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10話『君への愛情が芽生える時』

4 自慢の両親

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****♡Side・α(クライス)

 直ぐに戻ると言っていたカイルは、中々戻って来なかった。
 執事が給仕の者を呼び、入れ違いに出て行ったことから、二人で何処かへ出かけたのだろうとクライスは推測する。

 レンは泣き疲れてしまったのか、ベッドルームで横になっていた。
 いつまでも立っているのは辛かろうと給仕のβ女性に椅子を勧めると、一瞬驚いた顔をした後、礼を言って彼女は椅子に腰かける。

「クライス様は、他のαとは違いますね」
 クライスがぼんやりと通りを眺めていると、彼女は突然そう声をかけて来た。
「お傍に行っても?」
と、彼女。
 クライスは笑みを浮かべると、
「どうぞ」
と言って手を差し出す。
 だが彼女が椅子を持ち上げようとしたので、クライスは立ち上がった。
「気が利かなくて、すみません」
と言いながら。

 クライスは彼女の代わりに椅子を自分の近くへ移動させる。
 てっきりダイニングテーブルのウッドデッキに座るとばかり思っていたからだ。
「ありがとうございます。お優しいのですね」
「女性体はどの性でも、男性体より力が劣るのだと母から教わりました。だから、女性には親切にしてあげるようにと」
 クライスがそう、母の教えについて話せば彼女は驚いた顔をし、
「お母様はとても、素敵な方ですのね」
と感想を漏らす。
「自慢の母です。優しくて、気遣いが出来て。料理は下手だったけれど。お花がとても好きで、よく父と二人で庭に花を植えてました。母の為に」

 Ωの母は、滅多に家に出ることが出来なかった。
 今の自分の状況と変わらないことを思うと、母は本当に幸せだったのだろうかと疑問にすら思えてくる。
 先日、門の外へ出られないレンと一緒に、この屋敷の花壇に花を植えたことを思い出す。蕾がたくさんついていたから、そろそろ咲いているのかもしれない。
 どの国にあっても花は、Ωの心を癒してくれるモノに違いないのだと思った。
「αの方がそんなことをされるなんて、なんだか意外ですわ」
「そう……なのでしょうね。父も少し変わっていましたから」

 もし父が一般的なαだったなら。
 今、自分がこうして、βの独立国に訪れることなどなかったろう。
 一生恋などせず、無味乾燥の人生を送っていたに違いない。そう考えると自分は幸せなのだ。

───例え、近い将来。
 命を落とすことになっても。

 自分は幸せだったと胸を張って言える。
 自分が居なくなった後のことを考えた。愛する母を悲しませてしまうことはとても辛い。だが、きっとこれも運命なのだ。
 クライスは自分を強く保ちながら、祖父母からの手紙が届くことを祈った。

 しかし三日経っても返事が来ることはなかったのである。
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