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17話『発情期と奇跡の子』

5 遠ざかる彼

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****♡Side・β(カイル)

───何度目だろう、レンの発情期が来るのは。

 その度に彼は本能に支配され、αを求める。
 自分はただ道具のように彼の性欲処理の相手をし、発情期が過ぎるのを息を殺して待ち続けた。
 三か月に一度やってくる、耐えがたい苦痛。
 それは肉体ではなく心がだ。以前は名ばかりの恋人同士、だが今は違う。彼はちゃんとカイルのことを愛してくれていた。
 毎日愛情を感じながら傍に居て、その中でやって来る発情期は今までとは違う。
『カイル、ごめんね……』
 意識が遠のきそうになりながら、ぎゅっとしがみつく彼。
 意識が失われる瞬間まで愛だけをカイルに伝えようとしていた。これから、自分ではない自分が、カイルに身体だけを求める。その謝罪だ。

───レンが悪いわけじゃない。

 もし自分がαでレンと番になれたなら、彼はこの苦しみから解放される。
 もう罪悪感など感じることなく、一緒に居られるのだ。
 そんなこと、何度考えたか分かりゃしない。しかしどんなに考えたところで、性別は変わりはしないのだ。
 自分は紛れもなくβ。彼とつがえることなど一生ない。それなのに、自分はレンを手放す気もなかった。それは彼が排卵しなくなるまで、苦しみ続けることを指示さししめしている。
 彼もまた、カイルと一生の伴侶でいたいと願っていた。

───二人で乗り越えよう、レン。

 この先何十年苦しむか分からない。
 しかし肉体が苦しみから逃れたとて、心が幸せであるとは限らない。ならば、二人で苦しみ続けることを選んだ。自分にはクライスもいる。
 そんな自分をレンは受け入れてくれた。その彼に報いるためにも、こんなことでいちいち傷ついているわけにはいかない。

「はあッ……αが欲し……いッ」

 地下に居るクライスの存在のせいか、いつもとは少し違う彼。今までとは、比べ物にならないくらいに、激しい。
 カイルはレンがクライスのところに行ってしまわないように、必死で自分の方に意識を向けた。
 不意に彼が果てぐったりとなる。断続的に続くものだからそのこと自体は問題ないが、彼の身体を濡れタオルで綺麗にしてやりながら空気が変わったことに気づく。カイルにとってそれは、感覚的なものだ。

───クライスが、屋敷から遠ざかったんだ。

 レンが果てたのは、そのせいだと理解する。
 彼の興奮がαによるものだったなら、おかしくはない。
「クライス……」
 ラット化について、レンほどではないが自分も少し調べていた。
 発情期のΩよりも辛いらしい。自分はどちらも経験をしたことはないが。言うなれば理性もあり意識もあるのに、身体が言う事をきかなくなり勝手に犯罪を犯すようなものらしい。
 その後意識が失われ、本能へと切り替わる。考えるだけで恐ろしい。
 もし愛する人が居るのに、身体が言う事をきかなくなり勝手に、見ず知らずの人を襲ってしまったならば。自分なら、発狂してしまうに違いない。

 だがそれを知ったのはつい先日のこと。
 妹姫を襲ったαはどんな気持ちだったのだろうかと、レンに毛布を掛けてやりながらカイルは想像するのだった。
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