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17話『発情期と奇跡の子』

3 初めてのフェロモンと約束【微R】

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****♡Side・α(クライス)

「はあッ……」
 クライスは、地下室のベッドの上に居た。
 直ぐ近くにはトロッコ乗り場の入口がある。何かあれば、すぐに脱出するように言われていた。
 よくわからない香りがクライスの鼻先を掠める。性欲を刺激する匂い、表現のし辛い匂いだが、身体は明らかに反応していた。
 フェロモンは特殊なフィルターと装置で分解され、外へ排出されていくのは換気の為だ。
 匂いは通常上へ昇るものだが、Ωの放つフェロモンはどうやら違うようだ。

───なんなの、これ。

 自分の意志とは関係なく、クライスの身体はΩを求めていた。
 Ωに種をつけることを身体が望んでいる。段々と熱を帯びていく、身体。クライスは恐怖を感じていたと、同時に何故αがラット化するのを忌み嫌うのかも、理解する。

『僕は、先に意識がなくなる感じ。他のΩのことはわからないけど。意識がなくなった後は、記憶がないんだ。夜になると、少し意識が戻って、カイルがご飯を食べさせてくれるんだ』
 レンから発情期の状態のことを聞いていた。
 ネコが春の夜中に発情して煩いのは、恐らく夜行性だからだ。
 自分たちは昼間活動している。だから日中に発情し、夜になると少し意識が戻るのだろうとレンは推測していた。

───噛みたい……支配した……い。俺のΩ……。

 脳が徐々に自分を支配していく。頭を振ってクライスは耐える。
 自分のことしか分からず他の者と比べようがないが、αのラット化はΩの発情と逆だった。
 先に身体が本能に支配され、もし檻の中でなければレンを襲いに行きそうなくらい身体が言う事を聞かなくなる。
 そして徐々に理性が奪われていく。完全に奪われてしまったなら、意識を手放してしまうだろう。
 いずれはただ獣のようにΩを求めるのだ。

「はあッ……はあ……」
「クライス様」
 執事が手術などで使うようなゴムの手袋をはめ、クライスに近づいてくる。だが、そちらに目を向けることはできなかった。檻にしがみつきレンが居るであろう階上を見上げたまま。

「!」
「大丈夫、怖くないですよ」
 彼の手はクライスの前を寛げ、彼自身に触れていた。
 今からされることを想像しその意味を知る。
「ん……」
「今、楽にしてあげますからね」
 クライスは、檻に手をかけたまま、彼に処置を施されていた。恐らく一度吐き出したくらいじゃ、このフェロモンには敵わない。
「くっ……」
 カイル以外に触れられるのは辛い。
 しかし自分にはレンとの約束がある。そのチャンスは今回限り。

───負けてはいられない。
 俺はレンと約束したんだ。一緒にカイルを守るって。

「クライス様、波が去ったらここから脱出します。いいですね。直ぐにまたフェロモンにあてられるはずですから、急いで」
「う……ん」
 もちろん、彼も協力者だ。
 レンが詳しく話してくれていると言っていた。
「カイル……」
「ええ、一緒に守りましょう。カイル様を」
 欲望を吐き出したクライスを見届けると、彼は手袋を外し手を消毒する。
 前を寛げ着衣の乱れたクライスの身支度を整えると、クライスの腕を肩にかけた。
「荷物は既に、積み込んであります。歩けますか?」
と彼に聞かれ、何とか頷く。
 たった数メートルの距離がやたらと遠く感じた。

 トロッコが走り出すと、二人はようやくホッとする。
「これから、長い一週間になりそうですね」
と、執事。
「しくじらないように、気を付けないと」
「一人行動の時は特に、お気を付けて」
 彼はクライスの足首のアンクレットを確認し、荷物の中に抑制剤があるかどうかを確認する。
「こちらを」
「ありがとう」
 抑制剤には二種ある。抗フェロモン剤とラット自体を抑制するもの。抗フェロモン剤はとても副作用の強いもの。ラット抑制剤は耐性が上がる程度のものだ。
 通常使うのは後者。突発を避けるために摂取するもの。それとて自然体に逆らうのだから、多少の副作用はあるし命を縮める恐れもある。
「移動中だけですよ」

 ホテルの中に入ってしまえば必要ないものだが、今はフェロモンにあてられている状態。もし刺激があったらラット化する恐れがある。
 街に出るのに必要と判断した執事は、一本だけ使うようにと、指示したのだった。
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