慢なのは俺だ」
今なら、違うと思える。
クライスのことはまだ話はしていないが、いつまでも父に任せて置いたところで母は元気にはならない。
「母さんにさ、笑って欲しいんだ」
母はきっと父王を愛してはいないのだと思う。
思えばいつだって、玉座の間へ続く通路には兵士が居た。あれは敵が攻め込んできたときの為だと思っていたが、父王を母に近づけない為だと思うとしっくりくる。
その理由は分からないが。
「僕も、それは同感だよ」
二年だ、母が床に臥せてしまってから。
父王には母を元気にすることは出来ないのだと、カイルは理解した。
「でも、どうやって連れ出すの?」
「王に話はする」
勝手に連れ出したところで、連れ返されるのは目に見えている。
それでは意味がない。
「レンに協力して欲しいんだ」
カイルは事情をよく知らなかったが、何故かレンに対して王は低姿勢だった。だから彼が協力をしてくれたのならば、何かが変わると思っている。
「分かった。カイルのお母さんは、僕にとってもお母さんだもんね」
二人は婚姻の約束を交わしていた。その事を改めて思い出す、カイル。
───もしかしたら、母が一緒に暮らすことで、レンに家族を作ってあげられるのかも知れない。
ただ、やはり心配なのは母のことだ。宮廷の暮らしに慣れてしまった彼女が街で暮らすことは出来るだろうか。もう少し広いところに引っ越すべきだろうか。人が増えることを考え、カイルは引っ越しも視野に入れ始めたのだった。
───母さん。必ず、連れ出して見せるから。もう少しだけ待っていて。
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