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10話『君への愛情が芽生える時』
7 望まれて生を受けた子
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****♡Side・α(クライス)
「ねえ、クライス」
祖母はクライスの胸元に光るロケットを一瞥すると、バッグから手紙と写真の入った封筒を取り出した。
「あなたがそのロケットを欲しがった日のことを覚えているかい?」
ロケットの中には幼き頃の自分と、若き父母が写った写真が入っている。
物心のついた時には、首に下げていて風呂と就寝のとき以外は肌身離さず身に着けていた。
「クライスが三つになったばかりの頃、あなたは父と母に連れられ、βの行商人の集まる市場へいったらしいの」
そこで幼いクライスは行商人の一人が首から下げていたロケットにとても興味を示したのだと言う。
『坊ちゃん、これはねロケットと言って、中に大切な人の写真を入れて置くことが出来るんだよ』
話を聞いたクライスはそれを欲しがったのだ。
驚いたのは父である。
『ぼく、ぱぱとままが大好きなんだ。ぼくも、ほしい。ぱぱとままの写真をいれるの』
父に強請るクライス。
しかしαはそのような装飾品をつけることが無いため、αの統治国家で手に入れることは困難であった。
父がそのことをどう子供に説明しようか迷っていると、二人を見ていたβがポケットから小さな包み紙を取り出し、
『坊ちゃん。これをあげよう』
と言ってクライスにくれたのだと言う。
『しかし、これは誰かへのプレゼントなのでは?』
と父が遠慮すると、
『βの独立国ではいくらでも手に入るものです。どうぞ、坊ちゃんにあげてください』
と言ってくれたのだ。
クライスの父は彼の優しさにとても心を打たれ、代わりにその行商人からたくさんの買い物をしたという。
ロケットに入れるための写真を数枚撮ると、プリントした一枚の写真と自分たち……つまりクライスの祖父母へ充てた手紙を添え、どうか二人へ届けて欲しいとその行商人へ託したのだと言う。
「その手紙がこれだよ」
そこには父の達筆な文字で二人のことを気遣う文面、妻が元気である事が書かれている。
”あなた方の大切な娘を、あなた方から奪ってしまったことをお許しください”そんな書き出しで始まる手紙には、”今日はどうしても良い知らせをしたくてこの手紙を託しました”という、手紙を書くことになった経緯が添えられていた。
きっとそれが一番の本題だったのかもしれない。
”お義父さん、お義母さん。喜んでください。クライスは何十万人に一人という確率でしか授かることのできない【奇跡の子】です”
父はよほど嬉しかったのだろうか。文字が震えていた。
「この手紙を貰った時、本当に嬉しかったのよ。この国ではαの統治国家のことや、αについてよく知っている人は少ない。けれど私たちは娘があの国に嫁いでから一所懸命調べ、学んだわ」
───自分は、本当に望まれて産まれて来た子だったんだ。
「奇跡の子が何を意味するのか、もちろん直ぐにわかったわ」
と、涙を浮かべる祖母。
「産まれてきてくれてありがとうクライス。お前は娘や息子を支える……そして私たちを繋ぐ大切な宝物なんだ」
と、祖父。
カイルに出逢いずっと『βに産まれたかった』と願っていたクライス。しかし今は、αだったからカイルに出逢い祖父母にも会えたのだと思い始めていた。
「俺、ちゃんと生きて帰れるのかな……」
国の父母のことを考えると、余計に恐怖と不安を感じる。
「大丈夫よ、カイル様がきっとあなたを守ってくれるわ。だって、約束したのだから」
「ねえ、クライス」
祖母はクライスの胸元に光るロケットを一瞥すると、バッグから手紙と写真の入った封筒を取り出した。
「あなたがそのロケットを欲しがった日のことを覚えているかい?」
ロケットの中には幼き頃の自分と、若き父母が写った写真が入っている。
物心のついた時には、首に下げていて風呂と就寝のとき以外は肌身離さず身に着けていた。
「クライスが三つになったばかりの頃、あなたは父と母に連れられ、βの行商人の集まる市場へいったらしいの」
そこで幼いクライスは行商人の一人が首から下げていたロケットにとても興味を示したのだと言う。
『坊ちゃん、これはねロケットと言って、中に大切な人の写真を入れて置くことが出来るんだよ』
話を聞いたクライスはそれを欲しがったのだ。
驚いたのは父である。
『ぼく、ぱぱとままが大好きなんだ。ぼくも、ほしい。ぱぱとままの写真をいれるの』
父に強請るクライス。
しかしαはそのような装飾品をつけることが無いため、αの統治国家で手に入れることは困難であった。
父がそのことをどう子供に説明しようか迷っていると、二人を見ていたβがポケットから小さな包み紙を取り出し、
『坊ちゃん。これをあげよう』
と言ってクライスにくれたのだと言う。
『しかし、これは誰かへのプレゼントなのでは?』
と父が遠慮すると、
『βの独立国ではいくらでも手に入るものです。どうぞ、坊ちゃんにあげてください』
と言ってくれたのだ。
クライスの父は彼の優しさにとても心を打たれ、代わりにその行商人からたくさんの買い物をしたという。
ロケットに入れるための写真を数枚撮ると、プリントした一枚の写真と自分たち……つまりクライスの祖父母へ充てた手紙を添え、どうか二人へ届けて欲しいとその行商人へ託したのだと言う。
「その手紙がこれだよ」
そこには父の達筆な文字で二人のことを気遣う文面、妻が元気である事が書かれている。
”あなた方の大切な娘を、あなた方から奪ってしまったことをお許しください”そんな書き出しで始まる手紙には、”今日はどうしても良い知らせをしたくてこの手紙を託しました”という、手紙を書くことになった経緯が添えられていた。
きっとそれが一番の本題だったのかもしれない。
”お義父さん、お義母さん。喜んでください。クライスは何十万人に一人という確率でしか授かることのできない【奇跡の子】です”
父はよほど嬉しかったのだろうか。文字が震えていた。
「この手紙を貰った時、本当に嬉しかったのよ。この国ではαの統治国家のことや、αについてよく知っている人は少ない。けれど私たちは娘があの国に嫁いでから一所懸命調べ、学んだわ」
───自分は、本当に望まれて産まれて来た子だったんだ。
「奇跡の子が何を意味するのか、もちろん直ぐにわかったわ」
と、涙を浮かべる祖母。
「産まれてきてくれてありがとうクライス。お前は娘や息子を支える……そして私たちを繋ぐ大切な宝物なんだ」
と、祖父。
カイルに出逢いずっと『βに産まれたかった』と願っていたクライス。しかし今は、αだったからカイルに出逢い祖父母にも会えたのだと思い始めていた。
「俺、ちゃんと生きて帰れるのかな……」
国の父母のことを考えると、余計に恐怖と不安を感じる。
「大丈夫よ、カイル様がきっとあなたを守ってくれるわ。だって、約束したのだから」
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