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17話『発情期と奇跡の子』
2 皇子の想い
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****♡Side・β(カイル)
カイルは二人の間で交わされた約束について、何も知らされていなかった。
嫌がるクライスが、執事によって地下に連れていかれるのを切なげに見つめる。幽閉するためではない。フェロモンにあてられないように、少しでもレンから離れた場所に移動させたのだ。
この日の為に地下には新しいベッドと寝具を運び込んであり、軽いラット状態に対しどのように措置を施すかについても、執事と相談済みだ。
本来なら自分がしてやるべきだが、レンの傍から離れることはできない。
「クライス……」
カイルも正直なところ、クライスをα専用ホテルの方へはやりたくなかった。犯人は監視カメラをハッキングしている。それはホテル内も同じはずだ。
ただ部屋の中には監視カメラは設置されてはいない。不正に入退出をしないようにバルコニーや玄関には設置してあるが。
あくまでもαを監視するのはΩを守るためであって、α自体を監視するためではないからだ。
───いくら執事が傍についているとはいえ、街にはやりたくない。
あんなに怖いことがあったのだ。
それに犯人はその気になれば、どこからでもクライスを連れ去るに違いない。
カイルは犯人を怖い人だと思っていた。
βは他の性に比べ感情が豊かだ。行動にもすぐに出る。
しかし今回のような執着の仕方は異常でしかない。精神に異常をきたしてしまうほど、何かがあったとしか言えなかった。
β達は結束力によってΩを守って来た。Ωを守ることが使命だと疑わなかったのだ。
もしそれが崩れてしまったとしたら。Ωを恨む者が現れたとしたならば。それは、この国の崩壊につながってしまう。
一人疑問を抱いたなら、連鎖するものだ。カイルにはそれを阻止する義務がある。いや何としてでも、阻止しなければならない。
何故自分たちがαから独立したのか、今一度考え直して貰わなければならないと感じていた。
───Ωは弱い。
自分たちがどんなに彼らの為に動いても、所詮他人に人生を決められて生きている。
Ωに自由を。Ωに人権を。Ωに人としての幸せを。
それがβ達の願いだったはずだ。
彼らはαを生産するための道具として産まれて来たわけじゃない。
そして、望んでその性に産まれたわけでもない。
人として産まれて来たからには、平等に人生を選んで生きる権利がある。それが叶わないから、β達が守るのだ。
自分の人生を犠牲にしてまでΩを守るのはオカシイかも知れない。
しかしαは産まれる前からαとして望まれ、産まれてくる。
───お前らは、神にでもなったつもりか?
βは彼らを絶対に許しはしない。
この秩序はβ達の手で、守り通す。
そこでカイルは思う、自分は矛盾していると。
クライスはαだ。生まれる前からαだとして望まれ産まれて来た。限りなく奇跡に近いものを授かり、奇跡の子として産まれて来たのだ。
彼を守りたいと願うのは、αに憎しみを向ける自分とは相反する。
───いや、違う。
今、間の前にいる敵はαじゃない。自分と同じβだ。
カイルは、同志が道を違えることの怖さを知った。
昨日の敵が今日の敵とは限らないように、今日の味方が明日も味方とは限らないのだ。
「カイ……ル」
レンに名を呼ばれ、カイルは慌てて部屋に引き返す。
ドアを閉めることにどのくらいの効果があるのかはわからない。クライスがフェロモンにあてられないことを祈り、レンの元に膝まづくのであった。
カイルは二人の間で交わされた約束について、何も知らされていなかった。
嫌がるクライスが、執事によって地下に連れていかれるのを切なげに見つめる。幽閉するためではない。フェロモンにあてられないように、少しでもレンから離れた場所に移動させたのだ。
この日の為に地下には新しいベッドと寝具を運び込んであり、軽いラット状態に対しどのように措置を施すかについても、執事と相談済みだ。
本来なら自分がしてやるべきだが、レンの傍から離れることはできない。
「クライス……」
カイルも正直なところ、クライスをα専用ホテルの方へはやりたくなかった。犯人は監視カメラをハッキングしている。それはホテル内も同じはずだ。
ただ部屋の中には監視カメラは設置されてはいない。不正に入退出をしないようにバルコニーや玄関には設置してあるが。
あくまでもαを監視するのはΩを守るためであって、α自体を監視するためではないからだ。
───いくら執事が傍についているとはいえ、街にはやりたくない。
あんなに怖いことがあったのだ。
それに犯人はその気になれば、どこからでもクライスを連れ去るに違いない。
カイルは犯人を怖い人だと思っていた。
βは他の性に比べ感情が豊かだ。行動にもすぐに出る。
しかし今回のような執着の仕方は異常でしかない。精神に異常をきたしてしまうほど、何かがあったとしか言えなかった。
β達は結束力によってΩを守って来た。Ωを守ることが使命だと疑わなかったのだ。
もしそれが崩れてしまったとしたら。Ωを恨む者が現れたとしたならば。それは、この国の崩壊につながってしまう。
一人疑問を抱いたなら、連鎖するものだ。カイルにはそれを阻止する義務がある。いや何としてでも、阻止しなければならない。
何故自分たちがαから独立したのか、今一度考え直して貰わなければならないと感じていた。
───Ωは弱い。
自分たちがどんなに彼らの為に動いても、所詮他人に人生を決められて生きている。
Ωに自由を。Ωに人権を。Ωに人としての幸せを。
それがβ達の願いだったはずだ。
彼らはαを生産するための道具として産まれて来たわけじゃない。
そして、望んでその性に産まれたわけでもない。
人として産まれて来たからには、平等に人生を選んで生きる権利がある。それが叶わないから、β達が守るのだ。
自分の人生を犠牲にしてまでΩを守るのはオカシイかも知れない。
しかしαは産まれる前からαとして望まれ、産まれてくる。
───お前らは、神にでもなったつもりか?
βは彼らを絶対に許しはしない。
この秩序はβ達の手で、守り通す。
そこでカイルは思う、自分は矛盾していると。
クライスはαだ。生まれる前からαだとして望まれ産まれて来た。限りなく奇跡に近いものを授かり、奇跡の子として産まれて来たのだ。
彼を守りたいと願うのは、αに憎しみを向ける自分とは相反する。
───いや、違う。
今、間の前にいる敵はαじゃない。自分と同じβだ。
カイルは、同志が道を違えることの怖さを知った。
昨日の敵が今日の敵とは限らないように、今日の味方が明日も味方とは限らないのだ。
「カイ……ル」
レンに名を呼ばれ、カイルは慌てて部屋に引き返す。
ドアを閉めることにどのくらいの効果があるのかはわからない。クライスがフェロモンにあてられないことを祈り、レンの元に膝まづくのであった。
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