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12話『皇子の逆鱗に触れるとき』
2 恐怖に怯えるα
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****♡Side・α(クライス)
クライスは荷車の上で膝を抱えていた。人が一人乗るのがやっとの小さな荷車。てっきり車で連れていかれるのかと思っていたものだから、驚いた。
パトカーがそこかしこを走り抜ける。気づかれなように布を被せられ、クライスは荷物に見せかけられていた。
泣いてしまわないように、ぎゅっと唇を噛みしめる。
『クライス! あんたたち、わたしの孫になにするのっ。その手を放しなさい!』
祖母が必死にクライスを連れて行こうとしていた一人へしがみついていたことを思い出す。
祖母は無事だろうか。自分がαだったために、みんなを巻き込んでしまった。こんな自分に優しくしてくれたのに、と悲しくなる。
───死ぬ前にもう一度カイルと、レンに逢いたい。
まだ、お礼もしてないのに……。
自分に命乞いする権利はない。
国のΩ達のことを考える。彼らがどれだけαに虐げられていたのかを。
覚悟はしていたはずだ。
初めてこの国に足を踏み入れた時から、生きて帰れないかもしれないと。それでもカイルに逢いたいと願ったのは自分だ。
───俺は後悔してはいない。
最後の時まで胸を張っていなければならない。
暫くすると袋小路になっている場所で荷車が動きを止めた。
ただ壁に囲まれているだけのところである。
なぜこんなところにと不思議に思っていると、β男性体の一人がニヤニヤと笑いながらクライスを見つめた。
クライスはただ、彼を見上げる。
すると、
「怪我さえさせなければ良いと言われてるんだよ」
と舐めるような視線をクライスに走らせ、首に下がるロケットに手を伸ばした。
「これに触るなっ」
思わずその手を弾き飛ばすクライス。
手を伸ばした男の隣に立っている渋めのβ男性体が、
「壊すなよ。それには触るな」
と、彼に冷たい視線を向けた。
「なんだよ、お前まで」
「わからないのか? それは”奇跡の子”の証だ」
「ほーう。そりゃ、楽しめそうだな」
クライスは自分が話題の中心であることはわかっても、二人が何の話をしているのかわからなかった。
分かるのはここで殺されるわけではないという事だけ。
瞳を揺らし二人を見つめていると、先に手を出してきた男が再びクライスに視線を戻す。
「クライスと言ったな。少し楽しもうぜ。お前、初物なんだろ?」
───何を言ってるのかわからない。
眉を寄せ黙っていると、男がズボンのポケットからハサミを取り出した。
「な……なに?」
怪我をさせないと言っていたにも関わらず刃物をちらつかせる相手に、クライスは恐怖を感じる。
逃げ場なんて何処にもない。何をされるのか分からず、青ざめるだけ。
「おい、誰か抑えろよ」
彼の一言で、控えていた一人がクライスを後ろから押さえつけた。
腕を掴まれ、身動きできないクライスにハサミを近づける彼。
「大人しくしてろよ」
「!」
彼はクライスのシャツを掴むと、おもむろにハサミを入れ始めた。
『クライス、凄くよく似合ってるよ』
『カイルに褒められて、照れてる。可愛いッ』
ザクッとハサミが入る瞬間、二人との会話がフラッシュバックする。
「やめろ! いやだッ」
「おい! 暴れるな」
押さえつけられ、ボロボロになっていくシャツ。
その切れ端が手のひらに触れた。
「やめろおおおおおおおおッ!」
一緒に買い物に行った時の二人が思い出され、目の前が真っ白になる。
───レンが選んでくれたのに!
カイルが買ってくれたのに!
大事にしてたのに……。
なんでこんなことするの?
俺がαだからいけないの?
カイル、レン。助けて……。
たすけて。こわいよ。
こわい……。
クライスは荷車の上で膝を抱えていた。人が一人乗るのがやっとの小さな荷車。てっきり車で連れていかれるのかと思っていたものだから、驚いた。
パトカーがそこかしこを走り抜ける。気づかれなように布を被せられ、クライスは荷物に見せかけられていた。
泣いてしまわないように、ぎゅっと唇を噛みしめる。
『クライス! あんたたち、わたしの孫になにするのっ。その手を放しなさい!』
祖母が必死にクライスを連れて行こうとしていた一人へしがみついていたことを思い出す。
祖母は無事だろうか。自分がαだったために、みんなを巻き込んでしまった。こんな自分に優しくしてくれたのに、と悲しくなる。
───死ぬ前にもう一度カイルと、レンに逢いたい。
まだ、お礼もしてないのに……。
自分に命乞いする権利はない。
国のΩ達のことを考える。彼らがどれだけαに虐げられていたのかを。
覚悟はしていたはずだ。
初めてこの国に足を踏み入れた時から、生きて帰れないかもしれないと。それでもカイルに逢いたいと願ったのは自分だ。
───俺は後悔してはいない。
最後の時まで胸を張っていなければならない。
暫くすると袋小路になっている場所で荷車が動きを止めた。
ただ壁に囲まれているだけのところである。
なぜこんなところにと不思議に思っていると、β男性体の一人がニヤニヤと笑いながらクライスを見つめた。
クライスはただ、彼を見上げる。
すると、
「怪我さえさせなければ良いと言われてるんだよ」
と舐めるような視線をクライスに走らせ、首に下がるロケットに手を伸ばした。
「これに触るなっ」
思わずその手を弾き飛ばすクライス。
手を伸ばした男の隣に立っている渋めのβ男性体が、
「壊すなよ。それには触るな」
と、彼に冷たい視線を向けた。
「なんだよ、お前まで」
「わからないのか? それは”奇跡の子”の証だ」
「ほーう。そりゃ、楽しめそうだな」
クライスは自分が話題の中心であることはわかっても、二人が何の話をしているのかわからなかった。
分かるのはここで殺されるわけではないという事だけ。
瞳を揺らし二人を見つめていると、先に手を出してきた男が再びクライスに視線を戻す。
「クライスと言ったな。少し楽しもうぜ。お前、初物なんだろ?」
───何を言ってるのかわからない。
眉を寄せ黙っていると、男がズボンのポケットからハサミを取り出した。
「な……なに?」
怪我をさせないと言っていたにも関わらず刃物をちらつかせる相手に、クライスは恐怖を感じる。
逃げ場なんて何処にもない。何をされるのか分からず、青ざめるだけ。
「おい、誰か抑えろよ」
彼の一言で、控えていた一人がクライスを後ろから押さえつけた。
腕を掴まれ、身動きできないクライスにハサミを近づける彼。
「大人しくしてろよ」
「!」
彼はクライスのシャツを掴むと、おもむろにハサミを入れ始めた。
『クライス、凄くよく似合ってるよ』
『カイルに褒められて、照れてる。可愛いッ』
ザクッとハサミが入る瞬間、二人との会話がフラッシュバックする。
「やめろ! いやだッ」
「おい! 暴れるな」
押さえつけられ、ボロボロになっていくシャツ。
その切れ端が手のひらに触れた。
「やめろおおおおおおおおッ!」
一緒に買い物に行った時の二人が思い出され、目の前が真っ白になる。
───レンが選んでくれたのに!
カイルが買ってくれたのに!
大事にしてたのに……。
なんでこんなことするの?
俺がαだからいけないの?
カイル、レン。助けて……。
たすけて。こわいよ。
こわい……。
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