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11話『一時の安息と独立記念日』
7 運命の日
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****♡Side・Ω(レン)
いよいよやって来た、独立記念日。
何度経験しても嫌な日だ。街のところどころに火の手があがり、焦げ臭い匂いに包まれる。
カイルの妹姫が亡くなった後の独立記念日は酷かった。
あの惨状を思い出し、レンは身震いする。
あの日、恐怖に怯えたレンを見兼ねたカイルは、外と断絶するために発情期同様固く門を閉ざし全ての雨戸を締めさせた。
光の来ない部屋の中で、カイルはずっと傍で背中をさすってくれていたのだ。
この日、朝からレンの心はざわついていた。
前日に庭へ投げ入れられた不審物。ここが元第一皇子カイルの屋敷であることを知らない国民はいない。爆発物でも何でもないただの箱だが、明らかに誰かが投げ入れたものだった。
何かの目的があるとしか思えない。
もしかしたら例の事件と関係があるかも知れないと、朝からカイルは警察へいってしまった。執事を連れて。
『お願い、カイル。今日は家に居てよ』
イヤな予感が拭えないレンは、そう言って彼を止めようとしたが、
『警備を頼みに行く』
と言い、担当の刑事に約束を取り付け出かけてしまったのだ。
『戸締りを厳重に頼む』
従者たちにそう告げて。
この屋敷でカイルに仕えているのは、コック、執事、庭師である男性体βの三人と給仕や掃除などをしてくれる女性体βの二人、計五人だ。
カイルは事件以来、城から従者を数名呼び寄せたいと言っていたが、独立記念日までは何処も忙しく希望が叶わなかったのだ。
通常ならばレンとクライスも手伝うことが出来るのだが、この日ばかりはそうもいかない。外に出るのは命取りとなる。
「レン?」
レンが険しい表情をしチョーカーを嵌めるのを眉を寄せ心配そうに見守る、クライス。
「今日は何があるか分からないから、念のため」
すると彼は、
「俺も、ラット抑制剤を打っておいた方がいいかな」
と不安そうに問う。
彼は屋敷にいる間、抑制剤を絶っている。
この屋敷には抗フェロモン仕様が施されている為、外からの影響はない。
レンが発情しない限りラット抑制剤は不要とカイルが判断したためだ。
ラット抑制剤は強い薬な為、命を削る恐れがある。しかもクライスは長期滞在予定者、むやみやたらに使わせたくなかったのだ。
「大丈夫だよ、僕はクライスになら襲われても。番にさえならなければ」
───これが最善なんだ。
最悪の事態さえ防げれば、道はある。
仮に外へ出ることがあっても、独立記念日に外にでるΩはいない。α狩りの最中にフェロモンをまき散らすような行為は、単なる命とりだ。
この国のΩは慎重であり、常にβに守られた存在である。
カイルと執事が屋敷を不在にしてしまったために人手不足に陥り、クライスの祖父母が手伝いを申し出てくれた。
しかし不安しかない。
その予感が的中したのはレンが皆の様子を見ようと、階段下を覗き込んだ時であった。
「ひゃああああああッ」
玄関の方からクライスの祖母の悲鳴が聞こえて来たのは。
「おばあちゃん⁉」
いち早く反応したのは、クライスである。
彼はまるで何かに打たれたように階段を駆け下りた。
「クライスッ! 行っちゃだめだ! クライス!」
慌てて止める、レン。
「クライス様! 来ちゃだめです!」
従者の一人が声を張る。
「おばあちゃんっ!」
レンの位置からは何が起きているのか分からない。
レンも慌てて階段を駆け下りたのだった。
いよいよやって来た、独立記念日。
何度経験しても嫌な日だ。街のところどころに火の手があがり、焦げ臭い匂いに包まれる。
カイルの妹姫が亡くなった後の独立記念日は酷かった。
あの惨状を思い出し、レンは身震いする。
あの日、恐怖に怯えたレンを見兼ねたカイルは、外と断絶するために発情期同様固く門を閉ざし全ての雨戸を締めさせた。
光の来ない部屋の中で、カイルはずっと傍で背中をさすってくれていたのだ。
この日、朝からレンの心はざわついていた。
前日に庭へ投げ入れられた不審物。ここが元第一皇子カイルの屋敷であることを知らない国民はいない。爆発物でも何でもないただの箱だが、明らかに誰かが投げ入れたものだった。
何かの目的があるとしか思えない。
もしかしたら例の事件と関係があるかも知れないと、朝からカイルは警察へいってしまった。執事を連れて。
『お願い、カイル。今日は家に居てよ』
イヤな予感が拭えないレンは、そう言って彼を止めようとしたが、
『警備を頼みに行く』
と言い、担当の刑事に約束を取り付け出かけてしまったのだ。
『戸締りを厳重に頼む』
従者たちにそう告げて。
この屋敷でカイルに仕えているのは、コック、執事、庭師である男性体βの三人と給仕や掃除などをしてくれる女性体βの二人、計五人だ。
カイルは事件以来、城から従者を数名呼び寄せたいと言っていたが、独立記念日までは何処も忙しく希望が叶わなかったのだ。
通常ならばレンとクライスも手伝うことが出来るのだが、この日ばかりはそうもいかない。外に出るのは命取りとなる。
「レン?」
レンが険しい表情をしチョーカーを嵌めるのを眉を寄せ心配そうに見守る、クライス。
「今日は何があるか分からないから、念のため」
すると彼は、
「俺も、ラット抑制剤を打っておいた方がいいかな」
と不安そうに問う。
彼は屋敷にいる間、抑制剤を絶っている。
この屋敷には抗フェロモン仕様が施されている為、外からの影響はない。
レンが発情しない限りラット抑制剤は不要とカイルが判断したためだ。
ラット抑制剤は強い薬な為、命を削る恐れがある。しかもクライスは長期滞在予定者、むやみやたらに使わせたくなかったのだ。
「大丈夫だよ、僕はクライスになら襲われても。番にさえならなければ」
───これが最善なんだ。
最悪の事態さえ防げれば、道はある。
仮に外へ出ることがあっても、独立記念日に外にでるΩはいない。α狩りの最中にフェロモンをまき散らすような行為は、単なる命とりだ。
この国のΩは慎重であり、常にβに守られた存在である。
カイルと執事が屋敷を不在にしてしまったために人手不足に陥り、クライスの祖父母が手伝いを申し出てくれた。
しかし不安しかない。
その予感が的中したのはレンが皆の様子を見ようと、階段下を覗き込んだ時であった。
「ひゃああああああッ」
玄関の方からクライスの祖母の悲鳴が聞こえて来たのは。
「おばあちゃん⁉」
いち早く反応したのは、クライスである。
彼はまるで何かに打たれたように階段を駆け下りた。
「クライスッ! 行っちゃだめだ! クライス!」
慌てて止める、レン。
「クライス様! 来ちゃだめです!」
従者の一人が声を張る。
「おばあちゃんっ!」
レンの位置からは何が起きているのか分からない。
レンも慌てて階段を駆け下りたのだった。
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