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13話『第一皇子と奇跡の子』
7 皇子の提案
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****♡Side・α(クライス)
翌日、クライスは祖母たちと再会の約束をし二人を送り出した後、部屋に戻ろうとするとカイルに呼び止められた。カイルは珍しく一人だ。
「部屋に行ってもいいか? 話があるんだ」
彼は笑みを浮かべ、そう切り出す。表情から悪い話ではないことだけ、ぼんやりと理解した。
「うん。元々カイルの屋敷だし」
何も変なモノは隠してないよという意味合いも込めてそう返答すると、カイルは少し困った表情を浮かべる。
何か変なことを言ってしまったのだろうか?
「クライス。いくら自分の屋敷でも、クライスに部屋を貸している限り、プライバシーは守られるべきだ。そんなこと、言ってはダメだ」
この国ではαにプライバシーなどない。街中にたくさんの監視カメラがあるのは、αの行動を監視するため。αからΩを守るためだ。
αがβからどんな理不尽な仕打ちを受けていようと、取り締まられたりはしない。だから、この国では自分に人権などないと思っていた。
それなのに。
カイルは、それを否定する。当然の権利なんだと言う。α嫌いのカイルが、だ。クライスはしばし部屋の入り口で立ち止まると、カイルを見下ろしていた。意志の強そうな瞳。彼は内面から輝いているから美しいのだと、改めて思う。
「カイル、ありがとう」
「何故、礼を言う」
「俺、カイルを好きになってよかった。好きな人が尊敬できる人で、嬉しい」
好きな相手には自慢できる人物であって欲しいと願うのは、誰でも同じなのかもしれない。ただ、αには人を好きになるという感覚がないだけで。
「立ち話もなんだし、入れてくれる?」
「うん、どうぞ」
クライスは一歩先に進むと、彼の進行方向から外れた。カイルは窓辺のテーブルにつくと、向かい側に座るようにとクライスを手招きする。
そこではじめて、悪い話ではないが真面目な話なのだと気づく。クライスはゆっくりと近づいて行くと、指定されたところに腰を下ろした。向かい合う二人。カイルは、一度深呼吸をすると、
「話は他でもない、あの事だ」
「あのこと?」
ピンと来なかったクライスが聞き返す。
するとカイルはテーブルの上に置かれたクライスの手に、指先をツツツと滑らせる。
「性的な事だ」
───独立記念日の?
『誰も、お前を救ってはくれない。性欲を知ったαは、快楽から逃れることなんてできない』
あの時彼らから言われた言葉を思い出し、怖くなった。反射的に引っ込めようとしたクライスの手をカイルはぎゅっと掴んだ。
「クライスはこれからもきっと、狙われる。もし……」
誰かの手で、クライスが快楽を植え付けられるようなことがあったら。その快楽から逃れることは出来ない。それがαの宿命だ。
彼は極めて穏やかに説明をし、綺麗な細工のアンクレットを取り出してテーブルの上に置いた。
「俺のものに、なって欲しい」
「カイルの……ものに?」
クライスには、言われている意味が分からない。彼から詳しく話を聞くしかないのであった。
翌日、クライスは祖母たちと再会の約束をし二人を送り出した後、部屋に戻ろうとするとカイルに呼び止められた。カイルは珍しく一人だ。
「部屋に行ってもいいか? 話があるんだ」
彼は笑みを浮かべ、そう切り出す。表情から悪い話ではないことだけ、ぼんやりと理解した。
「うん。元々カイルの屋敷だし」
何も変なモノは隠してないよという意味合いも込めてそう返答すると、カイルは少し困った表情を浮かべる。
何か変なことを言ってしまったのだろうか?
「クライス。いくら自分の屋敷でも、クライスに部屋を貸している限り、プライバシーは守られるべきだ。そんなこと、言ってはダメだ」
この国ではαにプライバシーなどない。街中にたくさんの監視カメラがあるのは、αの行動を監視するため。αからΩを守るためだ。
αがβからどんな理不尽な仕打ちを受けていようと、取り締まられたりはしない。だから、この国では自分に人権などないと思っていた。
それなのに。
カイルは、それを否定する。当然の権利なんだと言う。α嫌いのカイルが、だ。クライスはしばし部屋の入り口で立ち止まると、カイルを見下ろしていた。意志の強そうな瞳。彼は内面から輝いているから美しいのだと、改めて思う。
「カイル、ありがとう」
「何故、礼を言う」
「俺、カイルを好きになってよかった。好きな人が尊敬できる人で、嬉しい」
好きな相手には自慢できる人物であって欲しいと願うのは、誰でも同じなのかもしれない。ただ、αには人を好きになるという感覚がないだけで。
「立ち話もなんだし、入れてくれる?」
「うん、どうぞ」
クライスは一歩先に進むと、彼の進行方向から外れた。カイルは窓辺のテーブルにつくと、向かい側に座るようにとクライスを手招きする。
そこではじめて、悪い話ではないが真面目な話なのだと気づく。クライスはゆっくりと近づいて行くと、指定されたところに腰を下ろした。向かい合う二人。カイルは、一度深呼吸をすると、
「話は他でもない、あの事だ」
「あのこと?」
ピンと来なかったクライスが聞き返す。
するとカイルはテーブルの上に置かれたクライスの手に、指先をツツツと滑らせる。
「性的な事だ」
───独立記念日の?
『誰も、お前を救ってはくれない。性欲を知ったαは、快楽から逃れることなんてできない』
あの時彼らから言われた言葉を思い出し、怖くなった。反射的に引っ込めようとしたクライスの手をカイルはぎゅっと掴んだ。
「クライスはこれからもきっと、狙われる。もし……」
誰かの手で、クライスが快楽を植え付けられるようなことがあったら。その快楽から逃れることは出来ない。それがαの宿命だ。
彼は極めて穏やかに説明をし、綺麗な細工のアンクレットを取り出してテーブルの上に置いた。
「俺のものに、なって欲しい」
「カイルの……ものに?」
クライスには、言われている意味が分からない。彼から詳しく話を聞くしかないのであった。
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