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18話『αの潜入捜査と執事』

2 独立国の王妃の忌まわしい過去

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****♡Side・α(クライス)

 クライスはトロッコの中で執事がホテル従業員の制服に着替えるのを、ぼんやりと眺めていた。彼から大雑把に話を聞くことができたが、まだ何かある様な気がしてならない。
 聞くチャンスは、今しかない。
 もう少し踏み込むべきではないだろうかと、感じていた。

「あの……」
「はい」
 恐らくそれは、王と妃のことではないかと思っている。
「まだ、知っておられること……ありますよね」
 クライスがそう切り出すと、彼は明らかに動揺した。
「全て、話していただけませんか?」
 彼は唇を噛みしめていたが何かを決心すると、クライスに視線を移す。
「そうですね。いずれは知れることですから」

 王が彼女を正妻とした年、彼女は十六歳であった。
 まだ若いこともあり二十歳になるまでは契りの儀式は待つという話で、彼女を宮廷に迎える。心がちゃんと王を受け入れられるまで。
 しかし王は約束を違えたのだ。
 彼女を連れ帰ったその日、周りの者に睡眠薬入りの酒を呑ませたうえで、無理矢理行為へと及ぶ。
 どんなに助けを求めても拒否をしても、周りの者は彼女を助けることが出来なかった。
 愛する人がまだ心の中に居るにも関わらず、王の手により彼女は汚されたのだ。

『いやああああああッ』
 その行為は明け方まで二度、三度と続き、結果彼女は妊娠した。
 明け方になり目を覚ました侍女が見たのは、酷い光景だったという。
 泣き叫ぶ少女を押さえつけ、襲う醜い王。侍女は慌てて皆を起こし、彼女を救い出す。
 それ以降彼女は別の塔へと移され、王と会うことはなくなったのだ。
 妊娠が発覚した時、妃は自殺を考えた。
 しかし王より、
『世継ぎを産まなければ、何度でも同じ目に合わせる』
と脅される。
 彼女は仕方なく一子を出産したのだと言う。王の心は何処までも醜かった。だが、同時に王を支持する者は宮廷にはいなくなったのだ。

 王は臣下たちによって妃と面会することが出来なくなる。
 だから、カイル皇子が産まれた翌年に妃がΩの女の子を出産した時、それが自分の子でないことくらい知っていた。
 知った上で、自分の子としたのだ。

「それでも、王は関係ないと?」
「王には誰も味方はいません。妃が城を去れば、それこそ誰一人として彼に見向きしなくなるでしょう。皆、カイル皇子が次の王になることを望んでいた」
 カイルは醜い心を持つ王の子でありながら、彼には似なかった。
「彼女を正妻として迎えようとした時、王は村長を金で買収しているんです」
「えっ」
「彼女が正妻になるよう協力した者たちはその後、反対派の村人たちに焼き殺されました。裏切り者として」

 クライスは、幸せに見えていたこの国にかなり黒い部分があることを知った。
「宮廷の者は、皆妃やカイル皇子の味方なんです」
 だがカイルは、王のこのような汚い部分を知らないという。
 知れば出生の秘密が知られてしまい、彼が絶望してしまうと考えたからだ。
 カイルはとても母である妃を大切にしている。その母に望まれずに産まれて来た子供だと知ってしまったら、どれほど傷ついてしまう事か。
 クライスは愛しいカイルのことを思い出し、切なくなったのだった。
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