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12話『皇子の逆鱗に触れるとき』
3 Ωの決意
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****♡Side・Ω(レン)
「カイル……」
レンは従者の腕の中でハラハラと涙を溢しながら、カイルの背中を見送っていた。
自分だってカイルの力になりたい。
クライスを助けたい気持ちは一緒なのに。
どうして彼は一人で行ってしまうのだろうか。自分がΩだから置いて行かれるのだと思うと、辛い。
ふと見上げれば、先ほどまでなかった煙が空に向かってたち昇っている。
また誰か犠牲者が出たのかもしれない。クライスでなければいいと、願う。
例の犯人が今回のことも仕掛けたのだとしたら。
まだ犯人の目的さえ定かではないが、もしそうならクライスを殺すことなどしないだろう。クライスがあの日ここに来たのは偶然だ。
その後の計画にクライスを組み込んだとしたなら、殺すメリットはない。
レンは思う、ターゲットは自分なんだと。
しかしカイルは今、そのことには頭が回っていないはずだ。
もし誰かの遺体をクライスだと誤認してしまったら?
───カイルが壊れちゃうよ。
彼が妹姫を失った時のことを思い出す。
あの優しいカイルが暴言を吐き、王に向かって、
『αは皆殺しにすべきだ!』
と進言したあの日を。
もしカイルが勘違いしてしまったら、今日の独立記念日のα狩りに参加したβの全てを皆殺しにしろと言いかねない。
カイルは大切な人のためには残酷になってしまう一面を持っている。それは人として、当然の感情だと思うかもしれない。
だが彼はこの国で”特別なβ”なのだ。
国民に愛され、皇子であることを剥奪された後も皆の憧れの的。
人望の厚い彼には発言力がある。そのせいで国民同士がいがみあうようなことがあってはいけない。
『レン。カイルは時々手に負えないこともある。しかし、どうかあの子を、わたしの可愛い息子を宜しく頼みます』
妹姫が亡くなった後、国王からレンが直接かけられた言葉だ。
あの時は自分にそんな力があるなんて思ってもいなかった。
だが、今は違う。カイルは自分の恋人であり婚約者だ。
自分が支えなくて、どうする?
「お願い、カイルのところへ行かせて」
レンは自分を支える従者を見上げて懇願した。
「もし、クライスを失ったら。カイルが、壊れちゃう」
「しかし、レン様。外は危険です」
───僕はなんて無力なんだろう。
カイルの傍にすら、いけないなんて。
その時、表からオートバイの音がした。
「レン様! 行きましょう」
「⁉」
気づけば先ほどまで傍にいたはずの給仕係の女性がいない。
声は確かに彼女の声であった。大型のバイクにまたがる彼女はボディスーツを身に纏い、フルフェイスヘルメットをかぶっている。
もう一つのヘルメットをレンに向け、乗るように合図した。
「私が、お連れしますから! カイル様のところへ。一緒にクライス様を救出しましょう!」
花壇を踏み荒らされ、しくしくと泣いていた姿が想像できないほどの意志の強さを感じる。
レンが周りを見渡せば、他の従者たちが一斉に頷く。
それは『行け!」という意味であった。
「ありがとう、みんな!」
「レン様を無事に届けるんだぞ!」
「任せて!」
こうしてレンは従者たちの援護を受け、カイルの元へ向かう事となったのだった。
───待っててクライス!
今、カイルと助けに行くから。
「カイル……」
レンは従者の腕の中でハラハラと涙を溢しながら、カイルの背中を見送っていた。
自分だってカイルの力になりたい。
クライスを助けたい気持ちは一緒なのに。
どうして彼は一人で行ってしまうのだろうか。自分がΩだから置いて行かれるのだと思うと、辛い。
ふと見上げれば、先ほどまでなかった煙が空に向かってたち昇っている。
また誰か犠牲者が出たのかもしれない。クライスでなければいいと、願う。
例の犯人が今回のことも仕掛けたのだとしたら。
まだ犯人の目的さえ定かではないが、もしそうならクライスを殺すことなどしないだろう。クライスがあの日ここに来たのは偶然だ。
その後の計画にクライスを組み込んだとしたなら、殺すメリットはない。
レンは思う、ターゲットは自分なんだと。
しかしカイルは今、そのことには頭が回っていないはずだ。
もし誰かの遺体をクライスだと誤認してしまったら?
───カイルが壊れちゃうよ。
彼が妹姫を失った時のことを思い出す。
あの優しいカイルが暴言を吐き、王に向かって、
『αは皆殺しにすべきだ!』
と進言したあの日を。
もしカイルが勘違いしてしまったら、今日の独立記念日のα狩りに参加したβの全てを皆殺しにしろと言いかねない。
カイルは大切な人のためには残酷になってしまう一面を持っている。それは人として、当然の感情だと思うかもしれない。
だが彼はこの国で”特別なβ”なのだ。
国民に愛され、皇子であることを剥奪された後も皆の憧れの的。
人望の厚い彼には発言力がある。そのせいで国民同士がいがみあうようなことがあってはいけない。
『レン。カイルは時々手に負えないこともある。しかし、どうかあの子を、わたしの可愛い息子を宜しく頼みます』
妹姫が亡くなった後、国王からレンが直接かけられた言葉だ。
あの時は自分にそんな力があるなんて思ってもいなかった。
だが、今は違う。カイルは自分の恋人であり婚約者だ。
自分が支えなくて、どうする?
「お願い、カイルのところへ行かせて」
レンは自分を支える従者を見上げて懇願した。
「もし、クライスを失ったら。カイルが、壊れちゃう」
「しかし、レン様。外は危険です」
───僕はなんて無力なんだろう。
カイルの傍にすら、いけないなんて。
その時、表からオートバイの音がした。
「レン様! 行きましょう」
「⁉」
気づけば先ほどまで傍にいたはずの給仕係の女性がいない。
声は確かに彼女の声であった。大型のバイクにまたがる彼女はボディスーツを身に纏い、フルフェイスヘルメットをかぶっている。
もう一つのヘルメットをレンに向け、乗るように合図した。
「私が、お連れしますから! カイル様のところへ。一緒にクライス様を救出しましょう!」
花壇を踏み荒らされ、しくしくと泣いていた姿が想像できないほどの意志の強さを感じる。
レンが周りを見渡せば、他の従者たちが一斉に頷く。
それは『行け!」という意味であった。
「ありがとう、みんな!」
「レン様を無事に届けるんだぞ!」
「任せて!」
こうしてレンは従者たちの援護を受け、カイルの元へ向かう事となったのだった。
───待っててクライス!
今、カイルと助けに行くから。
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