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12話『皇子の逆鱗に触れるとき』
4 皇子の失態と後悔
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****♡Side・β(カイル)
「カイル様。大丈夫ですか?」
普段ならば後部座席に座るカイルだが、一刻も早くクライスを見つけ出したいという理由から、視界の広い助手席に腰かけていた。
腕組みをし、じっと前を見据える。向かっているのは一番最後に煙があがった方向。
火をつけられているかもしれないと思うと気が気ではない。気ばかり焦る。
『そんなに似合うかな?』
少し頬を染め、チラとカイルの様子を窺う、クライス。
『ああ、よく似合ってる』
『じゃあ、みんなで出かけるとき、これ着ていく』
嬉しそうな彼の表情が忘れられない。
彼は自分よりも背が高く整った顔をしているが、レンのように可愛らしいというタイプではない。
しかしカイルにとっては、可愛くて仕方がないのだ。
───初めてなんだ。α性の者を失いたくないと思ったのは。
妹を失った時の絶望感。あんなのは、もうたくさんだ!
カイルがぎゅっと拳を握りしめ俯いていると、間もなく車は停車する。
カイルはハッと顔をあげると、転がるように車から飛び出した。
煙があがっていたのはいたのはこの路地の奥だ。車では行くことのできない細い路地を、全力で駆け抜ける。
絶望が待ち受けているとも知らずに。
「うそ……だろ……?」
カイルは袋小路にたどり着くと目の前が真っ暗になった。
そこには真っ黒に焼けただれた遺体が一つ、無造作に転がっている。
「なんで? ……なんでだよ」
確かに警察署から屋敷を経由し、それなりの時間はかかっていた。
身体を引きづるように遺体に近づくと、カイルはその場に膝をつく。
「クライス……ごめん。俺のせいだ……ちくしょおおおおお!」
カイルは何度も何度も拳を打ち付けるとボロボロと涙を溢していた。
こんなことになったのは、全て自分のせい。レンの言う事を聞いて屋敷に居たなら、最悪の事態は免れたはずなのに。
「カイル様」
後から走って来た執事はカイルと遺体を見つけると息を呑んだ。
それでも恐る恐る近づいてくると、遺体を覗き込む。
いくら見たって彼はもう生き返ることはないのだ。
カイルはただ、執事を見上げた。
「あの、申し上げにくいのですが」
まさかこの場でお悔やみなど言うわけじゃないよな、とカイルはキッと睨みつける。しかし、そうでは無かった。
「この遺体は、クライス様ではないようです」
「は⁈」
何を根拠にそんなことを言い始めるのだろうとカイルは、再び遺体に視線を戻す。
「クライス様なら、ロケットを首に下げているはずです。それに、腕にリングがありません」
「持っていかれたのじゃないのか? 背格好だって、クライスと似ている」
と、カイルが抗議すれば、
「クライス様は、α性の者としては標準体型です。特徴はありません。それにあのリングは手首でも切り落とさない限り、外すことが出来ない特殊なモノです」
執事に冷静に分析され、カイルは涙を拭う。
まだ生きている可能性があるのであれば、一刻を争う。
「行くぞ」
カイルが気持ちを切り替え、立ち上がった時であった。
「カイルー!」
「カイル様っ!」
バイクの音と共に聞きなれた声が聞こえて来たのは。
大型のバイクは二人の前で、キキーッという派手な音を立て停車する。
「レン⁈」
「カイル! 行こう。バイクなら探しやすい」
運転していた給仕の女性はバイクから降りると、フルフェイスヘルメットをカイルに渡してきた。
「カイル様。どうかクライス様を探し出してください。彼は殺されることはありません」
「え?」
微笑む彼女の言葉に、戸惑うカイル。
「詳しくは、僕が話すから。カイル、行こう。クライスの元へ」
レンは、カイルに手を差し伸べながら。
カイルは何が何だか分からないまま、バイクにまたがる。
その腰にレンがしっかりと腕を回した。
「他の者を連れ、わたしたちも後から向かいます。カイル様、どうかお気をつけて」
彼らに励まされカイルの心にはもう、迷いはなかった。
頷くと強く地面を蹴ったのだった。
「カイル様。大丈夫ですか?」
普段ならば後部座席に座るカイルだが、一刻も早くクライスを見つけ出したいという理由から、視界の広い助手席に腰かけていた。
腕組みをし、じっと前を見据える。向かっているのは一番最後に煙があがった方向。
火をつけられているかもしれないと思うと気が気ではない。気ばかり焦る。
『そんなに似合うかな?』
少し頬を染め、チラとカイルの様子を窺う、クライス。
『ああ、よく似合ってる』
『じゃあ、みんなで出かけるとき、これ着ていく』
嬉しそうな彼の表情が忘れられない。
彼は自分よりも背が高く整った顔をしているが、レンのように可愛らしいというタイプではない。
しかしカイルにとっては、可愛くて仕方がないのだ。
───初めてなんだ。α性の者を失いたくないと思ったのは。
妹を失った時の絶望感。あんなのは、もうたくさんだ!
カイルがぎゅっと拳を握りしめ俯いていると、間もなく車は停車する。
カイルはハッと顔をあげると、転がるように車から飛び出した。
煙があがっていたのはいたのはこの路地の奥だ。車では行くことのできない細い路地を、全力で駆け抜ける。
絶望が待ち受けているとも知らずに。
「うそ……だろ……?」
カイルは袋小路にたどり着くと目の前が真っ暗になった。
そこには真っ黒に焼けただれた遺体が一つ、無造作に転がっている。
「なんで? ……なんでだよ」
確かに警察署から屋敷を経由し、それなりの時間はかかっていた。
身体を引きづるように遺体に近づくと、カイルはその場に膝をつく。
「クライス……ごめん。俺のせいだ……ちくしょおおおおお!」
カイルは何度も何度も拳を打ち付けるとボロボロと涙を溢していた。
こんなことになったのは、全て自分のせい。レンの言う事を聞いて屋敷に居たなら、最悪の事態は免れたはずなのに。
「カイル様」
後から走って来た執事はカイルと遺体を見つけると息を呑んだ。
それでも恐る恐る近づいてくると、遺体を覗き込む。
いくら見たって彼はもう生き返ることはないのだ。
カイルはただ、執事を見上げた。
「あの、申し上げにくいのですが」
まさかこの場でお悔やみなど言うわけじゃないよな、とカイルはキッと睨みつける。しかし、そうでは無かった。
「この遺体は、クライス様ではないようです」
「は⁈」
何を根拠にそんなことを言い始めるのだろうとカイルは、再び遺体に視線を戻す。
「クライス様なら、ロケットを首に下げているはずです。それに、腕にリングがありません」
「持っていかれたのじゃないのか? 背格好だって、クライスと似ている」
と、カイルが抗議すれば、
「クライス様は、α性の者としては標準体型です。特徴はありません。それにあのリングは手首でも切り落とさない限り、外すことが出来ない特殊なモノです」
執事に冷静に分析され、カイルは涙を拭う。
まだ生きている可能性があるのであれば、一刻を争う。
「行くぞ」
カイルが気持ちを切り替え、立ち上がった時であった。
「カイルー!」
「カイル様っ!」
バイクの音と共に聞きなれた声が聞こえて来たのは。
大型のバイクは二人の前で、キキーッという派手な音を立て停車する。
「レン⁈」
「カイル! 行こう。バイクなら探しやすい」
運転していた給仕の女性はバイクから降りると、フルフェイスヘルメットをカイルに渡してきた。
「カイル様。どうかクライス様を探し出してください。彼は殺されることはありません」
「え?」
微笑む彼女の言葉に、戸惑うカイル。
「詳しくは、僕が話すから。カイル、行こう。クライスの元へ」
レンは、カイルに手を差し伸べながら。
カイルは何が何だか分からないまま、バイクにまたがる。
その腰にレンがしっかりと腕を回した。
「他の者を連れ、わたしたちも後から向かいます。カイル様、どうかお気をつけて」
彼らに励まされカイルの心にはもう、迷いはなかった。
頷くと強く地面を蹴ったのだった。
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