88 / 145
13話『第一皇子と奇跡の子』
1 自責の念に駆られて
しおりを挟む
****♡Side・α(クライス)
「クライス、ごめんね。僕がもっとちゃんと止めていれば」
「いや、俺が屋敷に居れば……」
迎えの車に乗り込むと、両脇のレンとカイルが口々に謝罪の言葉を述べる。クライスはただ、首をゆっくりと横に振った。
「二人は悪くない」
ハラハラと涙を溢す、クライス。
二人は何も悪くはないのだ。
「レン、カイルごめんなさい」
「クライス、どうしたんだよ」
心配そうに髪を撫でる、カイル。
レンはぎゅっとクライスの手を握ってくれている。
「せっかく、レンが選んでくれたのに。カイルが買ってくれたのに」
ズタズタに切り裂かれたシャツの破片は今、膝の上だ。カイルがトランクから出してくれたシャツを、クライスは羽織っている。
『ごめんな、お古で。でも、洗ってあるから』
と、カイルが渡してくれたものだ。
大きめだった為、ちゃんとお腹まで隠れる。
シャツを鼻にあて、
『カイルの匂い』
と微笑めば、
『柔軟剤だぞ』
と笑われた。
「クライス。そんなのいいんだよ? シャツはいくらでも代わりがきく、でもクライスは一人しかいないんだから」
と、レン。
「そうだぞ。そんなものいくらだって買ってやるから。俺は、お前が無事で本当良かったよ」
カイルはうっすら、目に涙を浮かべ。
自分が二人にどれだけ大事にされているかを知る。
なのに自分にとってあのシャツは思い出が詰まっていて、宝物だった。その事を思うと涙が止まらない。
「泣くなよ、なあ……頼むから。どうしていいか分からなくなるだろ」
とハンカチを出しクライスの目元へ充てるカイル。
「クライス、怖かったよね。僕たちがいるから、もう大丈夫だよ」
と、一所懸命慰めてくれるレン。
───αだからなんだって言うんだ。
優れている、ずっとそう言われて育った。
”希少価値の奇跡の子”として両親から愛されて、自分は特別なαだと思っていた。だが、実際はなんだ? ただの無力で劣等な人間じゃないか。
大好きな人たちにこんなに心配させて。
クライスは自分自身が嫌で仕方なかった。
自分を孫と言って受け入れてくれたβの祖父母。祖母はもしかしたら、ケガをしているかもしれない。
───カイルに逢いたかった。
ただ、逢いたかっただけなのに。
自分の身勝手な行動で、どれだけの人を巻き込んだのだろう?
もう、消えてしまいたい。αになんて産まれて来なければ……。
しかしその想いは大好きな父母を否定することになる。
クライスは自分自身を追い詰め、潰されそうになっていたのだった。
「クライス、ごめんね。僕がもっとちゃんと止めていれば」
「いや、俺が屋敷に居れば……」
迎えの車に乗り込むと、両脇のレンとカイルが口々に謝罪の言葉を述べる。クライスはただ、首をゆっくりと横に振った。
「二人は悪くない」
ハラハラと涙を溢す、クライス。
二人は何も悪くはないのだ。
「レン、カイルごめんなさい」
「クライス、どうしたんだよ」
心配そうに髪を撫でる、カイル。
レンはぎゅっとクライスの手を握ってくれている。
「せっかく、レンが選んでくれたのに。カイルが買ってくれたのに」
ズタズタに切り裂かれたシャツの破片は今、膝の上だ。カイルがトランクから出してくれたシャツを、クライスは羽織っている。
『ごめんな、お古で。でも、洗ってあるから』
と、カイルが渡してくれたものだ。
大きめだった為、ちゃんとお腹まで隠れる。
シャツを鼻にあて、
『カイルの匂い』
と微笑めば、
『柔軟剤だぞ』
と笑われた。
「クライス。そんなのいいんだよ? シャツはいくらでも代わりがきく、でもクライスは一人しかいないんだから」
と、レン。
「そうだぞ。そんなものいくらだって買ってやるから。俺は、お前が無事で本当良かったよ」
カイルはうっすら、目に涙を浮かべ。
自分が二人にどれだけ大事にされているかを知る。
なのに自分にとってあのシャツは思い出が詰まっていて、宝物だった。その事を思うと涙が止まらない。
「泣くなよ、なあ……頼むから。どうしていいか分からなくなるだろ」
とハンカチを出しクライスの目元へ充てるカイル。
「クライス、怖かったよね。僕たちがいるから、もう大丈夫だよ」
と、一所懸命慰めてくれるレン。
───αだからなんだって言うんだ。
優れている、ずっとそう言われて育った。
”希少価値の奇跡の子”として両親から愛されて、自分は特別なαだと思っていた。だが、実際はなんだ? ただの無力で劣等な人間じゃないか。
大好きな人たちにこんなに心配させて。
クライスは自分自身が嫌で仕方なかった。
自分を孫と言って受け入れてくれたβの祖父母。祖母はもしかしたら、ケガをしているかもしれない。
───カイルに逢いたかった。
ただ、逢いたかっただけなのに。
自分の身勝手な行動で、どれだけの人を巻き込んだのだろう?
もう、消えてしまいたい。αになんて産まれて来なければ……。
しかしその想いは大好きな父母を否定することになる。
クライスは自分自身を追い詰め、潰されそうになっていたのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

孤独を癒して
星屑
BL
運命の番として出会った2人。
「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、
デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。
*不定期更新。
*感想などいただけると励みになります。
*完結は絶対させます!

俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった
二三
BL
BL小説家である私は、小説の稼ぎだけでは食っていけないために、パン屋でバイトをしている。そのバイト先に、ライバル視している私小説家、穂積が新人バイトとしてやってきた。本当は私小説家志望である私は、BL小説家であることを隠し、嫉妬を覚えながら穂積と一緒に働く。そんな私の心中も知らず、穂積は私に好きだのタイプだのと、積極的にアプローチしてくる。ある日、私がBL小説家であることが穂積にばれてしまい…?
※タイトルから1を外し、長編に変更しました。2023.08.16

両片思いのI LOVE YOU
大波小波
BL
相沢 瑠衣(あいざわ るい)は、18歳のオメガ少年だ。
両親に家を追い出され、バイトを掛け持ちしながら毎日を何とか暮らしている。
そんなある日、大学生のアルファ青年・楠 寿士(くすのき ひさし)と出会う。
洋菓子店でミニスカサンタのコスプレで頑張っていた瑠衣から、売れ残りのクリスマスケーキを全部買ってくれた寿士。
お礼に彼のマンションまでケーキを運ぶ瑠衣だが、そのまま寿士と関係を持ってしまった。
富豪の御曹司である寿士は、一ヶ月100万円で愛人にならないか、と瑠衣に持ち掛ける。
少々性格に難ありの寿士なのだが、金銭に苦労している瑠衣は、ついつい応じてしまった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる