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16話『独立国でのαの実態』

1 レンとクライスの誓い

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****♡Side・α(クライス)

 正直クライスは、皆の話について行くことが出来なかった。
 どんなに勉強を重ねても、以前よりここで暮らしている者たちと同等の知識と感覚を持つことは難しい。
 カイルもレンも恐らく事件の全体像を掴んでいるというのに、自分に分かったことと言えばカイルの妹姫の本当の年齢くらいなものだ。
 あとは囚われのαが、あの日ホテルで出逢ったαに伝言を残していたという事。

───え? でも……。

 恋人であるαの男性体は会社からの命を受け、彼を探し出した。
 そして彼と会社に関係する書類を抹消した。
 あのαは、”救えない”と言っていたはずだ。
 独立記念日にクライスを捉えたβは、恋人が”助けを求めた”にもかかわらず、彼が”見捨てた”と証言している。
 そしてここには”自分のことは忘れてくれ”と伝言を残した恋人の手記。

───何かがオカシイ。

 本当に忘れて欲しかったのであれば、”助け”を求めただろうか?
 仮に助けを求めた上で”救えない”のであれば、手記がオカシイ。

 クライスにはどうにも解せなかった。
 その事を三人に告げると、
「調べてみる価値がありますな」
と、刑事。
 レンがなにか言いかけたところで部屋がノックされる。
 先ほど頼んでいた鑑識の者がこの屋敷に到着した。きっと結果を知らせに来たにちがいない。
 刑事は入って来た人物に、
「どうだった?」
と声をかければ、
「ありました」
と返ってくる。

 レンはやっぱりという表情をしていた。
 そこで刑事は椅子から立ち上がり、家主であるカイルに立ち合いを求めた。刑事たちが出て行くと、ドアの前に執事が立つ。
 レンとクライスにもしものことがあった時の為だ。

「クライス」
 するとレンが、自分の席から立ち上がり、クライスの横へ座る。
「時間がないから手短に話す」
 それはどうやら、カイルには聞かれたくない話のようだ。
 クライスは時間が無いというレンを尊重し、頷いた。そして内容を聞いて驚く。
「いい? 僕らは必ず狙われる。その時の為に互いの抑制剤を一つ交換して置きたい」
 囚われ、奪われることを想定してだ。
 何故交換すれば安心かと言えば、Ωの発情抑制剤は錠剤。
 αのラット抑制剤は注射タイプのもの。
「何か聞かれたら、持病の薬と答えるんだ」
と、レン。
 クライスは頷いた。
「犯人の目的は、……なの?」
 執事に聞こえないよう、クライスは小声で話す。
 その言葉に、彼は頷く。
「もし、クライスが……だったら、……して。いい?」
 彼も小声で話す。
 二人は頷き合うとレンは何食わぬ顔で、自分の席に戻って行ったのだった。クライスは思う、レンと二人でカイルを守らなければならないと。
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